ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
閑話「それぞれの思惑」
~ Side ティアラ ~
「はぁ~」
私はティアラ。シェルズ王国の第一王女でございます。今の私が置かれている現状に、思わずため息が出てしまいました。
初めてあの方と出会った時、私は一目惚れをしてしまい、なんとかあの方とお近づきになる機会を得ることができたのですが、私の先走りが原因であの方に避けられることになってしまいました。
私はただあの方の傍にいたかっただけですのに……。もちろんあの方が私を避ける理由は、私が強引に事を進め過ぎたことに原因があるというのはわかっています。ですが、それでも好きな殿方に距離を置かれるというのは、身が引き裂かれるよりも辛いことなのです。
「ローランド様に、会いたい」
恋する淑女の誰しもが抱くほんのささやかな願いですら、叶うことができないことに私の心はますます沈んでいきます。何とかあの方の誤解を解こうと、使者を送ったりしているのですが、色よい返事が返ってきたことはありません。
思い切ってお忍びであの方の住まう屋敷へ赴いたのですが、不在ということで取り合ってもらえませんでした。
一体どこで間違えたのかと、過去の自分自身を問い詰めたい気持ちに駆られましたが、そんなこともできず結局後悔の念が浮かんでくるばかりです。
「こんなことで諦めてなるものですか!」
私はシェルズ王国の第一王女なのです。幼少の頃から欲しいものは、あらゆる手段で手に入れてきました。時には財力で、時には実力で。今回はその両方を駆使して必ずやあの方をものにしてみせます。
それに、今回は一人ではありません。同じ思いを抱く味方がいます。バイレウス辺境伯家令嬢のローレンとローゼンベルク公爵家令嬢のファーレンです。一人では無理なことでも三人でかかれば何とかできるやもしれません。
「そうと決まれば、さっそく行動あるのみです」
それからティアラ・ローレン・ファーレンの三人組が、ローランドと接触しようと画策するも、それを察知した彼によってその計画は尽く潰されることとなったのだが、それはまた別のお話である。
~ Side ゼファー ~
余の名は、ゼファー・フィル・ベルベロート・シェルズ。シェルズ王国国王である。などと厳粛な物言いをしているが、その実態はただの書類整理をする人間でしかない。
自分の普段の呼び方も“俺”だし、他国との外交なども宰相であるバラセトや外交担当の貴族がいなければ、まったく立ち行かない始末だ。
それでも俺が国王として君臨できているのは、シェルズ王国が隣国であるセコンド王国と長い間敵対関係にあることが起因している。
かの国との停戦条約が結ばれて十年ほどが経過しているといっても、友好関係の構築は全くといっていいほど皆無であり、今もシェルズ王国に侵略するのを虎視眈々と狙い続けていると暗部からの情報が上がってくる。
現在も予断ならない状態が続いているが故に、貴族達の結束は他国と比べても密であり、目立って王族に反発するような貴族家はほとんどいない。
そんな折、俺の元に信じられない情報が寄せられた。シェルズ王国でも屈指の迷宮都市オラルガンドに、魔族が襲来したとの情報が入ってきたのである。
どうしたものかと会議を開こうとしていたその矢先、さらに新たに情報が入ってきた。なんと、一人の冒険者の手によって魔族が撃退されたのである。
魔族とは、たった一人でも国一つを脅かすほどの力を持ち、国の全兵力で迎え撃っても勝てるかどうかわからないほどの災害といっても過言ではない存在だ。そんな存在を一人で撃退してしまうなど、どこの化け物だと最初は考えていた。
そして、それとは別にもし本当に魔族に対抗できるほどの人間が現れたのだとしたら、仲良くなっておいて損はないとも考えた。そこで、俺はその者と友誼を結ぶことにしたのだ。
かの者に会って最初に感じたことは、若いということであった。幼いといってもいいその年齢は、聞くところによると十二ということで、未だ成人していない子供と言っても差し支えない年齢であった。
しかしながら、目の奥にある確かな落ち着きはその者が年齢に違うほどの知性と能力を持った人物であるということが窺え、当初の予定通り俺は彼ローランドに最高峰の称号であるミスリル一等勲章を与え、友になってほしいと願い出た。
俺の予想は見事的中し、通常では考えられないようなことを仕出かす彼に驚かせられながらも、彼を友誼を結べたことを幸運に思っていた。
そんな中、我が娘ティアラを紹介したいと考えるのはごく自然な流れであり、今後ともさらに彼を仲良くしたいと考えていたのだが、そのティアラがとんでもないことを仕出かしてしまった。
俺としても、あれだけの逸材をこちら側に引き込めれば万々歳だと考えていたし、あわよくばティアラを妻として迎え入れてもらい、この国の次期国王として俺の後釜になってもらえればという思いがあった。
だが、ティアラは何を血迷ったのか、他の貴族家の令嬢と共に彼と婚約したいという不躾な要求を彼に突き付けてしまったのだ。
彼が貴族の位である爵位とそれに伴った領地の授与を頑なに拒否していたのは、おそらく貴族のしがらみというものを嫌ったためなのだろうということは何となく予想できた。
だからこそ、俺の判断で他の貴族達には彼に対する縁談話を持ってこないよう釘を刺していた。それにもかかわらず、まさか自分の娘に足元を掬われることになると誰が予想できただろう。
その一件以来、彼が俺の元を訪ねる頻度が目に見えて減っていったことは言うまでもなく、このままでは他国に流れてしまうのではないかという不安の日々を過ごしていた。
そして、ある日彼が闇ギルドを潰したからその後始末を頼みたいということで、闇ギルドの詳細な場所が書かれた一枚の紙切れを寄こしてきた。
違法な依頼ばかりを取り扱う闇ギルドを取り締まることは国としても行うべきものであり、水面下では調査として密偵を放っていたのだが、こうもあっさりと闇ギルドを潰されては密偵が可哀想だと同情せざるを得ない。
それから、一人の暗殺者を屋敷で雇いたいからその者を捕らえないよう彼が願い出てきたので、否応になく許可してしまった。……あとで、宰相に怒られたのはここだけの話だ。
とにかく、彼との仲を修復するためにも何か行動を起こすべきなのだろうが、下手に動いて彼の反感を買ってしまわないかという代償が付きまとうことを嫌って、動くに動けないのが現状だ。
「ティアラに言い聞かせておくべきだったな……」
そんなことをつぶやきつつ、今日も俺は山積みになった書類と格闘するのであった。
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