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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

214話「魔王と面談」



「さて、魔王はどこにいるのかな?」


 サーニャの部屋を後にした俺は、とりあえず魔族の代表である魔王に会うため、無駄に広い回廊を歩いていた。巨人でも雇っているのかと思いたくなるような幅広の通路は、十二歳の子供の俺からすればちょっとした広場よりも広い場所だ。


 しばらく歩いていたが、一向に魔王の元へたどり着かないことを渋った俺は、魔力を感じ取る方法で魔王本人を探せばいいじゃないかという結論に至り、それ以降魔王の魔力を探りながら歩を進めた。


 それから数十分ほど歩くと、魔王の魔力の発生源と思しき部屋に辿り着いた。いくら魔族とはいえ、一応礼儀としてノックはした方がいいと考えた俺は、ドアを三回ノックする。


「……誰だ?」


 すると、中から低い男の声でこちらを誰何する声が返ってきた。俺はその声に答える。


「今この城内で起きていることを解決するためにやってきた者だ。入っても構わないか」

「……いいだろう。入れ」


 入室の許可を得た俺は、ゆっくりとドアを開ける。そこにいたのは、精悍な顔つきをした美丈夫だった。見た目は三十代前半くらいの若い見た目をしているが、実際は何百年も歳を重ねており、纏っている雰囲気も只者でないことが伝わってくる。


 プラチナブロンドの短髪にすべてを見透かすような鋭い眼光は、ひと睨みされれば並みの人間であれば気絶しかねないほどだ。軍服のような仕立てのいい服を着ており、そのいで立ちはまさに魔王という言葉に相応しい。


「人間だと……? なぜ人間がこんなところにいるのだ?」

「それは今問題ではない。俺は依頼主の依頼を遂行するだけだ」


 かつて人間と敵対していた過去があるからか、入ってきたのが人間である俺だとわかった途端に魔王が顔を顰める。だが、俺にとってはどうでもいいことであるため、話を進めさせてもらうとしよう。


「お前の娘の第二王女が、人間界に再び侵攻しようと企んでいることは聞いているな? 俺はそれを止めに来た」

「ふん、人間の貴様に何ができるというのだ? 所詮はただの人間の小僧ではない――」

「ほう、この俺がたかだかSS帯程度のステータスしか持たない相手に後れを取るとでも言いたいのか? これでもSSランクのモンスターを瞬殺できるんだがな……」

「ぐっ」


 魔王の言葉が癪に障ったため、自身のスキル【超威圧】で魔王に圧を掛ける。格上の威圧を受けて魔王の顔が苦悶の表情を浮かべる。


 あらかじめ、魔王の能力に関しては【超解析】で調べてはいたが、やはり魔族の王というだけあってかなりの能力を秘めていた。一瞬、サーラたちのように俺の【超解析】を潜り抜ける魔道具を身に着けているかとも思ったが、あんなとんでも魔道具がそうゴロゴロあってたまるかという俺の願いが通じたのかは別として、魔王の能力を覗き見ることができた。


 魔王のステータスは、あの女魔族のオシボリよりも高く、パラメータの値としてはSSからSSCくらいの能力を持っていた。だが、俺の能力はSSSまで到達しており、次のSSSF-にしようと目下奮闘中なのだ。


 なにせ、俺の知っているあのロリババアのステータスは見ることはできなかったが、おそらくはSSSS以上はあると見ている。ここで立ち止まっているわけにはいかんのだ!


「わ、わかった。我の負けだ。だから、その威圧を静めてくれ……」

「魔王が簡単に負けを認めていいのか?」


 俺の威圧に根負けしたのか、額に汗を浮かばせながら魔王が俺に負けを認め、威圧の解除を懇願する。魔王のまさかの敗北宣言に、完全に毒を抜かれた俺は、彼の要求通り威圧を解く。


「我では貴様には勝てそうになさそうだからな。厄災の魔女ナガルティーニャほどではないが、その歳でなんという力を秘めているのだ」

「あのロリババアは特別だからな。それはそうと、さっきの話だ。とりあえず、サーラとサーニャは避難させた。今俺の家で預かっている」

「な、なんだと!? き、貴様ぁ!! 娘達をどうするつもりだ」


 俺がサーラたちを預かっているといった瞬間、俺を射殺さんばかりの濃密な殺気がこちらに向けられる。どうして魔王がそれほどまでに激昂しているのかわからず、俺は単純に問い掛けた。


「魔王よ。オシボリから話を聞いていたのではなかったのか?」

「オシボリとは誰だ?」

「あの見た目完全痴女で、たまにおっぱいが服からこぼれ落ちている女魔族だ」


 俺自身あの女魔族の説明としてはあまりにも突拍子過ぎる内容だったが、どうやら魔王には通じたようで、心当たりのある顔を浮かべる。


「痴女……ああ、ヘラか。いや、奴は何も言うておらなんだぞ」

「……ああ、悪い。たぶんそいつにサーラたちのことを伝え忘れていたようだ」

「なに? サーラが帰って来ておるのか! サーラは無事なのか!?」


 俺の言葉に過剰な反応をする魔王を見るに、どうやら魔王都に帰ってきてからサーラは魔王の元を訪れてはいないらしい。普通はこういう時、親に無事を知らせるものではないのだろうか?


 まさかとは思ったが、一応サーニャについても言及してみると、同じく「サーニャが目を覚ましたのか!?」と返ってくる始末。魔王よ、親として娘たちに慕われてはいないのか?


「魔王よ。どうやら情報のすり合わせが必要なようだな」

「そうらしい。話してくれないか?」


 それから俺は、魔界にやってきた経緯からサーラと出会い魔王都まで送り届けたこと、サーニャの謎の病気が呪いでそれを解呪したこと、このままでは第二王女に再び襲われそうだったため、自分の本拠地である人間界に匿ったことを説明した。


「そのようなことが……そんなことになっていようとは知らず、貴殿を疑ってしまった。許してほしい」

「謝る必要はない。経緯を知らなければ、魔王が取った態度は理解できるものだ。とにかく、サーラとサーニャは無事だから、あとは第二王女を何とかすれば問題は解決する」

「だが、本当にサニヤがそんなことを企んでいるとは思えないのだ。昔からサニヤは姉妹思いのいい子だった」


 誤解も溶けたところで、話は今回の首謀者である第二王女の話になった。だが、親の情というものなのか、昔から彼女を知る魔王からすれば、今回の一件に違和感を覚えているらしい。


 もしかしたら誰かに操られている可能性もあるということも思いついたが、超解析で詳細を見ていない以上、彼女の中で心変わりがあったことも否めない。


 今回の一件に黒幕がいるとすれば、一番怪しいのは七魔将のグリゴリだ。どういった理由で第二王女に与しているのかはわからないが、彼は彼で何か目的があるのかもしれない。


「とりあえず、俺が知っている経緯と情報はこんなところだ」

「なるほど、理解した。申し遅れたが、我はベリアルという」

「ローランドだ。見ての通り人間で、普段は冒険者をやっている」


 魔王との情報共有も完了したところで、魔王が自己紹介をしてきた。そういえば、お互いに自己紹介をしていなかったことを思い出し、俺も自己紹介をする。


 とりあえず、魔王に伝えるべきことも伝えたが、この先の予定をどうするか考える。ひとまず、ここに魔王もいることだし、責任者の彼にどうしたいか問い掛けた。


「それで、第二王女は殺してもいいのか?」

「いいわけなかろう! 我の娘だぞ!!」

「じゃあ今回第二王女の処遇はどうするんだ?」

「それは……」


 魔王も第二王女の処遇は決めかねているのか、要領を得ない答えが返ってくる。そんな彼に再び俺の追撃が炸裂する。


「やはり亡き者に……」

「なぜそんなに殺伐としておるのだ! もっと平和的な解決はできんのか!?」

「魔王の口から“平和”という言葉が出てくることに違和感が半端ないんだが?」

「我としては、人間の貴様から“殺す”や“亡き者”という言葉が出てくることに違和感が半端ないぞ」


 お互いに違和感のある台詞を宣っていることを指摘するが、魔王なら時には重要な選択も必要だろうに……。よし、ここは一つ王の何たるかを教えてやるとしよう。


「魔王よ。王とは時に大の虫を生かすために、小の虫を殺す酷な選択をしなければならぬのだ……」

「いいことを言っているように見えるが、今回は殺さなくても解決できる問題だぞ!?」

「ちっ、バレたか……意外に聡いじゃないか」

「ローランド殿は、本当に人間なのか? 魔族の隠し子とか言われた方がまだ納得できるのだが……」


 などと失礼なことを言う魔王だったが、俺の両親はちゃんとした人間である。まあ、貴族ではあるが……。


 それから話し合いの結果、第二王女を殺さない方向で捕縛するということになったのだが、一つ問題が発生することになった。

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