ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

192話「ラインナップの追加」



 さらに数日が経過したある日のこと、王都を歩いていた俺はすれ違う冒険者たちの会話が耳に入ってきた。


「なあ、お前はどれくらい手に入れた?」

「俺はCランクのオークとDランクのザッピーだな。お前は?」

「最近になってBランクのオークジェネラルをゲットしたぜ!」

「マジかよ!」


 冒険者の話題は、どうやらグレッグ商会で販売している木工人形の話をしているらしく、どれだけレア度の高い人形を手に入れられたかで盛り上がっている。


 最近の冒険者、特に男性冒険者の間で木工人形集めが流行しており、以前までは稼いだお金を装備や飲食や娼館などに使っていたが、その中に木工人形が追加され、現在ではそれで一山当てる冒険者も珍しくないほどだ。


 レア度の高い木工人形は、その出現率も低いが仮に引き当てることができれば、それだけでちょっとした一財産になるからだ。そう、俺が設定した。


 そして、木工人形は何も冒険者の間だけで流行しているわけではなく、お金に余裕のある平民や貴族なども子供のおもちゃや大人のコレクションとしても人気が高く、現在生産が追い付いていないほどに人気商品となっている。


 一方、木工人形と同時期に販売した動物やモンスターをデフォルメしたぬいぐるみも好評で、特に子供や女性の間でとてつもない支持を得ており、こちらも生産がまるっきり追いついていない。


 この商売のネタを他の商会が放っておくはずもなく、独自のルートで類似品を生産販売しているようだが、本家の木工人形とは品質も値段もよくないため、ほとんどの人間がグレッグ商会の木工人形を贔屓にしている。


 そんな木工人形とぬいぐるみだが、そろそろ新しいバージョンを出す頃合いではないかと思い始めている。だが、ここで新バージョンを出すにあたって問題となってくるのは人手だ。


 開発自体は俺一人でなんとかなるが、それを大量生産しようと思ったら、それなりの人手が必要となる。


 職人ゴーレムを追加して、それらをフル稼働させればできないことはないのだろうが、それでは俺がいなくなった時に生産ラインがストップしてしまう。


 現在、職人ゴーレムで賄っている商品は、魔石英と暗魔鉱石を使ったブレスレットに髪留めのヘアピンなどグレッグ商会を立ち上げてから販売し続けている商品ばかりだ。


 比較的新しめのシュシュやぬいぐるみと木工人形に関しては、女性店員の中から裁縫ができる者と、新たに雇用した木工職人のガンザスで量産体制を確保しているが、まだまだ生産数が少ないため、そこも職人ゴーレムたちに頼り切ってしまっているのが現状である。


 尤も、職人ゴーレムの生産ラインは、グレッグ商会に預けてあるストレージと繋がっている魔法鞄から取り出せばいいだけなので、俺がいなくても職人ゴーレムが商品を生産し続ける限り、生産がストップすることはない。


「よし、そうと決まればさっそく作っていくとするか」


 いろいろとクリアしなければならない問題はありつつも、それはあとでなんとかすればいいと考えた俺は、開発のため瞬間移動でオラルガンドの自宅に移動する。


 この自宅を借りてまだそれほど時間が経ってはいないが、宿で暮らしていた頃よりは格段に生産性が向上しており、その点だけ見ればこの自宅を借りたことはいいように思える。


 しかし、現在俺がメインとして活動している拠点は王都にある屋敷であるため、オラルガンドの自宅は半ば職人ゴーレムたちの生産工場と化している。


「うーん、使ってないにしては埃一つないな」

「ゴシュジンサマ、オカエリナサイマセムー」

「ああ、ただいま……って、誰だ?」

「コチラデスムー」

「……」


 そこにいたのは、見覚えのあるゴーレムだった。三十センチほどの小型のストーンゴーレムで、確かプロトと名前を付けた俺が一番最初に作ったゴーレムだったはずだ。


 実は、戦争が終結してしばらくした後、スカル・ドラゴンとの戦闘で使ったロボレンジャーのメンテナンスの際、ナガルティーニャとの修行が終わった後の帰りに出会ったSランクのモンスター【ハイドラントヴァンパイア】の魔石をプロトにチューンナップしていたのだ。


 チューンナップした直後は、いつも通り「ムー」という相変わらずな言葉を発していたのだが、何故か今は片言ながらも人の言葉を操っている。おそらくだが、交換した魔石の元の持ち主であるハイドラントヴァンパイアが関係している。


 なんとハイドラントヴァンパイアと戦った際、高ランクの人型モンスターであることから、人の言葉を操っていたのだ。そのことが今回プロトが人の言葉を話せるようになった原因だと俺は結論付ける。


「プロトか、喋れるようになったのか?」

「ゴシュジンサマカライタダイタマセキノオカゲデスムー」

「やっぱりそれが原因だったか。まあ、お前には今後ロボレンジャーのパイロットとして任せるつもりでいたから、ある程度のコミュニケーションが取れた方が便利といえば便利だからいいんだが……。できれば、そのままムームー言葉を喋っててほしかったな」

「ムー?」


 俺の言っていることが理解できなかったのか、いつもの仕草で小首を傾げている。……くそう、こういう可愛いところは変わっていないのかよ。


 そんなことを思っていたが、ここで少し気になる点があったのでプロトに問い質した。


「そういえば、お前どうやってストレージから出てきたんだ? 出した覚えがないんだが」

「ハナシガデキルヨウニナッテカラ、ジユウニデラレルヨウニナッタデスムー」

「理由はわかるか?」

「ワカリマセンムー。ソレト、サシデガマシイトハオモイマシタガ、ゴシュジンサマガイナイアイダ、コノイエノカンリヲプロトガヤッテオキマシタムー」

「家が綺麗だと思ったら、お前がやってくれていたのか。ありがとう、助かったよ」

「オヤクニタテタノナラサイワイデスムー」


 あまり掃除をしていないのに、埃一つないと思ったら、どうやらバージョンアップしたプロトがやってくれていたらしい。小さな体で掃除をしてくれていたのだろうかと思って聞いてみたが、どうやらプロトが俺が創造したゴーレムの中で最も序列の高いリーダー的な立ち位置についているらしく、その権限を使って他のゴーレムたちに指示したらしい。


「マジかよ。お前、そんなに偉い存在だったのか」

「エッヘン」

「調子に乗るな。ちょっと、工房のスペースを借りるぞ」

「ドウゾ」


 唐突の出来事に多少面食らったが、使い勝手のいい助手ができたと思えば、プロトのことはすぐに受け入れることができた。


 それよりも、ここへ来た目的である新しい木工人形とぬいぐるみを作製するべく、職人ゴーレムに混じって作業を開始することにする。


 まずは木工人形だが、トレーディングカードゲームのように新しい弾を出すという方式ではなく、今までのラインナップに数種類新キャラを追加する方式を取る。


 こうすることで、完全に新しい弾を出すよりも増える種類を少なくすることができ、その分今の生産体制でも対応は十分に可能になるはずだという目論見だ。


「まずは、各ランク毎に追加する種類を増やす数を決めないとな」


 現在発売されている木工人形は、モンスターのランクに合わせたレア度に設定しており、全部で二十種類でランクも一番下はハズレ枠のFランクから超大当たりのSランクまである。


 今回はSランク以外のランク毎に一種類と、そして新たに特殊な二種類を追加することにした。


「特殊なやつはあとにして、まずは各ランクの人形から作っていくか」


 それから、ランク毎のモンスターを作っていき、できあがったものを並べていく。若干気になったのが、プロトが傍に控えており、俺が木を削って出した木の粉を定期的に掃除してくることだ。


 まあ、あとでどのみち掃除をするから先にやってくれることについてはいいのだが、俺が一体一体完成させる毎に掃除をするものだから、少し気が散る。


「プロト。できれば、掃除は全部終わってからやった方が効率がいいんじゃないか?」

「ワカリマシタ。ツギカラソウシマスムー」


 そう言って、今度は俺の作業をじっと見続けるようになってしまった。……余計に作業に気が入らなくなってしまったことに内心でため息を吐きながらも、がんばって仕上げていく。ちなみに、新たに追加したモンスターは以下の通りとなっている。



【Fランク】:ホッピングラット

【Eランク】:フォレストアント

【Dランク】:ゴブリンメイジ

【Cランク】:バトルマンティス

【Bランク】:オーガ

【Aランク】:キングウルフ



「よし、これで完成だ。次はぬいぐるみだけど。これは地球にいた動物を模したものでいいか」


 ぬいぐるみは別に実在する生き物でなくとも可愛らしいものであればいいため、デフォルメされたヒヨコや、地球ではお馴染みな動物たちを中心に作ってみた。


 一通り完成したので、後片付けをプロトに任せ、俺はそのまま王都へと帰還する。時間帯的に夕方だったので、お披露目は翌日の朝ということにしておいた。


 後日、新たに木工人形とぬいぐるみに新作が出たという噂が広まり、ますます売れ行きが伸びていくことになるのであった。

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