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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

225話「お茶会に向けて4」



「さて、次は準備だな」

「ぶぅー」

「ん?」


 王都の屋敷に戻った俺は、お茶会の準備をするため執務室から出ようとしたところ、妙な効果音が響き渡った。よくよく見てみると、そこには膨れっ面をしたナガルティーニャの姿があり、何かこちらを責めるような視線を向けてきている。


「なんだその顔は? 腹でも減ったのか?」

「ローランドきゅん、なにか楽しいことをやろうとしているみたいだね。このあたしという者がありながら、他の女の子とイチャコラするつもりなんだね!?」

「お前は何を言っているんだ?」


 まるで見当違いのことを宣う彼女に、俺は呆れを通り越した蔑みの視線を向ける。その視線を受けて「ああ、何だかゾクゾクする」という奴の妄言を黙殺し、俺は現実というものを教えてやった。


「そもそも、俺とお前はそういう関係にない。だから、俺が他の女とどうこうしようとも咎められる理由はないはずだ」

「むぅー。好きな男が他の女と仲良くしている女の子の気持ちを察してほしいんですけど?」


 そんなことを言われても俺の知ったことではない。大体、今回は貴族や王族を客とするお茶会であって、俺が女の子とそういうことをする場では断じてない。尤も、お茶会の面子を見ればひと騒動ある可能性は否めんが……。


「決めた」

「何をだ?」

「あたしもそのお茶会に参加す――」

「ダメだ」

「なんでさ!? いいじゃないか減るもんじゃなし!!」


 ナガルティーニャの言葉を遮って、俺は彼女の提案を即座に却下する。今回は魔族の姫君のサーラとサーニャとの親睦を深めるため、人間の姫君であるティアラが俺に懇願する形で、このお茶会が催されることになったというのがそもそもの発端だ。


 それ故に、何の関係もないナガルティーニャに出てきてもらっては話がこじれる可能性がある。ましてや、お茶会の参加者の中に魔族が混じっている以上、魔族にとって厄災とまで言われている彼女が参加するのはあまりよくはないだろう。


「やだやだやだやだやだ! あたしもお茶会に参加するんだ!!」

「ガキかよ」

「体年齢だけなら十六歳だ」

「この世界の基準なら成人してるじゃないか!」

「ともかく、あたしも参加したい。ローランドきゅん、なんとかしてよ!!」


 彼女の普段の言動を見ている身としては、珍しく切実な表情を浮かべながら懇願してくることに内心で意外に思いながらも、俺は脳内で思案を始める。


 そもそも、今回の一件で彼女には世話になったという事実に変わりはない。ヴェルフェゴールの実力から見て俺と五分であることは間違いなく、あのまま戦っていれば苦戦は必至で、下手をすれば俺が死んでいたかもしれない。


 そればかりか、周囲の地形も原型を留めることはなく、城などももちろん跡形もなく消え去っていたことは想像に難くない。


 それをあんな容易くどうにかしてしまったことに、彼女に対して少なからず嫉妬の感情を覚えていたのかもしれない。


「……やれやれ、これが若さ故の過ちというやつか。久しく忘れていたな」

「ローランドきゅん?」


 人生二周目の俺にとって、前世の年齢を足せば軽く齢八十は超えている。だが、今生だけならまだ生まれて十五年も経っていないガキでしかない。それに彼女にとって、数百年もの間人との接触を断っていた身であることに間違いないのだから、こういったイベントに参加してみたいという気持ちになるのも当然の帰結というものだ。


「いいだろう。参加を認めてやる」

「本当かい!? やったぁー」

「ただし、条件として魔族側にも人間側にも、お前が厄災の魔女や大賢者のナガルティーニャであるということを悟られてはいけない。それは絶対条件だ」

「わかったよ。……これでローランドきゅんに寄ってくる羽虫に対処できる。クククク……」


 何か良からぬことを企んでいそうな顔をしていたが、邪魔になりそうならアイアンクローとチョークスリーパーをかまして落としてやればいい。あとはDDTでフィニッシュだ。


「じゃあ、あたしは街で散歩でもしてくるよ」

「待て、お前お茶会用のドレスは持っているんだろうな?」

「ほへ?」


 とりあえず、ナガルティーニャもお茶会に出られることが約束されたことで、散歩がてらに街へと繰り出すと宣言して部屋から出ていこうとするが、肝心なことを聞きそびれていたので、彼女を問い質す。


 俺の問いに間抜け面で呆けるナガルティーニャに対し、これはドレスは持っていないと判断した俺は「今すぐお茶会用のドレスを作ってこい」と言って、彼女を送り出した。


 改めてナガルティーニャについてはこれで大丈夫だろうということで、次に各使用人たちの進捗状況を確認するために見て回る。誰もが初めての一大イベントに浮足立っているようで、進捗状況についてはあまり進んではいなかったが、ここであることを思い出したので、使用人に指示を出していたソバスを捕まえて聞いてみた。


「ソバス。モチャはどうしたんだ?」

「はい。ローランド様が居なくなったと同時に、情報収集のため飛び出していきました。未だに戻っておりません」

「そうか……【メッセージ】」


 ソバスの話では、俺が魔法陣で魔界に飛ばされて居なくなったことが明るみになると、すぐに屋敷を飛び出していったらしい。おそらくは俺を探しに行ったのだろうが、元暗殺者のモチャとはいえさすがに魔界まではその索敵能力も意味はなかったようだ。


 俺は特定の人間と念話を通じて話ができる魔法【メッセージ】を使い、モチャを呼び出した。


『おい、モチャ。一体どこをほっつき歩いているんだ? さっさと戻ってこい』

『こ、この声はご主人様ですのん! どこにいるですのん!?』

『ちょっと事故が起きて一週間ほど留守にしていただけだ。それよりもどこにいる?』

『オラルガンドですのん』


 モチャの話では、俺が居なくなった最初の四日で王都のすべてを見終わった後、過去に俺が拠点としていたオラルガンドの方に足を運び、探索していた最中だったようだ。


 そんなことよりも、モチャの恐ろしいのはこの広大な敷地を誇る王都の街を僅か四日で索敵してしまい、しかもすでにオラルガンドにも手を伸ばしているところだろう。


『とにかく、今そっちに迎えに行くからそこから動くな』

『了解ですのん』


 そう彼女に伝えると、俺はメッセージを解除しソバスに「モチャを迎えに行ってくる」と伝え、モチャがいるオラルガンドへと瞬間移動する。


「ん? ここは……」

「ご主人様!」

「おぶっ」


 瞬間移動してみると、そこは見慣れない場所だった。ここは一体どこなのかと辺りを見回していると、突如として視界が真っ暗になる。


 何事かと顔を上げてみると、どうやらモチャが俺の頭を抱き込んでいたようで、彼女の無表情ながらも嬉しそうな顔がそこにあった。モチャの柔らかな感触を感じながらも、事情を聞くために一旦彼女から離れる。


「それでなんでこんなところにいたんだ? 見たところ地下道のようだが」

「人を探す時は、まず地下から探すですのん」

「まあいい。とにかく、王都に戻るぞ」


 こんな場所にずっといるわけにもいかないため、俺は瞬間移動ですぐに王都の屋敷へと戻った。


 屋敷に戻ると、すぐにモチャをソバスに任せ、俺は一度厨房へと足を運ぶ。厨房では、お茶会に出すお菓子をどうすべきか悩んでいるルッツォの姿があり、真剣に悩んでいる。


「どうしたものか」

「やっているようだな」

「ローランド様」


 やはりお茶会といえば、名前の通りお茶を飲むということであるため、お茶が大事だ。だが、何と言ってもお茶請けであるお菓子も重要となってくる。


「どのお菓子を出すべきなのか、なかなか決まりませんで……」

「なら、俺と一緒に考えてみよう」


 こうしてルッツォと共に、お茶会に出すお菓子作りが始まった。

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