ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
189話「ローランド、生産に着手する」
戦争が終結して数日が経過した。今回の一件の詳細把握が終わっていないため、戦争の終結が国民に広まるまでまだ多少の時間が掛かるらしく、王都は未だにピリピリとした空気が漂っていた。
しかしながら、そんなことは俺にとってはどうでもいいことであると言わんばかりに、今回は久々の生産回を展開していこうと考えていた。
「さて、何を作ろうか……」
グレッグ商会やコンメル商会で新たに販売する商品の開発をするべきか、それとも地球でよく食べていた新しい料理の再現を行うべきか、悩みどころである。
スローライフを満喫している身としては、最終的に両方やることは確定だとしても、優先的に行うべきものというのはどんなジャンルにおいても存在するものである。
であるからして、現在進行形でこうして悩んでいるのだが、どうしたものかと悩んでいたその時、突然ドアがノックされる。
言い忘れたが、今俺がいるのは王都の屋敷の自分の部屋であり、時刻はまだ早朝といってもいい時間帯なのである。
「失礼いたします。ローランド様、朝食の準備が整いましたので食堂へお越しくださいませ」
「わかった」
部屋に入ってきたのは執事のソバスで、朝食の支度ができたことを告げるためにやってきたようであった。俺はソバスに短く返事をすると、朝食を食べるため食堂へと向かった。
食堂には既に使用人たちが出そろっており、視線はこちらへと向けられている。俺の屋敷では、俺を含めた使用人全員が同じテーブルで食事をするという決まりのようなものがある。
その理由としては、俺が貴族でないということもそうだが、俺一人だけ食事をしているのに対し、他の使用人がこちらの食事風景を見ながら給仕されるということに一種の抵抗を感じてしまったからである。
であるからして、うちのルールとして食事をする時は基本的に全員が出揃ってから同じテーブルで食事をするという決まりを作ったのだ。そのため、貴族の家では絶対にお目に掛かれない光景が広がっていた。
「ロ、ローランド様、この決まりは止めちゃダメなんですかい?」
このルールは、普段厨房にいるはずの料理人であるルッツォも適応されるため、居心地が悪そうな様子で席に着いている彼の姿もあった。そんな姿を見たメイドたちがクスクスと笑っていることも、彼の居心地の悪さに拍車をかける要因となっているのだろう。だが、食事とはみんなで食べるべきものであると俺は思っているし、実際に食事をしている人たちを間近で見ることで、直接料理の感想をもらうことができるし、改善点なども見つかりやすくなるため、彼にとっては悪いことではないはずだ……たぶん。
「ルッツォ。料理人はただ無感情に料理を作るだけが仕事じゃない。その人に合わせた料理を作ることもまた仕事なんだ。だからこそ、普段から彼らの様子を見ることでその人に合った料理を作るヒントを得られることだってある。そういうことを知ることができるのだから、これはお前にとっても料理人としての幅を広げられるチャンスだと思うんだが?」
「は、はぁ……」
言わんとしていることは理解できるが、納得はできないという様子のルッツォに、俺は内心で苦笑いを浮かべながらも、全員が揃ったので食事の合図を出し食べ始めた。
本日の朝食は、果実から取れる酵母で作った柔らかい自家製パンにマヨネーズのかかった新鮮なサラダと、今朝取れたばかりの卵を使った目玉焼きだ。
あれから時間を見つけては、いろいろと試行錯誤を繰り返した結果、食材を自力で確保できる生産ルートを開拓したのだ。
例えば、目玉焼きに使った卵だが、以前は市場で購入していたものであった。だが、卵を生産する鶏自体を仕入れて庭師のドドリスに世話をお願いしている。ドドリスの他にも王都の孤児院にも十数匹ほど飼育してもらっており、その卵が孤児院の新たな運営費の収入源として役立ってくれていたりする。
サラダに使っている野菜も、屋敷や孤児院で育てているものを使用しており、まさに自給自足という言葉に相応しい。いずれは生産量を増やして、もう少し収穫量に余裕を持たせたいという計画を考えていたりするのだ。
「あ、あのローランド様」
「む?」
そんなことを考えていると、ルッツォが遠慮がちに声を掛けてきた。何事かと小首を傾げてその先を促すと、おずおずとした態度で問い掛けてきた。
「私の料理の味はいかがでしょうか? 教えられたレシピ通りにできていると良いのですが……」
「ああ、なるほどな」
ルッツォには、時間を見つけて俺が知っている地球の料理を教えている。いずれは俺と同じか、それ以上に作れるようになってもらいたいので、教え方にも多少熱が籠っていたことは彼には内緒だ。
とにかく、今日は珍しく同じ食卓を囲むことができるという稀有な日だった。そのためか、料理の味が美味くできているか確認したかったのだろう。
そのように結論付けた俺は、改めてルッツォの作った朝食に手を伸ばし、それぞれ一口二口ほど口にして味を確認していく。
国王が用意してくれた使用人ということもあり、宮廷料理人とまではいかないまでも一流と言っても差し支えない技術をルッツォは持っている。そんな人間に俺みたいな素人が叶う道理もなく、できあがった料理は俺が教えたレシピ通りに作られていた。
この調子であれば、いずれ自分自身で味の改善を行いオリジナルの料理も作り出すことだろう。それだけ料理人としてのルッツォの技術は高かった。
「うん、まったくもって問題ない。俺の教えた通りの料理ができている」
「そうですか。それはよかったです」
「……」
ルッツォの言葉を聞いて俺は思案を巡らす。今日の予定を決めあぐねていた俺だが、この機会に新しい料理の再現を試みてもいいかもしれない。そう結論付けた俺は、ルッツォに声を掛けた。
「ルッツォ。今日はお前の厨房を借りて新しい料理を作ろうと思うんだが、手伝ってくれないか」
「は、はい! 喜んで!!」
料理人にとってレシピというのは、秘匿すべき財産であると同時に代々受け継がれてきた歴史そのものである場合が多い。そんな大事なものをほいほいと教えるというのはあまり褒められた行為ではない。
しかし、俺は料理人じゃないしレシピ自体も俺が考え付いたものではなく、日本でよく親しまれていた家庭料理がそのほとんどを占めている。
この世界においては斬新なレシピではあるものの、基本的に俺が作ってきた料理は一般的な家庭で再現できるものが多く、難しい技術を必要としない。
あまりレシピを不特定多数に教えることはしないが、使用人や身内の内々で広めるくらいは問題ないと思っている。
俺の話を聞いた他の使用人たちも、俺の新しい料理が食べられるかもしれないということで目を輝かせている。……少々、餌付けが過ぎてしまっただろうか?
とにかく、今日の予定が決まったので、朝食が済んだ俺はルッツォとともに厨房へと向かった。
その日は、様々な料理の再現に成功しルッツォが作れるレシピの中に【オムライス】・【ハンバーグ】・【とんかつ】・【ロールキャベツ】・【魚の煮物】・【果物のゼリー】などが追加された。
余談だが、当然作ったそれら料理を俺とルッツォ二人で食べきれるわけもないので、他の使用人に昼食として提供した。そして、その料理を食べて使用人たちがどうなったのかということは言うまでもない。
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