ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

187話「戦争の終結」



 セコンド王国軍が陣を敷いていた場所から、徒歩で約一時間の距離にあるセコンド王国側の平原に俺はいた。ゴーレムの力を借りて、セコンド王国の兵士たちを運び終えた俺は、次なる一手を打つことにする。


「【魔力結界展開】」


 今回のセコンド王国侵攻を受け、俺はかの国に対し罰を与えることにしたのだ。その罰とは……国境断絶の刑である。


 再三にわたりシェルズ王国に侵攻を繰り返していたセコンド王国だったが、それが可能となっていた理由としては、両国が隣り合った国同士だったからだ。


 敵国同士であるため、侵攻を抑えるための砦や関所などは当然設けている。とはいえ、侵攻自体を防ぐことができないため、毎度迎撃せざるを得ない状況が続いていた。


 戦力さえ整えばすぐに侵攻してくるセコンド王国に、嫌気が差し始めているシェルズ王国にとって、セコンド王国の侵攻は目の上のたん瘤と言っても過言ではない。


 であるならば、侵攻を物理的に不可能にしてしまえばいいと考えた俺は、セコンド王国の国境線に沿って結界を張ることにしたのである。


 淡い緑色の薄い膜状の結界が、セコンド王国の国境に沿って張り巡らされていく。国一つを結界で覆いつくすという作業はとんでもなく魔力を消費するが、今まで手に入れていた魔石を使い、不足分の魔力を補いつつ何とか結界を張ることに成功した。


 結界の効果については至ってシンプルで、“セコンド王国に属する人間とシェルズ王国に敵意を持った人間を通さない”というもので、この条件に当て嵌らない人間はこの結界を通ることが可能だ。


 念のため、結界の魔力を使って結界内の土地を豊かにするシステムを組み込むことにより、凶作による飢餓などにならないよう配慮はしてある。


 勘違いしないで欲しいのは、セコンド王国の民を根絶やしにするということが目的ではなく、一時的にシェルズ王国の侵攻をできないようにして反省を促すということを行いたいのであって無慈悲な殺戮をしたいのではないのだ。あくまでも、反省させることが目的であることを声を大にして言いたい。


「こ、ここは一体どこだ! 何が起きたんだ!?」


 結界を張り終えてしばらく経過した時、一人の男が騒ぎ出す。どうやら睡眠魔法の効果が切れたようで、周りの兵士たちも目が覚めているようだった。ちなみに兵士を運んできたゴーレムたちはすでにストレージに収納済みだ。


 騒いでいる男は金髪碧眼で端正な顔立ちをしているものの、纏っている雰囲気が陰湿であることから、見た目はいいが性格が最悪といった部類に入る人間なのだろう。装備品のレベルから見て、おそらくはこの軍を率いる総大将だと見受けられる。たぶん貴族だ。


「目が覚めたようだな」

「だ、誰だ貴様は! 何者だ!?」

「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀ではないのか? 増してやあんたは貴族なのだろう。礼を失する行為は、貴族にあるまじき行為だと思うが?」

「ぐっ」


 正論を言われて高圧的な態度が鳴りを潜めるものの、それもほんの刹那の時間だったようで、不遜な態度で男が名乗りを上げる。


「私の名はドルチェアン・フォン・ドガッバーナ。ドガッバーナ侯爵家の当主であり、この軍の全権を握っている総大将である!!」

「ド〇チェ&ガ〇バーナ?」


 男の名を聞いた瞬間、前世の地球で存在していた某高級ファッションブランドの名前が頭に浮かんできた。……うん、これは地球にいた人間であれば、そう思ってしまうのは仕方のないことだ。


「ドルチェアン・フォン・ドガッバーナだ!!」

「そんなことはどうでもいい。とりあえず、セコンド王国の国王に伝えておけ。“お前たちセコンド王国には罰を与えることにした”と」

「罰だと? なんの話をしているのだ!」


 俺の台詞に、ドルチェアンは訳が分からないと言わんばかりに声を荒げる。そんな彼に、俺は一から懇切丁寧に説明してやった。


「いいか、お前たちセコンド王国の人間は再三にわたってシェルズ王国に侵攻してきた。それは歴史から見ても明らかだ。そして、その侵攻の理由はただの逆恨みから来る私情的な理由であり、そこに大義名分など存在しない自己中心的なものでしかない。その自分勝手な思いが原因で、長きにわたって戦争が繰り広げられ多くの血が流れた。その罪は決して軽くはない。だからその罪に対して罰を与えるんだ」


 元々セコンド王国は、かつてのシェルズ王国にいた国王とその兄弟が仲違いをしたことでできた国とされており、その仲違いの原因もセコンド王国を建国した兄弟にあるという背景がある。


 そして、その頃から事あるごとにセコンド王国からシェルズ王国に対する侵攻があり、それを迎え撃つためにシェルズ王国も兵を出すということが繰り返されていたと、歴史書に載っていた。


 その歴史書がどこまで本当のことが書かれているのかはわからないが、今のセコンド王国を見ていれば、歴史書に書かれていることもあながち間違いではなかったと今になっては思う。


「だ、だまれ! 我ら誇り高きセコンド王国が、間違っているなどありえんのだ!!」


 正論を振りかざされて自棄になったのか、ドルチェアンが腰に下げていた剣を抜き放ち襲い掛かってきた。完全に逆切れ甚だしい行為だが、こういう展開になる可能性をあらかじめ予想していた俺は、すぐ後ろにある結界を抜けだすため後ろ飛びで距離を取った。


 すると結界の外に抜け出すことに俺に対し、結界に阻まれその体ごと弾かれてしまったドルチェアンの姿があった。結界の効果が発揮されるかどうかの実験をやってみたいと思っていたが、どうやら効果はちゃんとあるようで内心で安堵する。


「ド、ドルチェアン様!?」

「な、なんなんだこれは!」

「結界だよ。しかも“セコンド王国に属する人間とシェルズ王国に敵意を持った人間を通さない”という限定条件付きのな」

「な、なんだとぉー!?」


 部下の兵士に起こされたドルチェアンの問い掛けに答えてやると、これでもかと目を見開き驚愕する。俺の言葉を信じられないといった様子だ。


「今すぐこの結界を解け!!」

「そんなことを言われて“はいそうですか”と結界を解く馬鹿がどこにいるんだ?」

「き、貴様ぁ!」

「ちなみにだが、この結界が消える条件は“国王と貴族を含むセコンド王国国民が、シェルズ王国に対して敵意を持たなくなった時、または五百年の時が経過した時”だ」

「な、なぁっ!?」


 俺の言葉を受けて、先ほどよりもさらに目を見開きドルチェアンが驚愕と絶望の表情を浮かべる。


 ちなみに、五百年という長期にわたって維持し続ける結界を生み出すことは今の俺にはできない。おそらくだが、ナガルティーニャでも不可能だろう。


 だが、それを可能にする術として空気中の魔力を取り込み、それを動力源とすることで結界を維持するという方法がある。


 俺の魔力単体では、どう頑張っても五十年や百年そこら程度しか維持はできないが、空気中の魔力を周囲に影響が出ない程度にかき集めて運用すれば、五百年という長期間の結界維持も可能となるのである。


 とにかく、もうやるべきことは完了したのでドルチェアンに一言声を掛ける。


「じゃあそういうことだから、ちゃんと国王に伝えておけよー」

「ま、待てっ! 話はまだ終わっていないぞ!!」


 そのあともドルチェアンが何か言っているようだったが、こちらとしては向こうの言い分など聞いてやる道理はないため、そのまま無視してその場をあとにした。


 こうして、バイレウス辺境伯に宣言した通り、一人の怪我人も死人も出すことなく、この世界で初めて経験する戦争は、不戦勝という形であっけなく終了したのであった。

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