ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

199話「到着、魔王都イャンバルジャン」



「あれが、魔王都イャンバルジャンか。ようやく着いたな」

「……ほ、ホントに一週間で着いちゃうなんて」


 俺が魔界へ飛ばされたてから一週間が経過した。その間にあったとこといえば、最初にたどり着いた村と同じ規模の集落を一、二度立ち寄った程度で、それ以外は俺の飛行魔法でひたすら飛び続けていた。


 最初は悲鳴を上げていたサーラも、最後には慣れたようで、声一つ上げなくなっていた。俺がサーラを運びながら飛んでいたのだが、目が白目になっていたのが気になった。


 休憩中や野営中に、たまに襲い掛かってくるモンスターもいるにはいたのだが、そのほとんどがBランクやAランク程度のモンスターばかりだった。一度だけゴブリンキングが率いていた群れに遭遇したが、サーラが使った【ヘルフレイムインフェルノ】を俺が一発放って終わってしまった。


 当然俺が使った【フレイムインフェルノ】は、サーラのものと比べると威力が段違いであるため、数百匹はいたであろうゴブリンの群れをすべてのみ込み、そこに残ったのは黒焦げになったゴブリンたちの残骸と焼け野原のみだった。


 それを見たサーラが白目を剥いて驚愕していたのが印象的だったが、今考えると空を飛んでいる時のあの白目も同じ意味だったのかもしれない。


 そんなこんなで、ようやく魔王都までたどり着いた俺たちは、人目の付かない場所で飛ぶのをやめ、そこからは歩いて魔王都の門を目指す。


「ローランドさん、見えてきましたよ。どうですか、魔王都は」

「まあ、凄いんじゃないか? よく知らんけど」


 しばらく歩き続けると、巨大なドーム型の建築物が見えてくる。その大きさは東京ドームの百倍以上はあろうかという巨大なもので、まさに“魔王都”という言葉に相応しい。


 人間の都市とは異なり、ドームのような形状をしているため、空からの侵入に対しても万全な防衛となっており、それだけでも都市としての機能が高いことが窺える。


 魔王都の門近くまで到着した俺たちは、門を通過する手続きのために並んでいる人の列で、自分の番が来るのを待っていた。


「そういえば、魔王都に入るための通行証とかって必要なのか?」

「必要といえば必要ですが、なくても通行料を払えば問題ありません」


 サーラの話によると、魔王都に入るには公的機関が発行した身分証や通行証があれば通行料を払わなくとも通行ができ、それ以外は魔硬貨と呼ばれる魔族が支配する領域でのみ使用されている硬貨で、魔小銀貨三枚を支払うことで通行が可能だ。


 ちなみに、魔界での貨幣価値は人族が使う硬貨とそれほど大差はなく、大きな違いがあるとすれば、硬貨の名前の頭に“魔”が付くということくらいだ。


 それ以外に特徴があるとすれば、硬貨に魔族の証である刻印が刻まれているという点だが、これも魔法的な何かの効果があるという訳ではなく、人族が扱う硬貨と間違えないようにするためだとサーラは説明してくれた。


「俺、こっちの金なんて持ってないぞ?」


 当たり前のことだが、俺は魔族ではなく人間だ。今は魔法を使って頭に角を生やし、肌の色を褐色に変えているが、その正体は人間の両親から生まれた生粋の人間なのだ。


 一度たりとも海外旅行に行ったことのない人間が、その国の通貨を所持しているという質問の答えと同じ状況が、今の俺の身に降り掛かっていた。


 俺の言葉に、サーラは「大丈夫です。お金は私が払いますから」と言ってくれた。だが、俺としては自分で払いたいという気持ちがあったため、代替え案としてストレージの中に保存していたデフォルメされたヒヨコのぬいぐるみを魔小銀貨三枚と交換してもらうことを提案した。


「どうだろう。これと魔小銀貨三枚とを交換してくれないか?」

「これは?」

「ヒヨコという動物を可愛らしくしたぬいぐるみだ」

「可愛いですね。わかりました。交換しましょう」

「助かる」


 ぬいぐるみが可愛かったということもあってか、俺の提案をサーラはすんなりと受け入れてくれた。こちらとしても助かるので、文句はない。


「次」


 サーラとぬいぐるみを手渡したタイミングで、ちょうど自分たちの番がきた。サーラと俺は門番に魔小銀貨三枚を支払い、手続きはすんなりと終わった。


 十メートルはある巨大な門を潜ると、魔王都の街並みが目に飛び込んでくる。人間がよく多用する薄茶色の石畳の大通りではなく、少し黒ずんだ特殊な加工がされた石畳が使用されており、僅かながらに魔力が感じられる。


 おそらくは、何かしらの魔法的な防衛機能を発動させるために使用されているもので、その全容はわからないが、何かが施されているのは確かだ。


 すれ違う人々は当然ながら全員が魔族だが、人間と同じく色んな装いに身を包んでいる。平服を着た平民風の男性や、軽装に身を包んだ冒険者風の女性など、こういったところは人間となんら変わらない気がする。


 人間と明らかに違うのは、たまに空を飛んでいる魔族を見かけるところだろう。その人数は決して多くはないが、他の魔族たちが驚愕していないところを見るに、物珍しいものではなく、日常的なものであるということがわかる。


「さて、サーラ。約束通り魔王都には連れてきてやった。これでお前とはお別れだ」

「はい、ローランドさん。ありがとうございました」

「ところで、解除石とやらはどこにある?」

「ああ、そうでしたね。ローランドさんはそれが目的でしたね。解除石は、あそこにある王城から西方面にある古びた神殿にあります。周りの建物と比べてかなり古い造りになってますから、すぐにわかると思います」

「そうか」


 最後にサーラから解除石の場所を聞いた俺は、改めて礼を言い、そこで彼女とは別れることになった。別れ際に「改めて、お礼に参ります」と言っていたが、何か面倒事の予感がするためできれば再会したくはない。


「とりあえず、冒険者ギルドを探してみるか。いや、こっちでは確か【魔狩ギルド】だったか」


 魔王都に到着するまでの一週間で、サーラから魔族のことをいろいろと聞いた。その中に、人間で言うところの冒険者ギルドに相当する組織があると聞いており、それが【魔狩ギルド】というらしい。


 主にモンスターの討伐を生業とする戦いに秀でた者が所属していて、そこのところは冒険者と似たところがある。しかし、大きく違いがあるとすれば、その相手をするモンスターの強さだ。


 ここは凶悪なモンスターが蔓延る魔界であり、その平均ランクはCランクと人間の世界ではありえないほど高ランク帯のモンスターが日常的に出現する。


 当然、そのモンスターを相手にする魔族も並の相手では務まらず、最低でもCランク冒険者以上の実力がなければ、【魔狩ギルド】に所属することすらできないらしい。


 それだけ、魔界という場所が危険に満ちているという証拠であり、そのモンスターたちを相手にするにも相応の実力が求められるということだ。


 だが、俺であれば何の問題もなくギルドに所属できるだろうと思っている。それに、【魔狩ギルド】がこの世界のギルドなのであれば、久々に“アレ”が見られるかもしれない。そう、アレだアレ。


「よし、そうと決まれば、魔狩ギルドに行ってみるとしよう」


 俺はそう口にすると、【魔狩ギルド】に向かって歩き出した。

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