ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
閑話「それぞれの思惑その2」
~ Side モチャ ~
私の名前は、モチャ。でも、最近まで私に名前はなかった。
というのも、物心ついた時から両親のいなかった私は、気付けば闇ギルドという場所で暗殺者として働かされていたからだ。
でも、とある新興の商会の代表を務める人間を始末するという依頼を受けた時から、私の境遇は変わっていった。
無事に屋敷に侵入し、いざ標的を始末しようとしたその時、私の体は宙に浮いた状態で拘束されていた。私を捕まえたのは、金髪で綺麗な緑の瞳を持った少年だった。
言動が妙に大人びており、どこかの貴族の子弟かとも思ったが、纏っている雰囲気がどうもちぐはぐしており、要領を得ない。
任務失敗を悟った私は、奥歯に仕込んでいた自決用の猛毒を飲み込んだが、私を拘束した人間に先手を打たれてしまい、死ぬことはできなかった。
それから、おかしな能力を使われ闇ギルドの情報を話してしまった私は、私を捕らえた少年に殺してくれと頼んだ。だが、その願いが聞き届けられることはなかった。
そのまま少年を闇ギルドへと案内することになった私は、昨日から何も食べていないことを思い出し、途端に腹の虫が鳴り響いた。
内心で恥ずかしがっていると、少年は食べ物を差し出してきた。人からもらった食べ物を食べてはいけないと教えられていたが、今まで見たこともない形状と甘い香りの誘惑には勝てず、思わず手に取って食べてしまった。
(な、なんですのんこれは……)
それを口にした瞬間、私はまるで大きな槌で殴られたような衝撃を受けた。そのあまりの美味しさに、二つ三つと食べてしまっていた。
私が食べるのに夢中になっていたその時、不意に頭に温かい感触が伝わってきた。何事かと思い見てみると、少年が私の頭を撫でていたのである。
今まで生きてきた中で頭を撫でられるという経験をしてこなかった私は、少年の突然の行動に困惑した。しかし、どこか幸せな気分が溢れてくることに気付いた私は、しばらく彼のされるがままになっていた。
その後、闇ギルドのギルドマスターの元へと少年を案内し、彼の手によって瞬く間にギルドが制圧されてしまった。これで私も闇ギルドから解放されると同時に、今までやってきた罪を償う時が来たかと覚悟を決めていると、少年の口から思いもよらない言葉が発せられた。
「あー、コホン。お前さえよければ俺に雇われる気はないか?」
「っ!?」
気付けば、私はその少年に膝を折り平伏していた。私が生まれた目的……それは、彼に仕えるためなのかもしれないと考えたからだ。
こうして、ご主人様である彼に仕えることになった私は、ご主人様の屋敷の使用人と顔合わせをすることになったのであった。
~ Side ????? ~
「首尾はどうなっている?」
とある玉座の間にて、一人の中年の男が呟く。それを聞いた彼の傍らに控えている者がそれに返答する。
「上々にございます。軍の編成が整い次第、十日ほどで出兵できるかと」
その返答に、中年の男の顔が醜悪な笑みに変わる。これが魔王や魔族のやり取りであればよかったのだが、残念なことにこの二人の会話は一国を治める人間の王と宰相のものである。
シェルズ王国に隣接する国は二つあり、一つがセイバーダレス公国。そして、もう一つの国がセコンド王国である。
セコンド王国は長年に渡ってシェルズ王国と戦争を繰り返しており、度々ぶつかり合っている国だ。つい十年ほど前もかの国と戦争があり、現在は停戦協定が結ばれている。
しかしながら、停戦協定といっても所詮は口約束みたいなものであり、過去に何度も協定が破られている。そのほとんどが、セコンド王国側からの協定破棄であり、セコンド王国はシェルズ王国を手に入れるべく幾度も侵攻を繰り返していた。
「此度の戦争で、シェルズ王国を我が物にしてくれるわ」
現セコンド王国国王であるセブルス・フィル・ガイル・セコンドが、決意の言葉を口にし、その拳に力を籠める。
歴史的にセコンド王国は、元々何代か前のシェルズ王国の王族の兄弟が仲違いし、そのうちの一人が国を出て新たに興国した国という背景がある。そのため、セコンド王国の王族は代々に渡りシェルズ王国を恨んでおり、いつかその無念を晴らそうと定期的に戦争を仕掛けているのだ。
だが、セコンド王国とシェルズ王国の国力に差があるため、余程のことがなければシェルズ王国がセコンド王国に負けることはない。十年前の戦争でもシェルズ王国側に被害はあったものの、その被害は軽微で済んでいる。
一方のセコンド王国側の被害は甚大で、再び力を取り戻すのに十年の時を要してしまったほどだ。それでもシェルズ王国がセコンド王国を滅ぼさないのは、かつての兄弟の情が残っており、いずれは和解できると信じているからである。
そう考えていたシェルズ王国だったが、度重なる戦争によって失った命の数があまりにも多く、シェルズ王国を恨む思いは消えるばかりか大きくなっており、もはや後戻りできない状態にまできていた。
また、セコンド王国の侵攻によってシェルズ王国側にも死者が出ており、シェルズ王国の国民もセコンド王国の恨みが溜まりつつあった。
「……」
そんな二人のやり取りを聞いている人物がいた。彼女はサリーローナという名前の少女でセコンド王国唯一の姫である。
今代のセコンド王国国王には、元々四人の子供がいた。それぞれ第一王子、第二王子、第一王女、第二王女の四人で、サリーローナは第一王女になる。
何故彼女だけしかいないのかといえば、彼女以外の他の王子たちが経緯はどうあれすでにこの世にはいないからである。
先の戦争により第一王子と第二王子が戦死し、第二王女はセコンド王国の隣国の王族に嫁いだ先で流行り病によりこの世を去ってしまっていた。
あとに残されたのはサリーローナだけであり、実質的に彼女がセコンド王国の王位継承者となっていた。事態を重く見た国王も、新たに側室となる妃を迎えて世継ぎを生むために日々努力しているのだが、末の子供だった第二王女を生んですぐに国王が重い性病を患ってしまい、新たな子供を設けることができない体になってしまっていた。
今年で十五歳となったばかりのサリーローナだが、その見た目はかなり大人びており、二十歳と言われても信じるほどに妖艶な見た目をしている。
長く伸びた艶のある金髪に、宝石を嵌め込んだのかと勘違いするほどに透き通った碧眼ときめの細かい張りのある肌は、いかなる男性も魅了してしまうほどの魅力を振りまいている。
見た目の美しさに加えて、サリーローナ自身の人柄も良く、セコンド王国の至宝と謳われているほどに彼女の名は周辺諸国にまで轟いていた。
しかし、その美しさを渡すまいと父であるセブルスが彼女を軟禁に近い状態で幽閉してしまったため、彼女自身肩身の狭い日々を送っていたのである。
(お父様は、また戦争をしようとしている。そんなことをしても、何の意味もないというのに……)
戦争などというものは、ただただ人が死に悲しみと憎しみが増えるだけの非生産的な無意味なものである。セコンド王国の王族は、そういったまともな考えを持った者が生まれてくることがたまにある。しかし、他の人間が持っている価値観や考えに染まってしまい、最終的には同じ考えを持った人間の集合体となってしまうのだ。
だが、サリーローナはそういった考えに染まることなく、この長き無用な争いにピリオドを打ちたいと考えている数少ない人間であり、今もこうして父である国王の話を聞いて情報を集めているのだ。
(なんとかしなくては、このままではセコンド王国は……)
このまま手をこまねいて見ていることしかできない無力な自分に歯噛みしながらも、国王と宰相の会話から一通りの情報を手に入れたサリーローナは、見つからないうちに玉座の間を後にする。
自室に戻った彼女は、さっそく魔法の掛かった小指くらいの小さな密書箱を伝書鳩の代わりとなる鳥の足に結び付けると、その鳥をどこかへと飛ばした。
「こんな時に英雄様がいてくれたら……」
サリーローナは、小さな頃から御伽噺に出てくる英雄に憧れていた。困っている人を助け、人々を導く英雄が世界のどこかに必ず存在するのだと本気で信じていたのだ。
そんな微笑ましい彼女の願いが、何の因果か叶ってしまうことをこの時彼女はまだ知る由もなかったのであった。
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