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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

186話「作戦決行」



「【クリエイトゴーレム】」


 俺はゴーレム生成の上位スキル【無機生物創造】を使って、今回の作戦に必要なゴーレムを生み出していく。


 いろいろと考えた結果、死者を出さずにこの戦争を終わらせる方法は“ゴーレムを使い、兵士を捕まえてそのままセコンド王国に強制送還する”だった。


 魔法を使えば簡単に追い返すことはできるだろうが、魔法を使えば怪我人が出るだろうし、打ちどころが悪ければ最悪死人が出てしまう。


 バイレウス辺境伯に一人の死者も出さないと言った手前、死人が出てしまう可能性のある選択肢はできるだけ避けたかった。そこでゴーレムの出番である。


 やることは至って単純で、今回の敵の兵士の数と同じ三万のゴーレムを生成し、一人の兵士につき一体のゴーレムを宛がうことで、今回の作戦を実行可能にすることができる。


 といっても、三万という膨大な数のゴーレムを生み出すためには、かなりの魔力を必要とするため、この作戦が実行可能なのは俺の他にはナガルティーニャだけだと考えている。ロリなババアだが、伊達に俺の師匠はやっていないといったところだろう。小賢しいことこの上ない。


 ひとまず兵士を捕まえるためのゴーレムを生み出すため、まずは職人ゴーレムを生成する。それから、その職人ゴーレムに指定した捕獲用のゴーレムを順次生産してもらうことで短時間で目的のゴーレムを生成することができた。


 捕獲用のゴーレムは今の俺の身長と大して変わらず、大きさが百四十センチ、運び出すものが人間ということもあり木製ではなく石製のゴーレムを選択した。


 生産を始めてものの一時間弱で三万体の捕獲用ゴーレムが生産され、兵士を運び出す準備は整った。しかしながら、まだ問題点が残っている。


「運ぶ手段はこれでいいが……運ぶ時絶対暴れるよなー」


 そう、三万の兵士を運ぶために三万のゴーレムを用意するところまではいいのだが、問題は運ぶ時に兵士が抵抗するということだ。


 自分の意志に反して、自身が第三者に担がれて運ばれている姿を想像してもらえればよくわかることだろう。そんな状況を黙って受け入れるわけがないということを。


 当然抵抗するために暴れるのは想像に難くなく、下手をすれば逃げられる可能性が高い。ならば抵抗できないようにする手段を講じる必要が出てきてしまう。


 手間を省きたいのであれば、兵士が寝ている時間帯を狙うべきだろうが当然見張りがいるだろうし、兵士全員が眠りこけているなどという可能性はないと考える。


 仮にそんな状況だったとしても、自分の体が運び出されればそれに気付いて起き出す者も少なくないため、やはり意図的に無抵抗な状態にする必要があるのだ。


 少しばかり考えたが、意外にもすぐに答えは出てきた。


「そうだな。抵抗されるなら、全員魔法で眠らせてしまえばいい」


 兵士を運んでいる間に抵抗されないようにする方法として、俺は魔法で兵士たちを眠らせる手段を取ることにした。魔法で眠らせるといっても、一人二人という少数の話ではなく万単位の話なので、そんな簡単な話ではない。


 一人一人に睡眠の魔法を掛けてまわることはできなくはないが、掛けている途中にバレる可能性もあるし、何よりも使用する魔力量が多い。いくら強くなった俺とはいえ、三万の人間に一度に一つの魔法を行使するのは容易ではなかった。


「まあ、できないわけじゃないけど。何人かは抵抗されて眠らないかもしれんな」


 日頃から魔力の制御と操作に関しては、日課のように研鑽を積んではいる。できる限り毎日やるようにはしているお陰もあって、今では【魔力制御】と【魔力操作】のスキルが統合され【魔道の心得】の上位スキル【魔道の極意】にまで進化を遂げている。


 その力をもってしても、一度に大量の人間に魔法を行使することは難しく、どうしたものかと悩んでいたが、ふととある答えにたどり着いた。


「そうだ。三万の魔法を同時に使うのではなく、超広範囲の魔法を一度だけ使用すればいいんじゃないか?」


 いろいろと考えを巡らせた結果、俺は単体魔法を連続して同時使用するのではなく、その魔法自体を超広範囲化させればいいという結論を導き出した。


 本当にそんなことが可能なのかは別として、この世界における魔法という概念を改めて説明しよう。


 この世界での魔法というものは、魔力と呼ばれる未知のエネルギーを消費し、頭でイメージした事象を具現化させるれっきとした物理現象である。


 魔法というものが存在する世界によっては、魔法陣に組み込んだ術式の記述やプログラミングに似たそれ以外の要素が関わってくる場合があるものの、この世界においてはそのようなものは必要としない。ただ頭でイメージするということが重要なのである。


 某有名RPGに登場するホ〇ミやベ〇ラマなどといった魔法も魔法陣などは必要とせず、操作するキャラクターが就いている職業によって覚える魔法が異なる程度の簡単なものでしかない。この世界もそれと似た理が適用されている。


 もちろんただ頭でイメージしただけでは魔法は発動せず、一定の魔力を要求されるため、頭のイメージは完璧でも魔力不足によって魔法が発動しないなどということはよくあることだ。


 しかも魔法発動における条件が“頭でイメージしたもの”という簡単なものでしかないため、要求される魔力は他の世界と比べてもかなり多い部類に入る。


 そして、この条件はこの世界の住人たちのほとんどが周知しておらず、先人たちが行ってきた的外れな方法で魔法を習得していることがほとんどなのだ。


 それに加えて、魔法を使うための条件として、発動させたい魔法に対応する属性の魔法スキルを習得していないと、発動させることはできない仕様になっている。例えば、火の魔法を使いたいのであれば、【火魔法】または【炎魔法】が必要になってくるといった具合だ。


 もしそうでなければ、この世界は魔法使いで溢れかえっていたことであろう。その条件があるからこそ、この世界の魔法使いの総数が一定に保たれてきたのではないかと俺はそう考えている。


 いろいろと御託を並べたが、とどのつまりゴーレムを使って兵士を運搬するには、兵士に抵抗されないよう睡眠の魔法で起きないように眠らせて運べばいいということだ。ただし、運搬中に暴れないよう兵士全員に睡眠の魔法を掛ける必要があるという条件付きの話ではあるが……。


「さて、やってみるか。【エリアワイデンスマジック】・【スリープ】」


 光系統の属性を持つ【エリアワイデンスマジック】と闇系統の属性を持つ【スリープ】を順番に使用し、対象の兵士たちに超広範囲化したスリープを掛けていく。指定する範囲がかなりのものであるため、要求される魔力量が多く自身の体からみるみる魔力が失われていく感覚に襲われる。


 それでも、三万回分のスリープよりかは少ないらしく、なんとか魔力が足りてくれた。セコンド王国の兵士たちが陣を敷く拠点全体を、薄い青色の膜が包み込む。それを目の当たりにした兵士たちは警戒の色を浮かべたが、すぐに襲ってきた睡魔には逆らうことはできなかったようで、深い眠りへと誘われていった。


 その様子を窺いながらすべての兵士が眠ったのを確認した俺は、生成したゴーレムたちに指示を出す。


「兵士たちを運び出せ」

『ムー』


 三万という膨大な数のゴーレムが、相変わらずの珍妙な鳴き声で返答すると、敵の拠点へと向かった。そして、俺の指示通り眠っている兵士たちを担ぎ上げると、そのままセコンド王国の領地に向けて行進を開始する。


 これほどまでの圧倒的な数のゴーレムが揃っているのは圧巻の一言ではあるものの、ゴーレム一体一体がやっていることはただただ人ひとり担いで元居た場所へと運搬しているだけという内容であるため、なんとも言えない感情が浮かんでくる。


 こうして、一人の怪我人も死者も出すことなくセコンド王国の兵士たちを退けることに成功したのであった。

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