ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
212話「昼食」
「ローランド様、お帰りなさいませ。改めまして、ようこそおいでくださいました。我ら一同皆様を歓迎いたします」
ソバスの挨拶を皮切りに、その場にいた使用人全員が頭を下げて歓迎の意志を示す。その態度に、サーラたち四人とも目をぱちくりとさせているようだ。
これが貴族家の使用人であれば、ある程度の敵意を示したかもしれないが、うちの使用人たちは俺の境遇が境遇だけにこういったことにある程度の適応能力を持っているらしい。
ひとまずは、サーラたちをそれぞれの客室に案内するようソバスたちに指示を出し、俺は自分の自室へと向かう。
特に自分の部屋に用事はないのだが、こういった場合主人が直接客の対応をするのは間違っている気がするので、ソバスたちにサーラたちをもてなす機会を与えることにした。
今まで大きな仕事を任せられていなかったため、彼らも今回は張り切っている様子だ。そこに魔族と人間という種族の差は関係なく、ただ使用人として主人の役に立ちたいという思いが感じられ、殊の外彼らの仕事に対する姿勢に好感を抱いた。
「今回の一件が終わったら、社員旅行にでも連れて行くか?」
彼らの仕事の報酬として十分なほどの給金を与えているつもりではあるが、逆の意味で給金に見合った仕事ができていないとソバスが日頃から口にしていたのを思い出す。
かといって、給金を減らすということはするつもりもなく、無理に彼らに仕事を割り振るということもしない。ブラック企業の存在を知っている俺としては、重労働でも軽労働でもそれに対する十分な対価を支払うことは経営者としては労働者に対する最低限の礼儀である。
あと問題なのは、この異世界は俺がいた地球よりも治安が悪く、人が簡単に死んでしまう一面を持ち合わせている。だからこそ、個人個人の自営の手段も必要になってくることを改めて再認識する。
「やはり今回の一件が終わったら、使用人たちをいろいろと鍛えなければ……」
彼らの実力であれば、かなりの達人でなければ後れを取ることはないのだが、世の中には理不尽なくらいに強い存在というのはどこにでもいるのだ。俺やロリババアのようにな。
「ローランド様、お客様をお部屋にお連れしました。この後は、昼食のご用意をしておりますが、いかがいたしましょう?」
「いつも通りで構わない。いつもより人数が多いが、問題ないか?」
「抜かりございません。それと、今回我々は別で食事した方がよろしいのでは?」
これが貴族や王族であれば、使用人と共に食事をするなどあり得ないだろう。だが、俺は貴族ではないし、貴族のやり方やマナーをすべて同じにする必要性はないと感じている。
「いや、それもいつも通りで構わない。我々は貴族家の人間ではない。それに、貴族のやり方が必ずしもすべて正しいとは限らないのだから」
「左様ですか、畏まりました。それでは、用意ができましたらお呼びいたします」
それから、今後のことについてどうするからを考えていると、あっという間に時間が経過し、再びソバスが呼びに来るまでそれほど間がなかった。
食堂に入ると、すでにサーラたちが席に着いており、料理が並べられるのを眺めていた。俺が姿を見せたことで、疑問に思っていたことをサーラが口にする。
「人間の貴族は、使用人と一緒に食事をするのですか?」
「いいや、俺は貴族の当主じゃない。ただの一介の冒険者に過ぎない。だから、使用人たちと一緒に食事をするのはうちだけだ。普通は別々だな」
「そ、そうですか。ローランドさんは貴族じゃないんですね」
どうやら納得してくれたようだが、俺が貴族でないことに驚いている様子だ。
それから、料理も並べ終わり使用人たちも席に着いたところで、一応客をもてなすという体裁を保つため、俺が一言だけコメントをする。
「今日はサーラたちがいるということで、多少豪勢な食事となっている。俺は貴族じゃないから見栄も張らない。口に合うかどうかはわからんが、まあ不味くはないはずだから一つ試してみてくれ。それじゃあ、いただこう」
俺の言葉をきっかけにサーラたちを迎えた昼食が始まる。料理の内容は、サーラたちにも伝えた通りかなり気合の入ったものとなっている。ルッツォがかなり頑張ったようだ。
黙々と使用人たちが食事をする中、サーラたちにも目を向けると、彼らと同じく黙々と食事をしている。食事に手を付ける速さから、どうやら気に入ってもらえたらしい。
料理の内容は、自家製の柔らかいパンに新鮮な野菜を使ったサラダ。そして、メインとしてマンティコアから取れた【極上なモンスターの肉】を使ったステーキを使用している。
デザートには、スィートポテトを出したが、これも気に入ってもらえたようで、出されたすべての料理がなくなっていた。
「初めて食べるものばかりでしたが、とても美味しかったです」
「それはなによりだ。では、俺は今から魔界に戻って今回の騒動をどうにかしてくるから、二人はここで待っていてくれ」
「本来は私たちがどうにかしなければならないのに、ローランド様にばかり仕事をさせてしまい申し訳ないです」
「気にするな。では、行ってくる」
そう言って、サーラたちが申し訳なさそうにしているが、これも乗り掛かった舟ということで俺自身納得はしているため、二人に気にしていないことを伝えた。
それから、食事が終わると、俺はそのまま瞬間移動で魔界にあるサーニャの部屋へと戻った。そこには、眠りの魔法から覚めたチャムが拘束をなんとか解こうともがいている姿があった。
「目が覚めていたか、ちょうどいい」
「早くボクを殺せ」
「さっきも言っただろう。殺しはしない。殺す意味がないからな」
そう言いながら、俺は彼女の拘束を解き、その場を後にしようとするが、チャムがそれを邪魔しようと襲い掛かってきた。さすがの暗殺者タイプの使い手とあって、その動きは並ではなく凄まじいスピードだが、俺からすればスローモーションに見える程度でしかないため、彼女の攻撃が当たることはない。
「くっ」
「もう気が済んだか? なら、俺は行かせてもらう」
俺を止める術を失ったのか、それ以上チャムが襲ってくることはなかった。項垂れる彼女を尻目に、俺はある目的地に向かってサーニャの部屋を後にした。
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