ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
226話「お菓子作り」
「とりあえず、まずはスイートポテトからだな」
厨房に立った俺は、早速お茶会に出す予定のお菓子作りを開始する。最初に手を付けたのは、今までに作ったことのあるお菓子であるスイートポテトとプリンを作っていく。
一応ルッツォにもこの二つのレシピは渡してあるのだが、俺の調理を何故か食い入るように見ていた。
「さすがの手際ですな」
「慣れれば誰でもできることだ」
ルッツォのお世辞にそう返しながら、次に作る予定のお菓子を考える。最近は新しいお菓子を作っていなかったため、ここでもう一つレパートリーを増やしておきたい。いろいろ考えた結果、新しくホットケーキとクレープを追加することにする。
まずホットケーキだが、小麦粉と卵は確保できているがベーキングパウダーがこの世界では手に入らない。そこで考えたのが、少しでも食感を良くするため小麦粉をふるいにかけるという方法だ。
元々小麦粉を使ったお菓子作りにおいて必要な工程ではあるのだが、このふるいを二回三回と入念に行うことにより、食感や味なとの仕上がりが良くなる。今回はこれを利用することにする。
「ローランド様、それは?」
「これは小麦粉をふるいにかけているところだ」
「ふるいとは?」
どうやらこちらの世界にはふるいにかけるという工程自体がないようで、ルッツォが不思議そうに俺の手元を覗き込んでくる。
仕方がないので、一度もふるいにかけていない小麦粉と三度ふるいにかけた小麦粉を使ってホットケーキを作って食わせてみたところ、明らかにふるいにかけた方が食感や味に差が出たことがわかったようで、子供のようにはしゃいでいた。
「素晴らしいです。ふるいにかけることでここまで差が出るとは」
「こういったお菓子作りにおいては必須の工程だから覚えておくように」
そう言いながら、今度はクレープを作っていくことにする。ホットケーキとクレープは薄さが異なるだけでタネが同じなので、そのままフライパンを使って薄く伸ばしたタネを焦がさないように焼いていく。
きつね色になりかける頃合いにフライパンから引き揚げ、カットした果物と一緒にセイバーダレスで入手した牛乳を使ってあらかじめ作っておいたホイップクリームをトッピングしていく。
本来であれば、生クリームを使いたいところであるが、この世界でそれを望むのは贅沢なため、一旦はホイップクリームで我慢することにする。いずれは生クリームを作ってやるがな。
様々な果物を使ったクレープが出来上がる度にルッツォが感嘆の声を上げ、仕舞いには「私は世界一の幸せ者です。料理人としてこれだけの料理に出会えるのですから」と俺を拝み始める始末だ。
確かにこの世界の料理はレパートリーが少なく、その数少ないレパートリーも料理人個人の特別料理として秘匿される傾向にある。それ故に、料理人が共通で把握している料理のレシピの数自体が少なく、新しくレシピを作ったところで、それは料理人のオリジナルのレシピとして秘匿されてしまうのだ。
だが、俺の場合そういったレシピを惜しげもなくルッツォに教えているため、彼にとっては様々な料理を知ることができる機会があるということなのだろう。
それから、果物を使ったフルーツポンチを作り上げる。調理法としては、水の中に砂糖を加えそこに果物を入れる。時間経過の魔法で時短を行い、果物の風味が染み込んだ汁としてフルーツポンチの汁の代用とする。それくらいだ。
特に難しい工程はないが、砂糖の量を間違えるととんでもない甘ったるいフルーツポンチができてしまうので、果物の糖分で甘さを補いつつ、程よい感じに仕上げなければならない。
「ただ果物を混ぜるだけではないのですね」
「混ぜる果物によっても風味や味わいが変わるから、季節ごとに旬な果物を使ったフルーツポンチもできるな」
「今度試してみます」
などと俺から様々なことを吸収しつつ、お茶会に出す料理の試作をしていたのだが、いい加減に鬱陶しくなってきたので、厨房の扉に向かって叫ぶ。
「そこで覗いている奴ら、出てこい!」
「申し訳ございませんローランド様、止めたのですが」
そこにいたのは、メイド長ミーアを筆頭とする女性陣の使用人だった。甘いものに目がない女性にとって、この光景は我慢ができない様子で仕事を忘れて厨房の外から様子を窺っていたようだ。
徐々にその数が増えていたことは索敵でなんとなくわかっていたのだが、まさかメイド長までが一緒になって厨房を覗くとは思わなかった。スイーツの魔力とはここまでに人を惹きつけるものなのだろうか?
とにかく、試作品のお菓子は一通り完成したが肝心の味見についてはまだ終わっていないものもある。ちょうど彼女たちもいることだし、毒見役ならぬ味見役となってもらおうじゃないか。
「ミーア。使用人全員を食堂に集めてくれ。今からお茶会に出すお菓子の試食会をする」
「は、はいっ、畏まりましたっ!」
心なしか嬉しそうな声色で返答する彼女に内心で苦笑いを浮かべつつ、人数分のお菓子と紅茶を用意する。紅茶は王都で手に入る最高級の茶葉に俺が手を加えて、地球で言うところのアールグレイ風の紅茶に仕上げており、そこに牛乳と蜂蜜を加え、ロイヤルミルクティーな紅茶を再現した。
俺がミーアに指示を出してからものの三十分で全員食堂に集結する。そんなに楽しみだったのか、はたまた女性陣の圧力により迅速に男性陣が終結したのかはわからないが、いつもこれくらい動いてほしいものだ。
「では、これよりお茶会に出す予定の紅茶とお菓子の試食会を始める」
「ローランド様、配膳をお手伝いいたします」
「頼む」
ストレージに保存しておいたお菓子をテーブルに置き、メイドたちがそれぞれの席へと配膳していく。ミルクティーについては俺の手で一つ一つ入れ、使用人たちに配り歩いた。
主人自ら給仕させることに恐縮していたが、すぐに目の前に並べられた見たこともないお菓子に目を輝かせていた。特にモチャに関しては、指を咥えてまだ食べられないのだろうかといった様子で、思わず笑ってしまった。
「では、食べてみてくれ」
俺の合図を皮切りに、使用人たちが待ってましたとばかりにお菓子に手を付け始める。俺も自分の舌で確かめるべくお菓子一つ一つを吟味していく。
まずはスイートポテトだが、これはいつも食べているので味に問題はない。舌触りを滑らかにするために、使用しているさつまいもを何度か漉し、さらに蜂蜜もふんだんに使用することでコクのある甘みと滑らかな舌触りを再現することに成功している。
続いてプリンは卵と牛乳と砂糖というシンプルな材料を使っているので、味自体もそれほど複雑なものではなくシンプルだ。ただし、盛り付けに果物の盛り合わせとホイップクリームを使用した仕様となっているため、どちらかというとプリンアラモードに近い仕上がりとなっている。
次のホットケーキは、やはりふるいにかけておくことが重要だったようで、柔らかな食感と仄かな甘みが口の中に広がる。蜂蜜を使ったシロップも上々で、まさに前世で食べていたホットケーキと何ら遜色はない。
クレープも同じく、薄い生地皮の中に色とりどりの果物とホイップクリームが組み合わさっており、様々な味を楽しむことができるため、こちらも申し分ない。
「美味しいです」
「もぐもぐ、最高」
「こりゃあうめぇ!」
「はむはむはむはむはむ……」
各々が口々に美味しいと称賛する中、約一名だけひたすら食べ続ける者もいる。それは言うまでもなくモチャであり、あの細く引き締まった体のどこに入っているのかはわからないが、一定のペースで淡々とお菓子を頬張っている。
「どうだモチャ、美味いか」
「コクコクコクコクコク」
「そ、そうか。それならいいが」
口の中一杯に頬張る姿は、まるでリスやハムスターを彷彿とさせ、俺の問いに小刻みに首を縦に振る姿もまた小動物らしい愛らしさを感じさせる。
他の者からも概ね好評をいただいたが、特にソバスやミーアの年長者組はロイヤルミルクティーが好評だった。なんでも、優しい口当たりがお腹に優しいとのことらしい。
自分の口と他の者の意見からこれでお茶会に出すお菓子は問題なしと判断した俺は、次の行動に移ろうとしたところで、先ほどから傍に立っていたモチャに服の裾を引っ張られた。
「なんだ?」
「……まだ食べ足りないですのん」
「……」
なんということでしょう。使用人たちに用意していた分のお菓子はそれぞれ二十人前はあったはず。十人前後に配ったとしても、まだ六、七人前は余るはずなのだが、その余りもいつの間にか無くなっていた。
おかわり自由と伝えていたため、使用人の何人かがおかわりしていたのを確認していたが、一体いつモチャがおかわりしたというのだろうか。モチャ、恐ろしい子。
「働かざるもの食うべからずだ。それに食べ過ぎは体に毒だからな」
「わかりましたです。働くですのん」
モチャの件があったものの、これでお茶会に出す予定のお菓子が決定した。後のことはソバスたちに任せ、俺は当日出す予定のお菓子を量産することにする。
それから、各貴族家の力を借りてすべての準備が整うまで三日を要したが、なんとかお茶会をすることができるところまで持っていくことができたのだった。
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