ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
211話「告白」
「待たせたな。話はつけてきた。今からお前らを俺の家に一時的に避難させるが、準備はできてるか?」
「はい、私は問題ありません」
「私は、自分の部屋に戻って準備したいです」
そう言われれば、二人にはここで待っていてくれと言っていたんだったな……。サーニャは自分の部屋だったから準備ができるかもしれんが、サーラはそうはいかないか。
そんなことに気付かないほど焦っていた自分に内心で反省しつつも、とりあえずサーラの荷物を取りに行くべく、彼女の部屋を目指す。
一応念のためだが、この短い間に第二王女の襲撃があるとも限らないため、サーニャと侍女のティリスも一緒にサーラの部屋に向かうこととなった。
「では、準備してまいりますので、少々お待ちください」
「ゆっくりでいい。焦る必要はないからな」
俺はそう一言声を掛け、サーラを自分の部屋へと送った。その間、俺とサーニャとティリスの三人は、隣の空き部屋で待つことになった。
空き部屋といっても最低限の家具と調度品は設置されており、ただ待つだけであれば十分すぎるほどの部屋ではあったが、本当にただ待つのでは時間が経つのが遅く感じる。
「ローランド様は、サーラとどのように知り合ったのですか?」
「うん? サーラがモンスターに襲われている所に出くわしてな。それをたまたま助けただけだが?」
「そうですか。運が良かったのですね」
そこで一度沈黙が訪れるものの、すぐに彼女が次の話題を振ってくる。その話は他愛のないものばかりであり、これから行く場所はどんなところだとか、俺が普段何をしているのだとか様々だ。
そういえば、彼女に俺が人間であるということを言っていなかった気がするが、この際だから言ってしまってもいいかもしれない。
「ところで、実はサーラの姉に――」
「もう、いつまでその呼び方なんですかっ!? ちゃんと名前で呼んでくださいまし!」
「ならサーニャよ。お前に言っていなかったことがあるのだが、ここで言ってしまおうと思う」
「……ここで言ってもいいのですか?」
俺はサーニャの問いに「構わない」と答える。どのみち、サーラたちを人間界に連れて行ったら、俺が魔族でないことがバレてしまうのは明らかだ。であれば、今のうちに言っておいた方がいいのではと考えた。
後で知って問題になるよりも、事前に知っておいた方が心構えもできるはずだ。それに、これから行く先が人間界と知っておけば、行かない選択肢も出てくる可能性もあるが、そうなったらそうなったで別の方法を考えればいいだけの話である。
「ああ。寧ろ、サーニャたちも知っておくべきだろう。ああ、あとテリアにも話してなかったな。サーラたちの準備が終わったら、話すとしよう」
それから、サーラたちが準備を終えて部屋に入ってきたのが十数分後のことで、俺は彼女たちにもソファーに座ってほしいと促し、彼女たちが席に着いたところで俺は話し始めた。
「俺の家に招待する前に、サーラ以外の三人には言っておかなければならないことがある」
「先ほど言っていたことですね。なんでしょうか?」
「実は俺は魔族じゃない。人間だ」
「えっ」
まさかそのような告白をされるとは思っていなかったのか、サーラ以外の三人が驚愕の表情を浮かべる。そんな三人にわかりやすいように、俺は今掛けている変身の魔法を解く。
「これが本来の俺の姿だ。そして、サーニャたちが向かう先は人間界にある俺の家になるが、俺が人間であると知って三人はどうしたい?」
「ど、どうと言われても……」
いきなりのことに、三人とも困惑している。人間にとって魔族という存在が忌み嫌われていることと同じく、魔族にとって人間というのもあまりいい印象を持ち合わせていないのだ。その理由としては、かつてあった魔族と人間との戦争が起因しており、その禍根は数百年の時が経っても未だ解消はされていない。
だからこそ、彼女たちが俺が人間であるとということに困惑するのも無理のない話であり、下手をすれば今まで正体を偽っていたことに怒り出す可能性もあるのだ。
しかしながら、当時の戦争を経験していない彼女たちであるからこそ、七魔将や戦争を経験している魔族たちよりも幾分か忌避感が薄いところではあるが、彼らから人間についていろいろと話だけは聞いているため、人間に懐疑的な感情を抱いている。
「正直言って困惑しています。サーラを助けてくれたことには感謝しているのですが……」
「私もです」
「失礼ですが、私も」
「ふむ、やはり俺の家に来るのは取りやめた方がいいか? 一応使用人がいるんだが、全員人間だし」
二人を第二王女から匿う絶好の場所である人間界ではあるが、種族的な問題を考えるとやはり俺の家に二人を連れて行くというのは早計過ぎたのかもしれない。
前世でも未だ種族的な差別の考えは根強く残っており、そっとやちょっとではどうにかできるほど軽い問題でない。今回も人と魔族との種族の違いによる軋轢は否めない。
だが、そうなってくると他に彼女たちを匿う場所を探さねばならない。どうしたものかと俺が悩んでいると、サーニャが口を開いた。
「いいえ、今回このようなことがなければ、人間と向き合うということ自体なかったです。人間と触れ合ういい機会だと思って、今回はお世話になろうと思います」
「もしかしたら、嫌な思いをする可能性があるかもしれんぞ。それでもいいというのか?」
「すべて覚悟の上です」
サーニャの言葉にテリアとティリスも覚悟が決まったのか、決意を込めた表情を浮かべている。一方のサーラといえば、元々俺が人間ということも知っており、匿う俺の家が人間界にあるということも承知の上だったため、俺と三人のやり取りをただぼーっと見つめていた。
そのことが癪だったのか、サーニャが「サーラは知っていたのよね?」という問いに対し、それがどうしたとばかりに「知ってましたよ」と平然と答える。
「教えてくれてもよかったのに」
「ローランドさんとの約束で、正体を明かさないようにということになってたんですよ」
「むぅ……」
俺との約束を出されては、サーニャとしても黙るしかない。だが、それでも一人だけ事情を知っていたことが許せないのか、可愛らしく頬を膨らませている。
「とりあえず、これで準備が整っただろうから、今度こそ人間界に行くぞ?」
「は、はい。お願いします」
「お願いします」
二人にそう呼び掛けると、緊張した面持ちで頷く。彼女たちの返答を受けて、俺は四人と共に瞬間移動を使った。すぐに風景が変わり、気が付くと王都の屋敷の前に立っていた。サーラたちもちゃんとおり、転移は無事成功した。成功したのだが……。
『ようこそ! 冒険者ローランドの屋敷へ!!』
その瞬間、使用人総出の熱烈な歓迎を受けてしまった。……そこまでやれとは言っとらんのだが。
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