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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

219話「ギャグと事後処理」



「さて、お邪魔虫はこれでいなくなったことで、改めて久々にローランドきゅん成分を補給しよ――げぼらっ」

「何を気持ちの悪いことを言っているんだお前は」


 ヴェルフェゴールを亜空間に閉じ込めたナガルティーニャは、思わず顔を顰めてしまいそうなほど気持ちの悪い発言をする。あまりに気持ちが悪かったため、思わず彼女の鳩尾に拳を突き立ててしまったが、これも大して効いてはいないだろう。


 それでも、何もせずにただ睨みつけたら、それはそれで「ああ、このショタから繰り出される蔑みの視線が」などとトリップし始めることを俺は理解しているため、ただシンプルに突っ込みをする意味で殴るという選択肢に落ち着いたのだ。


「さ、さすがは我が弟子。懐に入ってから拳が飛んでくるまでの一連の流れに無駄がなかった……」

「そんなことはどうでもいい。俺の楽しみを邪魔して、一体何しに来た?」


 今回の一件でナガルティーニャに話を通しておかなければならないと考え、こちらから連絡をするつもりではないた。だが、いきなりの急展開に彼女に連絡をする暇がなかったがために、まだこちらの事情を話してはいないのだ。


 にもかかわらず、偶然とは言い難い絶好のタイミングで現れ、俺がヴェルフェゴールと戦う前に奴を始末したことを鑑みれば、彼女が今回の一件を知っていたのは明白であり、ヴェルフェゴールと俺が本気の戦いをする前にそれを止めたかったのだと容易に判断できる。


「お前、今回のこと……いや、俺のことをずっと見てやがったな」

「ぎくっ、な、何のことを言っているのかわからないのうー。あたしはたまたま――」

「白を切るならそれでいいが、もう二度と口を利いてやらんからな」

「すみません。ずっと見てました。普段もたまに覗いてます。それでたまにベッドで楽しんじゃってます」

「そこまでは聞いとらんわ!!」


 俺の言及にとぼけようとするナガルティーニャに、彼女にとって致命的な一言を言い放ってやると、すぐさま頭を下げてきた。惜しむらくは、二百五十歳を超えた女性の嗜好を垣間見てしまったことだろう。人で勝手に楽しんでんじゃねぇよ。


 そんなどうでもいいやり取りを行っていると、サニヤを抱えた現魔王のベリアルが近づいてきた。どうやら、ナガルティーニャがサニヤの体からヴェルフェゴールを引き剥がした時に、意識を失って落下しそうになっていた彼女に近寄り救出していたようだ。


「子供がこんな状態になっているのに何もしてなかったなんて、バカな親を持った子供は不幸だと思わないかい? 魔王ベリアル」

「……」


 そんなベリアルにナガルティーニャは辛辣な言葉を浴びせ掛ける。痛いところを突かれ、眉を寄せるベリアルに変わって俺がナガルティーニャの頭にチョップを落とす。


「いだっ。ローランドきゅん、な、なにをするんだ!?」

「結婚も出産も経験してない喪女に、魔王のことをとやかく言う筋合いはない」

「ぐはっ。さ、さすがはローランドきゅんだ。今のはかなり効いたぜ……」


 俺の反論に、無い胸を押さえながらそんなことを言うナガルティーニャを尻目に、俺はベリアルにフォローを入れておく。


「ロリババアがすまんな。こいつには後で俺から言っておく」

「い、いや構わない。魔女の言うことは事実であることに変わりない。我は娘の異変に気付いてはいたが、何も行動に移さなかったのだからな」


 そう言うと、ベリアルは抱きかかえていた娘の顔を覗き込みながら、悲しそうな顔をする。自身が行動を起こさなかったことを悔いている後悔に満ちた顔をしながら、ベリアルはそっとサニヤの前髪をさらりと撫でた。


「んっんん……こ、ここは?」

「起きたかサニヤ。どこか怪我はないか?」

「いえ、どこも怪我はしていません」

「そうか、良かった」


 目を覚ましたサニヤを心配し、ベリアルが優しく問い掛ける。そういうところは父親なのだろうと彼らのやり取りを見守っていると、またしてもあの喪女がしゃしゃり出てくる。


「今更親ぶってもねぇ? 遅いんだよねぇ」

「……」

「そんなんだから、いつまで経っても強くなれな――ふぃふぁい! ふぉふぉら、ふぉーふぁんふぉふぅん、ふぁにをふるんふぁ!?(いたい! こ、こら、ローランドきゅん、なにをするんだ!?)」

「お前という奴は救いようのない人間だな。お前には人この心がないのか? やはり人の形を取った化け物だなお前は!」


 ナガルティーニャの心無い一言に、俺は彼女の頬を引っ掴んで横に引っ張る。そのせいで何を言っているのか理解できなかったが、そんなことはお構いなしに俺は彼女を批判する。


 彼女は彼女で俺にほっぺたを抓られながらも「ふぃふぁいふぃふぁい(いたいいたい)」と抗議するが、ベリアルが受けた心の傷の方が重いということを知りやがれとばかりに、俺はほっぺを抓る力を強めていく。


 それにコイツがその気になれば、俺の手を振りほどいて反撃することだって十二分に可能なのだ。それをやらないということは、こいつにとってこの状況は命を脅かされる様な危機的なものではないということなのだろう。


 なにせ、少なく見積もっても彼女ステータスは【超解析】で見ることができないことを鑑みれば、間違いなくSSSSF以上、下手をすればSSSSS+という前人未踏の領域にいる可能性もありえる。


 一体どれだけの期間修行をすればそれだけの高みに立つことができるのか、それは今の俺には計り知れないが、必ず追いつき追い越して見せる。じっちゃんの名前に賭けはしないが……。


「ふぅー。あぁ痛かったぁー」

「もうお前は喋るな」

「じゃあチュウしてくれたら黙ってあげ――ふごっ」


 奴が何を言おうとしたのか瞬時に理解した俺は、すぐさま奴の顔を掴み上げるとそのままアイアンクローに持っていく。徐々に手に力を入れつつ、頃合いを見計らってそのまま奴を城の地面に叩きつけた。


 いきなり投げられたことに対処が遅れた奴は、そのまま地面に埋まり、そのまま動かなくなった。


「とりあえず、あの馬鹿は放っておいて一度魔王の部屋に戻ろうか」

「あ、ああそうだな」

「は、はい」


 俺と奴とのやり取りが衝撃的だったのか、呆然としながらも二人が返答する。そこから、本当に魔王の部屋へと戻ってきた俺たちだったが、すぐに七魔将たちが雪崩れ込んでくきたのだ。


「何事でございますか魔王様!?」

「どこぞの賊が侵入してきたのですか!?」


 そりゃあ、あれだけの騒ぎが起きて気付かない訳はない。ベリアルは七魔将たちを落ち着かせ、状況を説明した。先代魔王ヴェルフェゴールが復活したこと、それを厄災の魔女ナガルティーニャが封印したことも含めて。


 一通り話を聞いた七魔将たちは、驚きを隠せない様子だったが、ようやく俺の存在に気付いた七魔将たちが誰何の声を上げる。


「状況はわかりましたが、その人間の子供は一体何者です?」

「かなりの使い手であることはわかりますが、なぜ魔界に人間が?」

「この者はローランド殿といって、厄災の魔女の弟子――」

「じゃない。あんな変態の弟子を名乗るなど、反吐が出る。ただ戦い方を教えてもらっただけの存在だ」

「そんなこと言うなんて酷いじゃないか! あれだけ熱い夜を過ごした仲だというのに……」


 俺に警戒し、敵意を露わにする七魔将もいたが、俺がただならぬ相手であるということと、厄災の魔女の弟子ということで納得している者もいた。


 そんなシリアスを演じている中で、またしても脈絡なくナガルティーニャが現れ、シリアスをぶち壊してしまう。見た目はただの十代の美少女だというのに、中身は二百五十歳を超えた空気の読めないロリババアという残念な奴だ。


「まったくもって実に度し難い奴であり、今すぐこの場から消し去ってしまいたい衝動に俺は駆られてしまう」

「……あー、ローランドきゅん? 頭の中の考えが駄々洩れなんだけど?」

「……」


 おっと、奴のあまりの態度に口が勝手に動いてしまったようだ。だが、本心なので反省も後悔もしない。


 こうして、魔族と人間の衝突という騒動を防ぐことができた俺たちだったが、俺としては久々に全力を出せる相手を横取りされた感じだったので、何とも中途半端な感じになってしまったのであった。

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