ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
208話「暗殺者と今後の方針」
「戻ったぞ」
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「その前に……【スリープミスト】」
サーニャの部屋に戻った俺は、すぐさま部屋の周辺に向けて霧状に発生する睡眠魔法を霧散させる。しばらくして、寝息が聞こえてきたため、隣の部屋に行ってみると、先ほど第二王女のところにいたフードを被った人物が倒れていた。
何か怪しいものを持っていないか身体検査をし、懐をまさぐったところ何か柔らかい物体を掴む感触があった。
「……女だったのか」
そう、俺が掴んだのは彼女の胸であった。フードを取ってみると、年の頃は十代前半の女の子で、まだ子供っぽいあどけなさを残す顔をしているものの、その胸部装甲はそれなりで、少なくとも俺の手ではおさまらないほどだ。……Eくらいか。
尤も未だそちらに関して目覚めていない俺としては、ただの脂肪の塊を掴んだところで何も感じはしないのだが、掴まれた側からすればそうはいかないだろう。眠らせて正解だったな。
女の子の顔立ちは整っており、美人ではあるもののどちらかというと愛嬌がある顔だ。緑色のショートヘアーと黄色い瞳がチャーミングな可愛らしい女の子である。ちなみに、瞳の色は瞼を開けて確認した。
一応【超解析】を使って確認もしたが、彼女の名はチャムという名前で、パラメータはSFからSEくらいとサーニャよりも少し能力が高く、肉弾戦に特化していたり、暗殺術や毒系統のスキルも所持していたため、暗殺をメインとする人物であることが推察される。……可愛い顔して怖い怖い。
「毒物以外の怪しいものはなかったな」
「あの、ローランドさん大丈夫ですか? そ、その人は?」
ちょうど彼女の身体検査が終わったところで、サーラが部屋の扉から顔を出した。俺が安全だと言うと、女の子に注視しながらも部屋の中に入ってくる。
「第二王女のところにいた密偵ってところだ。おそらくはお前の監視をしていたのだろうな」
「わ、私のですか!?」
女の子の正体を教えてやると、目を見開いてサーラが驚く。そんなことを話していると、女の子が可愛らしい呻き声を上げたため、ストレージ内にあったロープを使って縛り上げておく。
そのままサーニャの部屋へと連行し、彼女が目覚めるのを待っていると、ようやく目を覚ました。自分が縛られている状況だと理解した途端「もはやこれまで」と言いつつ、奥歯を噛むような仕草をする。奥歯に仕込んだ毒で自害を図ろうとしたのだ。
「残念だが、所持していた毒物はすべて没収した。お前は死ぬことすら許されない」
「……」
「だが、殺すつもりはない。お前を拘束したのは、聞かれたくない話をするためであって、殺すためではない」
「くっ……」
暗殺者として任務の失敗は死を意味する。そんなことを思っているのか、俺が殺さないと理解するとその顔に屈辱の色を浮かべる。自分の仕事に誇りがあるのか、はたまたそういう考えを仕込まれたのか、そのどちらなのかは定かではないが、この若さでその生き方は寂しい気がする。
「まあ、しばらくそこでじっとしてくれればいいから。【エアーウォール】【サイレント】【ビジョンスクリーン】」
俺は彼女……チャムにそう言いつつ、彼女の周囲にドーム型の風のシェルターを発生させ、外からの音をシャットダウンし、外の風景すらも見えないようにした。
これで彼女からすれば、外の音も風景も聞こえないかつ見えない状態となっているため、これから俺たちが話す内容を知ることは不可能だ。
こんな回りくどいことをしなくとも俺が首の付け根をトンと軽く打つだけで気絶させることもできるし、なんだったら再び眠りの魔法を使えばいいのだが、そこは……ほら? 無断で彼女の胸を掴んじゃったし、危害を加えない丁重な方法ということでチャラとさせていただこう。……不可抗力だしね。
チャムの処理をした後、改めてサーラたちに第二王女の部屋であった出来事を説明した。二人とも、実の姉妹が自分たちに危害を加えるという暴挙に出ることを信じられなかったが、俺の報告を聞いて意気消沈していた。
「そんな、やはりサーニャお姉様の呪いはサニヤお姉様が……」
「それに人間界に再び侵攻なんて、一体サニヤは何を考えているのかしら……」
「ともかくだ。ここにいてはまたいつ第二王女が襲ってくるとも限らん。どこか隠れ家になる場所はないのか?」
二人とも当面の危機は脱したとはいえ、第二王女がいる王城にいてはいつまた襲ってくるかわからない。そのためにも彼女の手の届かない場所に身を隠すのが妥当だ。そのための場所はないかと尋ねたが、二人とも難しい表情をしているあたり、そんな場所はなさそうだ。
すると、ここで名案が浮かんだとばかりに、サーラがぽんと手を叩いてある提案をしてくる。
「でしたら、ローランドさんのところで匿ってください」
「俺のところとは?」
「ですから、ローランドさんの家です」
“こいつは一体何を言っているんだ?”という顔を張り付けた状態でサーラを見やると、「なんですかその人を馬鹿にした顔は?」と心外とばかりに言ってきたので、今の状況を教えてやった。
「いいか? 俺は今自分の家に帰るためにお前の頼みを聞いている最中だ。そのことは忘れていないよな?」
「はい。ですから報酬の先払いというか、サーニャお姉様を助けてくれたことに対する報酬として解除石の結界を解きます。そうすれば、ローランドさんの魔力固定がなくなって、元の場所に帰れるのではないですか?」
「……なるほどな。サーラのくせに考えたじゃないか」
「えへへ」
まあ、褒めてないんだけどな。ともかく、それが可能であるならば、転移の魔法で二人を人間界の俺の屋敷に匿うことはできる。一応国王に報告は必要だろうが、国王としても魔族が再び攻めてくるとなっては協力せざるを得ないだろう。否、無理にでも協力してもらう。
これで今後の方針も決まったところで、閉じ込めていたチャムを解放してやる。解放された瞬間驚いていたが、そんなことよりもこれから彼女の処遇を決めていくとしよう。
「さて、お前の処遇だが」
「殺せ。ボクはお前に捕まった。任務も失敗した」
「なるほど、ボクっ娘か……。見上げた心がけだが、お前には生きて帰ってもらう。だが、このまま無事で帰すのも癪だ。今からこの契約書にサインしてもらう」
「……?」
チャムが小首を傾げながら状況が飲み込めないでいるのを無視し、俺は魔法で作った契約書を取り出す。この契約書は、以前マルベルト家現当主で俺の父であるランドールとの間で使った【デスコントラクト】で作った契約書ではない。
あれから、契約を破ったら死をもって償うという条件ではあまりに使い勝手が良くないということから、新たに【コンディションコントラクト】という契約魔法を作ったのだ。
契約を破れば何かしらの罰が与えられる点については【デスコントラクト】と変わりないが、その与える罰を死以外にも指定できるのが【コンディションコントラクト】である。
「契約の内容は、“サーラとサーニャの二人と俺に関しての情報の開示を禁ずる”だ。簡単に言えば、俺らのことについて何かしらの手段で他の奴に伝えようとした場合に契約違反となる」
「……」
「まあ、俺らのことを話さなければ問題ないということだ。破った時の罰は、今は伏せておくとしよう。ただし、これだけは言っておくが、死んだ方がマシだったと思えるような罰にしてあるから、それを味わいたくないなら契約を守れよ? てことで、ここにサインをしろ」
チャムに説明が終わると、俺は彼女に契約書を突き付けた。ちなみに、契約書の内容は魔法の文字で書かれており、俺以外は読めないようになっているため、書かれている内容は俺自身が口頭で伝えなければならないのだ。
つまりは、契約の内容を偽ろうと思えばいくらでも偽ることができ、この契約を結ぶ相手は理不尽を強いられる。もちろんそんなあくどい手は相手が悪人でない限りは使わないが、世の中に絶対はないので百パーセント使わないと断言できないのが悲しい現状である。
そんなこととは露知らず、チャムは俺に言われるがままに契約書にサインしてしまう。まだこの悪魔の契約とも言うべきであるこの契約の恐ろしさを理解していないようだが、それは今後その身をもって体感することになるだろう。
「これでお前は、俺たちのことについて他言はできなくなった。とりあえず、もう一度眠れ【スリープ】」
契約を終えた俺は、もはや用済みとばかりにチャムに睡眠の魔法を掛ける。再び意識を失う彼女を確認すると、サーラに向き直り今後の予定を確かめる。
「とりあえず、解除石のある神殿に向かい、俺の魔力固定を解除するとしよう」
「そうですね。話はローランドさんが転移魔法を使えるようになってからですもの」
「あのー、話が見えないのですが……」
俺たちの会話の内容が理解できないようで、サーニャが問い掛けてくる。そんな姉を見かねて、妹であるサーラが説明しようとするのだが……。
「えっと、とりあえずローランドさんが“びんびん”になればいいってことですよ」
「……?」
サーラの説明でますます訳がわからないといった様子のサーニャ。申し訳ないが、これは百パーセントサーラの説明が悪い。大体“びんびん”ってなんだよ? 勘違いされるような発言は控えていただきたい。
とりあえず、サーニャには「今からサーラと二人で出掛けてくるから待っていて欲しい。俺たちが戻って来た時には安全な場所に移動するから」と伝え、俺とサーラはサーニャと侍女のティリスを残して部屋を後にした。
余談だが、サーニャの部屋を後にしてすぐに、サーラにデコピンを食らわして「あんな勘違いされる様な説明をする馬鹿がいるか!」と説教したのは言うまでもない。
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