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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

236話「人員を確保せよ」



「久しぶりだな。ドンドレ」

「これはこれはローランド様、私めのような名を覚えていただいているとは、光栄の極みにごぜぇます」

「ゴマすりはいい。さっそく仕事の話だ。露店を開くことになったから、料理ができる者と接客ができる者……そうだな、料理が四人、接客が六人の計十人。それと護衛も必要だから戦闘に特化した者が二人の全部で十二人ほど見繕ってくれ。わかっていると思うが、全員女で頼むぞ」

「ククククク、さすがはローランド様、一度に十二人も奴隷を購入なされるとは。……少々お待ちを、すぐに奴隷を連れてまいりやす」


 コンメル商会の従業員を雇った時以来だったが、ドンドレ奴隷商会の代表ドンドレは俺のことを覚えていたらしい。こちらの条件を伝えると、ニヤリと笑みを浮かべドンドレはバックヤードへと入って行った。


 しばらくして、ドンドレと共に二十人ほどの奴隷がやってきた。注文通り全員女で能力を確認すると、その中の六人ほどが料理スキル持ちで、十人が接客経験者で、残った四人ほどが荒事に慣れている元冒険者や元傭兵と出ていた。


「ローランド様にお出しできるのは、ひとまずはこれくらいでごぜぇます」

「そうか、なら全員貰おうか」

「ククククク、さすがはローランド様でごぜぇます。すぐに手続きをいたしますが、前回と同じく契約主はそちらのマチャド様に?」

「ああ、そうしてくれ」

「え?」


 ドンドレが連れてきた奴隷全員がこちらの条件に合う奴隷たちだったため、少々定員オーバーではあったものの、人員が不足することを考え、連れてこられた奴隷全員を購入することにした。


 当然だが、俺自身が奴隷の契約主にはならず、今回もマチャドに肩代わりをさせるつもりだ。そのためにこいつを連れてきたのだから。


 一方のマチャドはといえば、いきなり二十人という奴隷を購入してしまったことにも驚きだが、その奴隷すべての契約を自分がしなければならないということに目を丸くさせているようだ。


「ロ、ローランド様? さすがに今回はローランド様自身が契約なさっては?」

「いいや、今回はコンメル商会主導の下で行われる商売だ。商会の代表であるお前が契約主の方が、何かと都合がいいとは思わないか?」

「そ、そうですね。わかりました」


 俺はごねるマチャドにちょっとだけ貴族モードになって有無を言わせぬ笑顔を貼り付けてそう言ってやった。その圧に屈したのか、何を言っても無駄だと悟ったのかはわからないが、諦めたようにため息を吐きながら、マチャドが頷いた。


 それから、二十人すべての奴隷契約を行い、新たに露店を始める労働力をゲットした。契約が終わったタイミングで、ドンドレが奴隷の合計額を提示する。


「では、今回は二十人で大金貨三枚になりやす」

「ならこれで頼む」

「ローランド様、四枚あるのですが」

「それは心づけだ。また世話になるかもしれんからな」


 今回も、提示された金額より多めに支払い、チップ代わりとする。今後も奴隷を買わなければならない状況になるかもしれないため、奴隷商人であるドンドレとは仲良くしておくべきだろうという判断からだ。


「ありがとうごぜぇやす。今後もまた奴隷の入用がございましたら、このドンドレが誠心誠意対応させていただきます」

「その時はよろしく頼む」


 そうドンドレに伝え、俺とマチャドの二人は購入した奴隷たちを引き連れて奴隷商会を後にした。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ……くぅ。


 奴隷商会を出てしばらく歩いていると、突然腹の虫が鳴り響く。当然それは俺のものではなく、隣にいるマチャドに視線を向けるも、すぐさま首を横に振り否定の仕草をしてくる。


 そんなやり取りをしていると、下品な笑い声と共に奴隷の中の一人が口を開いた。


「ギャッヒャッヒャッヒャッ、すまねぇ。腹が減っちまって、オレの腹の虫が我慢できなかったみてぇだ」

「お前は?」

「オレは元傭兵のカリファってちんけな女さ。あんたが噂の冒険者様だろう? オレたちに飯を恵んでおくれよ」


 カリファと名乗った女は、そう言いながらニヤリと口角を上げながらしなを作って妖艶なポーズを取る。確かに、お世辞にも上品とは言えない言動はまさに盗賊か傭兵のそれだが、それにしてもオレっ娘は初めてみたな。


 二十代前半くらいの赤いぼさぼさの短髪に吊り上げった鋭い目の奥には、何かを企んでいそうな不安になるような雰囲気を持っている。それとは対照的に引き締まった体と貫頭衣の上から見え隠れする大きな二つの胸部装甲は、彼女の言動とは相反するようにとても妖艶さを醸し出している。


 それが証拠に、彼女の姿を見たマチャドが生唾をゴクリと飲み下している。……モチャの時もそうだったが、こいつ大丈夫だろうか?


「何をふざけたことを言っているのですか? 私たちはご主人様に買われた身。それなら、私たちにそのような我が儘を言う資格はありません」


 そんなことを考えていると、またしても奴隷の中の一人が口を開く。この女は十人いる接客経験者の内の一人で、名前をシーファンという。二十代後半のブロンドの長髪に、カリファとは対照的なおっとりとした雰囲気を持つ垂れ目の女性だ。


 彼女もまたカリファに負けず劣らずの胸部装甲を有しており、身に着けている貫頭衣の胸部から押し上げる二つの膨らみが、自己を主張するが如く存在感を放っている。


 年齢的にもいくつかの主人を渡り歩いており、その奉仕の心は筋金入りとなっているらしく、“奴隷は奴隷らしく主の思うがままに”という価値観を持っているようだ。


「はん、世の中長い物には巻かれろってね。オレは利用できるものは何でも利用するつもりだ。奴隷になってもそれは変わりゃあしねぇよ」

「何を言っているのですか! 奴隷なら分相応に奴隷らしくするべきです。これだからならず者の傭兵は」

「あんだとてめぇ! お前こそ、奴隷という落ちるとこまで落ちた穢れた女じゃねぇか!!」

「っ!? その言葉聞き捨てなりません! 取り消しなさい!!」

「へっ、やなこった」


 新しい出会いは必ずしもいいことではない。新しい環境になれば、当然だが自分の苦手とするタイプの人間と出会うこともままある。今回はそれが奴隷の間で起こってしまったという訳で、どうやらカリファとシーファンは根本的に馬が合わないらしい。


 全員購入した手前、今更どちらかを返品するつもりもなく、できれば仲良くしてもらいたいと思っていると、両者の頭に拳骨が落とされる。それは俺の拳ではなく、一人の奴隷のものだった。


「いい加減にしないか。お前たちがそうして喧嘩をしている間も、ご主人様の貴重な時間を奪っていることに気付かないのか」

「そ、そうだった。すまねぇ」

「も、申し訳ございません」

「ご主人様、二人もこう言っておりますので、何卒ご容赦いただけないでしょうか。二人については私が見張っておきますので」


 二人に拳を落とした女は、見るからに銀幕のスターのような男装がよく似合いそうな見た目をした麗人だった。青色のショートヘアーに水色の瞳を持ち、背もすらりと高く俺の顔が彼女の胸辺りにまであるほどだ。だが、胸部装甲は少々心許なく、慎ましやかな膨らみを携えており、少しの物足りなさを感じた。


「お前は?」

「私はメランダ。そこにいるカリファが所属していた傭兵団の副団長を務めておりました」


 確かに、ステータスもそうなっているが、枠的には料理人枠になっている。戦闘もできるから戦う料理人というところか。


「と言っているが、どうするんだ? ご主人様?」

「え? ぼ、僕ですか!?」

「こいつらの主人はお前だろ? 俺はこいつらとは契約してないからな」


 俺がそう話を振ってやると、マチャドが焦ったように慌てだす。そして、奴隷たちの視線がマチャドに向きますます焦りの表情を浮かべる。何か言おうとして、苦し紛れに出た言葉は次の通りだった。


「ま、まあ。これから、気を付けてくれれば問題ないから」

「ありがとうございます」

「さて、そんなことよりも、まずは腹ごしらえだ。行くぞ」

「それはないですよーローランド様」


 マチャドの声が響き渡る中、俺は奴隷たちを引き連れて食事処へと向かった。

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