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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

197話「サーラはやはり只者ではない?」



「男衆よ。聞いての通り、この村にオーガの群れが迫っておる。選択肢は戦うか逃げるかの二つに一つじゃ。ならば、我らは誇り高き魔族に相応しく、戦うことを選ぼうではないか!!」

『おぉー!!』


 村長の鼓舞に、村の男たちが割れんばかりの大音声で応える。その様子をサーラの目を通して見ていた俺は、少し申し訳ない気持ちになる。


 百パーセントそうだと決まってはいないとはいえ、俺の手によって引き起こされた可能性が高い今回の一件。村人たちはそれに巻き込まれた形になる。


 自分自身が原因で、他人に迷惑を掛けてしまうことは生きている中で何度か経験するだろう。だが、それが人の生死に関わる問題であれば、その罪悪感は推して知るべしである。


 だからこそ、オーガの群れがやってきたと聞いた時、俺が取る行動は戦うという一択のみに絞られていた。このまま逃げたら化け物が廃るというものだ。それにSSランクのモンスターを蹂躙できる俺が、なぜBやAランク如きのオーガから逃げなければならんのだ?


「村長さん」

「お嬢ちゃんか、ここは危ないから広場に避難するんじゃ」

「いいえ、私も戦います」


 サーラの言葉を聞いた村長が困り顔で首を横に振る。少女であるサーラでは、オーガに勝てないと考えているのだろう。それが一般的な少女に抱く感想だ。そう、サーラが一般的な少女ならばの話だが……。


 果たして、SSランクをものともしない人間がバックについている少女を“一般的な少女”と呼称してもいいのだろうかという議論をやりたくなるところだが、それはまた別の機会にしておこう。


「村長さん、私たちの事情は昨日弟が説明した通り、鳥のモンスターに攫われたといいましたよね?」

「そうじゃな」

「じゃあどうやってその鳥のモンスターから助かったんですか?」

「……そういえばそうじゃな」

「その答えが私です。こう見えても、私結構強いんですよ。皆さんには一宿一飯の恩がありますし、お役に立てるかと思いますが?」


 サーラがそんなことを口にする。もちろんこの言葉は、俺が念話で飛ばした内容をオウムのように喋っているだけだが、それでも普段の彼女の言動からよどみなく噛まずに言えている事実に、ちょっとした感動を俺は覚えていた。やればできるじゃないか。


 などとかなり失礼なことを心の中で思っているうちに、気付けば村長がサーラが戦いに参加することを許可しているところだった。今は一人でも戦える者が必要なのだ。たとえそれが見た目が若い少女であっても。


 そして、ついに取り囲んでいたオーガたちが村に向かって進撃を開始する。オーガの総数は、少なく見積もっても五十を超えており、大して村人はその半数にも満たない。


 あらかじめ【超解析】で彼らを鑑定してみると、さすがは魔族だけあって一番下でも上位のCランク冒険者程度の能力は持っており、中にはBランクに相当する者も何人か見られた。


 だが、多勢に無勢は明らかであり、どう頑張っても村の犠牲は避けられない状況だ。何かこの形勢を逆転させるような一手はないだろうかと思案していたその時、サーラが念話を使って話し掛けてきた。


『ローランドさん』

「なんだ?」

「魔法って使っちゃダメなんですか?」

「は?」


 いきなりのことに素っ頓狂な声を上げてしまうが、そういえば彼女が魔族だったことに至り、軽い気持ちで返答した。だが、それはいい意味で裏切られることになる。


「できるというならやってみろ」

『はい。では……【ヘルフレイムインフェルノ】!!』

「はぁ!?」


 説明しよう。サーラが使った【ヘルフレイムインフェルノ】とは、火魔法の上位である炎魔法のレベルが七になった時に覚えることができる魔法で、炎で広範囲を攻撃するかなり威力の高いものである。


 当然だが、俺も使うことができる。問題はそれをサーラが使ったことにある。そう、あのサーラが使ったことが重要なのだ。彼女とはまだ出会って半日も経ってはいないが、彼女がポンコツであるということは俺でもわかる。そんな彼女が、魔法に秀でる魔族とはいえ、炎魔法の中でも屈指の高威力を誇る魔法を使ったことに驚きを隠せなかった。


 そして、そこで初めて気付いた。彼女のことを超解析で調べていないということに……。魔界という未知の土地へ強制的に飛ばされた影響なのか、それともただ単純に俺が抜けていただけなのか、はたまたその両方なのか……。とにかく、気付いたからには調べないという選択肢はあり得ないので、さっそく【超解析】でサーラを調べてみた。






【名前】:サーラ

【年齢】:十五歳

【性別】:女

【種族】:?????

【職業】:?????


体力:?????

魔力:?????

筋力:?????

耐久力:?????

素早さ:?????

器用さ:?????

精神力:?????

抵抗力:?????

幸運:?????


【スキル】:?????


【状態】:?????




 ホワッツ!? なんだこりゃ、何もわからんぞ。


 この状態には見覚えがあった。だからこそ、すぐにいくつかの可能性に気付けたわけだが、どうやらサーラという魔族は本当に一般的な少女ではなかったらしい。


 俺のスキル【超解析】を使っても相手の能力を知ることができない可能性は、現時点で思いつく限り三つある。箇条書きにすると以下のようになる。




 ・自分よりも格上の相手。


 ・【超解析】のレベルを上回る【隠蔽】やそれに準ずる能力。


 ・【超解析】でも看破不可能な伝説級や神話級の魔道具やアイテムを所持している。



 まず一つ目の可能性だが、これはないと考える。……だって、サーラだぜ? 俺よりも強いと思うか?


 それ以外にも、仮にサーラが俺よりも強かった場合、年齢や性別はおろか名前すら見えないはずだ。これは魔族の女やナガルティーニャで実証済みだから間違いない。


 次に、俺の【超解析】のスキルレベルよりも上位の隠蔽能力を彼女が秘めている可能性についてだが、それもないと考えている。……だって、サーラ(以下略)。


 となってくれば、残ったのは伝説級や神話級の魔道具かアイテムを所持しているという可能性だ。この三つの中では最も現実的であり、サーラ自身の能力によるものでないため、俺の【超解析】が通用しないという道理にも一番納得ができる。


 それに、よくよく彼女を観察してみると、両腕にブレスレット、両足首にアンクレット、首にはチョーカーとネックレスという装飾品のオンパレードで着飾っていることがわかる。


 あの装飾類がお洒落ではなく、そういった能力を発動させておくためのものとして身に着けているのなら、あれだけの装飾品を身に纏っていることについても合点がいく。……てか、もし違ってたらただのアクセサリーマニアだぞ。アレは。


 彼女を調べてわかったことは少ないが、その少ない情報から導き出した俺の答えは……。果てしなく面倒事に巻き込まれそうな人間ということだ。……ああ、人間じゃなくて魔族だったか。


 そんなことを脳内で考えていると、サーラの放った【ヘルフレイムインフェルノ】がオーガたちを蹂躙している。さすがの高レベルの魔法とあって、かなりの広範囲に渡って炎の奔流が荒れ狂いオーガたちの数を減らしている。


 最終的に五十匹を超えていたはずのオーガが、彼女の魔法によって半分以下にまで減ってしまった。生き残ったオーガたちもさすがに無傷とはいかず、まともに戦える個体は十五匹にも満たない状況になっていた。完全に形勢逆転である。


 村長たちもその様子をただただ呆然を眺めることしかできず、サーラの魔法が消えた後も数秒間は何が起こったのかと戸惑っていた。だが、その攻撃がサーラによってもたらされた結果だと知るや否や、村長がここぞとばかりに号令を掛ける。


「今が勝機じゃ! 者どもかかれぃ!!」


 唖然としていた村人たちも村長の号令によって再び意識を取り戻すと、オーガに向かって突撃する。生き残ったオーガたちも村人たちを迎え撃とうとするが、その大部分はサーラの魔法によって大打撃を受けており、無傷の村人たちによって一匹、また一匹とその数を減らしていく。


(これなら、ラジコン操作する必要なかったかもな……)


 その様子をサーラの目を通してみていた俺は、ただ村人たちが死に体のオーガたちを蹂躙する光景を眺めていた。【スリードマリオネット】の存在意義とは一体なんだったのだろうか?


 とりあえずは、俺の中でのサーラに対する評価の見直しと、警戒の引き上げが必要になってくるだろう。そして、あわよくばサーラの素性について、本人から直接聞き出すとしよう。答えてくれるかはわからないがな。


 村人に礼を言われているサーラの視点が、今も俺の頭の中に映し出されている。だが、もはやその状態を維持していても意味がないため、俺は【スリードマリオネット】を解除し、サーラの元へと向かうことにした。

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