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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

232話「少女たちの思い」



「何か仰いましたか?」


 サリヤの一言に、場の空気が変化していくのがわかった。その場にいた人間にとって彼女はそれだけのことを言ったのだから。


 今回のお茶会の目的は、サーラたち他国の姫君との親睦を深めるという目的で開かれている。その主賓の前でそういったことを口にするというのは、あまりにも礼を失する行いだ。


 そんなことは王妃であるサリヤも知らない訳はないはずなのだが、サーラたちが魔族ということを知っているがためにそういったことをしてもいいという考えなのか、それとも別の意図があるのかはわからないが、ともかくあまりに唐突な言葉に俺は聞こえなかった振りをして彼女に今の言葉を訂正する機会を与えた。


「ティアラと婚約する気はないかと言ったのよ?」


 こちらの問いの意味も理解しているにもかかわらず、敢えて言葉を重ねてきているということは、本気で俺とティアラを婚約させる気なのだろうということは伝わってきた。だが、サリヤの言葉に待ったを掛ける者たちが現れたのだ。


「なら、うちのファーレンともどうかしら?」

「そうです。年齢的にも釣り合いが取れていますし」

「であれば、うちのローレンともいかがかしら?」


 そう切り出してきたのは、ローゼンベルク家のミラレーンとマレリーファ、バイレウス家のシャーリーンだ。サリヤの言葉に呼応する形で声を上げた形にはなるが、淀みなく言葉が出てきたところを見るに、頭の中でそういった考えが最初からあったことが見て取れた。


 突然の婚約の申し出にどうしたものかと思考を巡らせていると、意外にも声を上げたのは名前が挙がった少女たちであった。


「お母様、何を馬鹿なことを言っているのですか!」

「馬鹿とはなによ。ティアラだって彼と婚約したがっていたじゃない」

「確かに、その気持ちは今もあります」

「だったら」

「でも、ローランド様は誰かに言われたくらいで考えを変えるほど弱い方ではありません!」


 サリヤの言葉を咎めるようにティアラの声が響き渡る。そして、その言葉が後押しとなって他の少女たちにも伝播する。


「御婆様、お母様。これは私自身が成し遂げなければならないこと。邪魔立ては無用です」

「でも」

「お母様? 私に二度同じことを言わせないでください……。御婆様もいいですね」

「「……」」


 そう言い切ったファーレンの顔は笑顔だが、その笑顔は有無を言わせぬほどの威圧感を持っており、明らかな怒気が含まれていた。それは“余計なことをするんじゃない”という言葉を多分に含んでいた。


「お母様もです。私たちはあの方が迎えに来てくれるまで待つと決めたのです。余計なことをしないでください」

「私は貴女のためを思って――」

「それが余計だと言うのです。私たちはいつまでも子供じゃありません!」


 三人の少女が自分の家族が犯した愚行を諫める形で非難する。そのタイミングで俺はパンと手を叩いて注目を集める。


「彼女たちが私の代わりに貴方がたを諫めてくれたところで、お茶会を再開したしましょうか? ああ、一つだけ言っておきますが、私は彼女たちに何も言ってませんから。あくまでも今彼女たちが取っている行動は、彼女たちの意志で取っているものだということをご理解いただきたい」


 彼女たちのお陰で、なんとか取り繕うことができたが、それがなかったら俺は彼女たちと婚約させられてしまったかもしれない。尤も、そうなったらそうなったで二度とこの国に足を踏み入れなければいいだけの話なので、まったくといっていいほどダメージはない。


「それにお母様、そんな強引なやり方だとローランド様は他国に逃げてしまいますわよ。あの方にとってこの国でなければならないという執着ようなものはあまりないのですから」

「ふっ、わかっているじゃないか」


 そうだ。いざとなったら、こんな国を捨ててまた他国で活動をすればいいだけの話なのだ。未だ俺がシェルズ王国を拠点としているのは、家族がいるということと、今まで培ってきた拠点があるからというそれだけの理由だ。


 その拠点も、最近では俺が居なくても問題なく機能するようになってきているし、寧ろ俺がいては邪魔になってしまう可能性も出始めてきている。ここは俺の手から離れて自立させてみるというのも一つの手なのかもしれない。


「だが、ティアラよ。サリヤの言葉は、母として子を心配する思いが含まれているということを忘れるな。……尤も、今回は別の目的で動いたようだが」

「ええ、すべてわかっております。私の母親ですから」


 そう言いながら、俺とティアラはジト目をサリヤに向ける。その視線を向けられたサリヤは、居心地が悪そうに戸惑っていた。先の件に関して、娘のためを思ってといういかにも子を心配する良き母親の言葉のようだが、その本音はまったく異なる。心の中を覗いたわけではないが、彼女の目的は十中八九今回出されたお菓子だ。


 今回俺が用意したお菓子の品質は、かつて地球で提供されていたクオリティに近しいものばかりを出している。未だ中世ヨーロッパ程度の文明力しかないこの世界の料理技術は、まだまだ発展途上でしかなく、一流と呼ばれている料理人ですら、地球にいた一般的な家庭料理を作る主婦にすら劣っている。


 そして、今回そのお菓子を食べたサリヤは、いつでもそのお菓子を食べたいと考えてしまった。その結果、彼女が取った行動は、俺を王家へ引き込むという方法だ。


 幸いなことに、国王との間に二人の子を授かることができた彼女は、言うなれば有力な人間を引き込むことができるカードを二枚持っている状態とも言い換えることができる。今回その一枚のカードであるティアラを使い、俺という有力者を王家へと取り込もうと画策したのだ。


 質の高い料理を作ることができ、尚且つ魔族を撃退しミスリル一等勲章を授与されるほどの人材ならば、今回の事がなくとも是非取り込みたいと考えるのが一般的な王侯貴族の考え方だ。


 今回はたまたまお菓子という理由だったが、いずれにしろ俺が有力者だと理解している以上、何らかの形で彼女がアプローチしてきたことは想像に難くない。


「だ、だってしょうがないじゃない――」

「「人間だもの」」

「……?」


 うっわ、ネタが被りやがった。サリヤが地球の某有名詩人の言葉に似たことを言おうとしたので、思わず口に出してしまったが、ここにもそのネタを知っている人物がいた。そう、ナガルティーニャである。


 ナガルティーニャは皿に残っていたお菓子をすべて平らげると、サリヤに向かって忌憚なき意見を述べた。


「さっきから聞いておれば、まるっきり自分のことばかりではないか。小娘の気持ちがローランドきゅんに向いていたから大事には至らずに済んではいるが、もし望まない婚姻だったら悲惨以外の何物でもないね」

「関係のない人間は黙っていなさい。大体、あなたは何者なのですか?」


 どうやら、厨房から会場に移動した後、なんの挨拶もなく居座ったようだな。ボロを出さないようにするためとはいえ、挨拶位はさせておくべきだったか?


 そんなことを考えている間も、ナガルティーニャとサリヤの睨み合いは続いており、ここで奴の爆弾発言が飛び出した。


「何者かってそりゃあ決まっている。あたしはローランドきゅんの恋人――」

「モンゴリアンチョォーップ! からのぉ~チョークスリーパー落とし」

「ぐぼぁっ、はがっ、ロ、ローランドきゅん……しま、締まって、しまぁ……」


 俺は奴が妙なことを言おうとしたため、即座に懐に入り奴の首の付け根目掛けモンゴリアンチョップを炸裂させる。奴が悶絶した隙を突き、背後に回り込むと、そのまま両腕を使って奴の首を極めに掛かる。


 一瞬にして奴の意識を刈り取った俺は、そのまま奴を地面に横たえさせ、何事もなかったかのように場を取り繕う。


「では、引き続きお茶会をお楽しみくださいませ」

『いやいやいやいやいや』


 俺の言葉にその場にいた全員が同じ文言で突っ込みを入れる。それを見かねたサリヤが代表して俺に詰め寄ってきた。


「ローランドくん。その子があなたの恋人というのは本当なのですか?」

「そんな訳がない。例え天地がひっくり返っても、天変地異で世界が滅んでも、神々が戦争を起こしてラグナロクになろうとも、それは断じてあり得ない」

「そ、そこまで言わなくてもいいのではなくて? はぁ、なんだかこの子が不憫に思えてきたわ」


 俺の圧倒的な否定を聞いたサリヤがそのようなことを言ってくる。何故だ? 俺はただ正直に口にしただけだぞ?


 俺と奴が恋人でないということは伝わったようだが、まだ納得のいかないことがあるようで、さらに彼女の追求は続く。


「じゃあ、彼女は一体なんだというのです?」

「ただの知り合いだ」

「ただの知り合いを私たちが出るようなお茶会に参加させたのですか?」

「そういうことになるな」

「……」


 俺のごまかしに「そういうことにしといてあげましょう。今はね」とサリヤの含みのある言葉を聞き流しながら、俺は床に置いたナガルティーニャを抱き上げる。このまま放置するわけにもいかないため、一度ベッドのある客室へと連れて行くことにする。


「私は彼女を寝室に連れて行きますので、引き続きお茶会をお楽しみください」


 そう言いながら、俺は「その女は一体誰だ?」という追及の視線から逃げるように会場を後にした。

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