ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
194話「助けた少女と召喚獣」
「ガァァァアアアア」
「きゃぁぁぁああああ」
女性の声を頼りに、彼女がいるであろう方向に進んでいくと、そこにいたのは一人の少女と一匹のモンスターだった。
少女は十代の中頃ほどで、顔はまだ幼さが残っているものの、その体つきはしっかりとした女性の体つきで、出ている所は出て引っ込んでいる所は引っ込んでいる理想的な体形だ。
薄紫色のうなじにかかる程度の長さのショートヘアーに、神秘的な黄色い瞳を持ち、顔の幼さもあってか何か触れてはいけないような危うさのようなものも感じられる。
だが、それ以上に彼女の種族を全面に押し出している頭から生えた二本の角と特徴的な褐色の肌は、少女が魔族であるということを物語っていた。
「魔族か。とすると、やはりここは魔族が住む魔界ってやつか?」
この世界には様々な種族が住んでおり、種族によっては自身の居住域を形成し暮らしている場合もある。エルフのように深い森の奥に集落を設けたり、ドワーフのように地下に坑道を掘ってそこを居住スペースとしてしまったりなど様々だが、基本的にそれぞれが独自の掟を作って暮らしている。
その種族の中に魔族や人族も含まれており、特に魔族は強大な力を秘めているため、他の種族を見下す傾向が強い。それに加え、他種族を虐げるなどといった残虐性も持ち合わせているため、魔族以外の種族は彼らとは関わりを持たないようにしてきたのである。
そんな魔族が人の住む土地に現れることは稀であり、ましてや単独で行動するなど滅多にない。これが十数人の団体であれば人族の領域に攻めてきたかと解釈できるのだが、どう見てもモンスターに襲われている少女は一人っきりだ。
であるからして、俺が魔法陣で飛ばされてきた土地は魔族が住まう魔界と断定したのだ。尤も、魔界といっても地獄のような場所ではなく、ちょっと変な動植物がいる程度の魔境に近い場所というのが正確な表現だが……。
「おっと、これは助けないといよいよいかんな」
などと、今の状態から自分が置かれている状況を考察していたのだが、その間にもモンスターが少女にとどめを刺そうとしている。ちなみに【超解析】で調べてみると、モンスターは【オーガキング】というオーガのキング種で、Sランクに分類されているモンスターだった。
並の人間ならばとてつもないほどの凶悪なモンスターだが、それ以上の力を持つオクトパスやマンティコアと戦ったことのある俺からすれば、今更な相手だ。
「ふっ」
掛け声とともに地面を蹴って草陰から飛び出した俺は、そのまま腰に下げていた剣を抜き放ち一閃する。一筋の光が走ったかと思ったら、オーガキングの片腕が吹き飛んだ。
突然起こったことに驚愕と痛みで後退するオーガキングだったが、すぐに自分の片腕を奪った俺に反撃しようと突進してきた。だが、その攻撃が俺に届くことはなかった。
俺はオーガキングに振り返ることすらなく、後ろ手に剣を横に薙ぎ払った。すると、どさりという音と共にオーガキングの頭が胴体と切り離され、続いて糸が切れた人形のように胴体も地面に沈んだ。
当然そんな状態でオーガキングが生き残れるはずもなく、再び起き上がってくることはなかった。そんなオーガキングを尻目に、俺は少女に声を掛けた。
「大丈夫か?」
「え?」
いきなり声を掛けられるとは思っていなかったのか、間抜けな声を少女が出す。そして、その瞳が俺を捉えると同時にある言葉が口からこぼれ出た。
「に、人間……」
「とりあえず、怪我は無さそうだな」
そう言いながら、オーガキングの死骸をストレージに仕舞い込み、周囲にモンスターがいないか確認する。近くに脅威となるモンスターがいないことを確認した俺は、重要な情報を持っているかもしれない少女に目を向けた。
未だ信じられないといった様子でこちらを窺う少女だったが、今は少しでも情報を得るため、俺は彼女に問い掛ける。
「いくつか聞きたいことがある。まず、ここは魔族がいる魔界で間違いないな?」
「そ、そうです」
俺の問いにおずおずとした表情で答える少女。おっと、まずは彼女から聞き出す前に自己紹介が先だな。
「言い忘れていたが、俺はローランド。冒険者で、見ての通り人間だ。お前は?」
「わ、わたく……い、いえ、私はサーラ。ただのサーラです」
「……そうか、では話の続きだ。なぜ、オーガキングに追われていた?」
「じ、実は……」
サーラの話によれば、住んでいた街の外に出ていた時に鳥型のモンスターに攫われてしまい、そのまま見知らぬ土地まで運ばれてしまったらしい。
そんな漫画のような話があるのかとも思ったが、自分が異世界転生を現在進行形で経験していることを思えば、異世界ならあり得るのかもと考え、サーラの話を聞いていた。
それに、彼女が嘘を言っているようには見えなかったというのも大きい。そもそも、こんなとんでもない話を嘘の話として話すこと自体意味がないことなのだ。明らかに嘘だとわかりきっている話なのだから。
「事情は大体飲み込めた。で、サーラはこれからどうする? 俺も元の街に戻りたいが、転移魔法が使えなくなってしまってな」
「魔力切れですか?」
「いや、どうも魔力が固定されてしまって転移魔法が使えないんだ」
「その話ならひいお祖母ちゃんから聞いたことがあります。大昔に人間との戦争があって、その頃に魔法陣を使った転移魔法がよく使われていたと。その魔法陣には魔力が固定される術式が掛けられていて、魔王都にある解除石を使ってその状態を解除していたと」
「魔王都。魔族の王都か」
まだ付き合いの浅いサーラに、こちらの事情を正直に話すのはあまり得策ではないとも考えたが、彼女が悪い人物ではないことと今の状況を打開するには一人では困難ということで、俺はサーラに今の自分の状態を打ち明けた。
すると以外にもサーラはその状態について心当たりがあり、なんとその状態を解除する手掛かりまで知っていた。……ご都合主義甚だしいな。
とにかく、俺の魔力固定を解除する方法がわかった以上、このままじっとしているのは時間の無駄だ。その前に、改めてサーラにどうするか聞いてみないといけない。
「情報感謝する。これで、俺の目的地が魔王都で決まったんだが、サーラはどこからここに来たんだ?」
「私も魔王都からやってきました。ローランドさん、お願いです。私も魔王都に連れて行ってくれませんか? 家族も心配していると思いますし……。特に弟が」
「お前にも弟がいるのか。俺にも弟がいる。さぞや心配していることだろう。わかった。さっきの情報の礼に魔王都まで送り届けてやる」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
こうして、サーラとの魔王都までの旅が決定したのだが、俺は一つ重大なミスを犯していたことに気付いていなかった。彼女に【超解析】を使っていなかったことに……。
~~~~~~~~~
「それでローランドさん、どっちに向かいましょうか?」
「そうだな……。ちょっと、待ってくれ」
そう言いながら、索敵と隠密の統合スキルである【感覚操作】のスキルを展開する。このスキルにより、隠れている物や生き物はもちろんのこと、広範囲の索敵も可能で、その限界距離は数百キロにも及ぶ。
この能力を使い、ひとまず人がいそうな集落や村がないかを確認することにする。尤も、ここは魔界であるため探す対象は魔族なのだが、細かいことは気にしない。
探索を開始してすぐに、索敵範囲内に数百ほどの反応があるのを確認した。おそらくは魔族の村で、そこで生活している者がいるのだろう。
「この方角に、徒歩で二日ほどの距離の場所に村があるみたいだ。まずはそこに行くとしよう」
「えぇ? それはどういう……」
俺の話に胡乱気な顔を浮かべながらいるサーラを気にせず、俺はさらにここであまり使っていなかったあの能力を使うことにする。
「【召喚】! 出てこい、マンティコア!!」
「む? なんだ主よ。また我の肉が欲しくなったか?」
そこに出てきたのはマンティコアだった。このマンティコアはセイバーダレス公国で猛威を振るっていたモンスターだったのだが、その肉は極上であり、一度食べればやみつきになるほどの美味さだったため、召喚術で俺のペットにしたのだ。肉要員として……。
それ以降特に召喚術を使う機会がなかったがために、マンティコアを呼び出すことはなかったが、この事態になってようやく出番が回ってきた。
「いや、実はかくかくしかじかでな」
「なるほど……って、そんなんでわかるわけなかろう!!」
「なんでだよ!? お前俺の召喚獣だろ? だったらそこは阿吽の呼吸的な何かでわかれよ!」
「主は我に対して少し理不尽ではないか!?」
というような感じで、マンティコアと漫才を繰り広げていたその時、ふとサーラに目を向けると、腰を抜かしてぶるぶると震えていた。その時になってようやく気付いたが、彼女にとっては先ほどのオーガキングも俺が召喚したマンティコアも、同じ極悪モンスターに変わりはないということを。
「サーラ。こいつはマンティコアだ。俺が使役している召喚獣で、肉要員だ」
「主、召喚獣はいいが、その肉要員というのは釈然としないのだが……」
「ブルブルブル」
それから、マンティコアが俺の召喚獣でサーラに危害は加えないことを説明すると、ようやく本題に入る。
マンティコアを呼び出した理由は簡単で、単純な移動をするための足代わりとなってもらおうという魂胆だ。せっかく召喚獣として使役しているのに、ただ何もさせないというのは召喚獣としては可哀想なので、ここは一つ働いてもらおう。
「我を足代わりにする人間など、主だけだ」
「私もそう思います」
「そう言うな。とりあえず、こっちの方向に三、四十キロ行った先に人のいる集落がある。そこまで俺たちを運んでくれ」
二人からの追求を躱すようにマンティコアに指示を出す。二人とも呆れたような顔をしていたが、俺がこれ以上取り合う気がないことを理解すると、すぐに気持ちを切り替えたようで、犬の芸にある伏せのような体制になって「早く乗れ」と急かしてくる。
「じゃあ、いくぞ」
「わ、私もこれに乗るんですよね?」
「当たり前だろう。マンティコアのスピードについてこれるのか?」
「無理に決まってるじゃないですか!」
「じゃあ乗るんだ」
最後までサーラはマンティコアに乗ることを渋っていたが、マンティコア自身に「小娘、我に乗るのがそんなに嫌なのか?」と凄まれ、渋々乗ることを決意したようだ。
俺とサーラが背中に乗ったのを確認すると、マンティコアはすぐに出発した。
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