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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

181話「戦争の始まり」



「それで、どうだったんだ?」

「間違いなかったですのん」

「そうか」


 モチャの報告に、深刻な顔を張り付けながら俺はそう答える。事の発端は、俺の元に寄せられた水色の紙が始まりだった。


 水色の紙というのは、俺が出ていったマルベルト男爵家の跡取りである我が弟マークに渡してある緊急連絡用の特殊な手紙である。


 前世で言うところの電報のような機能を持ったそれは、何かどうしようもない問題が起きた時のみに使用を許可しているもので、前回は現当主である我が父ランドールが流行り病に侵され、死の淵を彷徨っているから助けて欲しいという旨の内容だった。


 そして、今回寄せられた内容は前回よりもさらに深刻度の高いものであり、なんでも隣国のセコンド王国がシェルズ王国に侵攻する動きがあるらしく、近々戦争になるかもしれないというにわかには信じられないものだった。


 セコンド王国とシェルズ王国は長い歴史の中で仲が悪く、定期的に戦争になっているのは歴史書などで知ってはいたが、まさか停戦協定が結ばれて僅か十年足らずで再び攻めてくるとは考えていなかった。


 通常戦争の終戦から復興までに掛かる期間は、失った労働力や物資を調達するのに使用した予算など様々な要素が複雑に絡み合っており、とても十年では足りないほどだ。


 それこそ戦争が終結してすぐに次の戦争の準備を進めておくくらいでなければ、十年での準備は困難だろう。それこそ、不十分な準備での侵攻であれば話は別だが、一度敗北している相手に負けるとわかっていて戦争を仕掛けるほど、国を治めるほどの人間が気付いていないわけがない。


 とにかく、いくら弟の寄こした手紙とはいえ事実確認なしに行動を起こすのはあまりにも軽率なため、一度モチャを斥候として情報収集をするよう放っておいたのだ。


 王都からセコンド王国との国境までかなりの時間を要するが、俺には瞬間移動があるため、一度マルベルト領までモチャを送り彼女が情報収集したのち、数日後に改めてマルベルト領まで彼女を迎えに行く形を取ったのである。


 そして、モチャの情報によると、セコンド王国との国境にあるバイレウス辺境伯が治める領地バイレウス領では、慌ただしく人の出入りがあり、武装した兵士たちが終結し戦いの準備に備えていたとのことらしい。


 それだけではまだ確実な情報とは言えないので、他にも調べさせたところ、シェルズ王国とセコンド王国の国境を跨いでいる平原にセコンド王国軍と思しき軍勢が終結しており、ざっと数えたところその数は三万は下らないとのことであった。


 三万というそれほどの数の人間が何もない平原に集結する理由など戦争以外にはなく、その情報をもってセコンド王国がシェルズ王国に侵攻……戦争を仕掛けてきたことを俺は確定させた。


「戦争が始まってしまうことはわかったが、それにしては国王からの呼び出しがないな」


 戦争という国にとっては一大事の出来事なのにもかかわらず、シェルズ王国のミスリル一等勲章を所持している俺に声が掛からないことに違和感を感じる。


 長い間戦争状態と停戦状態を続けている隣国の警戒を怠っているなどということはないだろうから、事前に戦争の知らせが国王の耳に入っていないということは恐らくはない。


 となってくれば、事前に情報を得ていながら俺に知らせる必要がないと判断したか、こちらが事前に情報を得ていることを想定して動いているかのどちらかということになる。


 仮に前者であるならその思惑はいくつかあるが、後者だった場合俺が何かしらの動きを見せないと後手に回ってしまう可能性が出てくる。そんな不確定な要素が絡んでしまう選択肢を取るほど愚かな人間ではないだろうと思いながらも、とりあえず状況を把握するために、俺はモチャにソバスに詳細の説明をするよう指示してから国王のいる執務室へと瞬間移動した。


 余談だが、モチャへの労いとして国王のところへ行く前にスイートポテトを差し出してやると、いつものように小動物の如き様相で食べていたことを付け加えておく。


「おぉ、またいきなり現れたな。びっくりするから普通にやってきてもらいたいんだが……」


 執務室に移動すると、国王のそんな呑気な声が聞こえてくるが、事態が事態だけに俺は用件を手短に口にする。


「そんなことよりも状況はどうなっている?」

「……なんのことだ? 話が見えないのだが」

「まさか、まだ知らないのか?」

「知らないとはどういう――」


 俺の言葉の意味を訝しむ国王が問い質そうとしたところ、突然ドアのノック音が響き渡る。国王が「入れ」と許可を出すと、兵士が慌てた様子で入ってきた。


「も、申し上げます! バイレウス辺境伯よりの早馬で、国王陛下に火急のお知らせがあるとのことでこちらを預かって参りました!」

「うむ、ご苦労。下がってよいぞ」


 兵士が差し出した羊皮紙を受け取ると、労いの言葉を掛けたあと執務室から兵士を退室させ、国王は徐に読み始める。国王が読み進めていくうちに、徐々に顔が険しくなっていくのがわかった。


 羊皮紙に書かれていた内容に一通り目を通した国王が、ため息を一つ吐くと座っていた椅子の背もたれに体を預けながらぽつりとつぶやいた。


「お前の言う通り、隣国のセコンド王国が攻めてきたようだ」

「だからそう言っている。で、これからどう動く?」

「無論、攻めてくる以上それを防ぐために迎え撃つことになる」

「それはわかっている。俺が聞いているのは、俺がこの戦いにどう参加するのかということだ」


 自分で言うのもなんだが、俺の力はそれこそ国一つを相手どれるほどの能力を有しており、はっきり言って化け物のそれだ。そんな人間が、国同士の戦争のどちらか片方に味方すればどんな決着になるかは目に見えており、圧倒的なまでの蹂躙で終わってしまうだろう。


 だからこそ、今回俺が戦争に参加する方法を国の責任者である国王にあらかじめ聞いておかねばならないのである。下手に参加して相手の軍を壊滅させてしまうと、いろいろと問題が出てくる可能性があるため、ここは慎重な行動を取ることが必要になってくる。


「やってくれるのか?」

「もちろんだ。だが、あまりやり過ぎると問題がありそうなんでな。どの程度までの介入なら問題ないか聞いておきたい」

「毎回の恒例とはいえ、いい加減この戦争に終止符を打ちたい。遠慮せずに暴れてくれ」

「いいのか? 滅茶苦茶なことになるかもしれんぞ?」

「セコンド王国とは長きに渡って戦争をし過ぎた。もはや関係の修復は不可能と言っていいくらいに。これ以上セコンド王国の好きにさせておけば、流さなくていい多くの血が流れることになる。だから、遠慮せずにやってほしい」


 こうして、国王から戦争についての参加条件を聞き出した俺は、また会いに来る旨を国王に伝え、一度屋敷へと戻るため瞬間移動をした。

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