ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
177話「懐かしい思い出」
「ここが、お前たち闇ギルドのアジトか」
「……」
俺の問い掛けに、女暗殺者がこくこくと頷く。まだ出会ってそれほど時間が経っていないが、どうやらあまりお喋りなタイプではないらしい。まあ、お喋りな暗殺者というのも考えものなので、これで問題ないといえば問題ないのだろうが、もう少し会話のキャッチボールがあってもいいと思ってしまう。
彼女が知っている情報を引き出した後、俺は彼女の案内で闇ギルドのアジトへとやって来ていた。ちなみにある程度危険なためマチャドは連れてきていない。
闇ギルドを訪れた目的は、もちろん俺のテリトリーを侵したことに対する制裁を加えるためだが、マチャドに暗殺依頼を出した依頼主を特定するためでもある。
もし仮に俺がコンメル商会の代表として表舞台に立っていた場合、命を狙われていたのは当然ながら俺ということになる。だから、その依頼主にも何かしらのペナルティーがあってもいいのではと考えたのだ。
――“くぅー”――
そんなことを考えていたその時、その場に似つかわしくない音が響き渡った。その音の正体――それは、一緒に連れてきていた女暗殺者の腹の虫の音であった。
「……」
「腹が減っているのか?」
俺の問いに答えることなく、ただ顔を俯かせる。少し耳が赤くなっていることから、どうやら腹の虫の音の出所は彼女で間違いないようだ。
「食べるか?」
「……」
そんな彼女を見かねて、俺はストレージからスイートポテトを取り出してやる。爆産しまくったスイートポテトはまだまだ在庫が残っており、少なくともあと数年は追加で作らなくとも問題ないほどの量がある。
本来であれば、原材料となるさつまいもや砂糖などが到底足りないところだが、そこはチート能力である錬金術を使用して必要な分だけ増やしまくってやった。
あとは、スイートポテトのレシピ通りに作ればいくらでも生み出すことができるので、時間の許す限り生産しまくったという寸法だ。
「……」
「食ってみろ、飛ぶぞ」
俺の不穏な言葉に最初は手に取ろうとしなかったが、俺が毒見も兼ねて別のスイートポテトを口に含んでやると、おずおずと俺の手からスイートポテトを受け取った。
最初は少し齧る程度に口に入れていた彼女だったが、毒が入っていないことを確認すると次第に口に入れ始めた。小さな口で少しずつ齧り付いている姿はまるで小動物が食事をしているのを彷彿とさせる。
(なんだか懐かしい光景だな。どこで見たんだろう……。ああ、思い出した。もち丸だ)
前世では生涯独身を貫いた俺だが、孤独を紛らわすためにペットを飼っていた時期がある。それがハムスターのもち丸だ。大好物のひまわりの種を口の中に含む姿は愛らしく、その光景に幾度となく癒されていた。
もち丸という名前の由来は、その真っ白な毛並みと丸い姿がどことなく餅を連想させたという単純なものだが、我ながら良い名前だと思っている。
彼女のスイートポテトを食べている光景が、当時のもち丸と重なったことで、なんだかとっても懐かしい気持ちにさせてくれた。
であるからして、その時の俺がもち丸がそこにいるような錯覚を覚えるのは至極当然であり、よくもち丸にやっていた行為を彼女に行うのは必然でもあった。
「っ!?」
当時、俺は暇な時はよくもち丸を撫で回していた。そして、もち丸を彷彿とさせる存在が目の前にいる以上、俺がどういったことをするかは想像に難くない。
小動物のようにスイートポテトを頬張る彼女の頭を撫でるという行為に出るのは、前世でもち丸を飼っていた俺からすれば当然の行動であり、可愛らしい愛玩動物を目の当たりにした人間が取る行動としてはありきたりなものだ。
「よしよし、いい子だな」
だが、ある程度彼女を撫で回してわかったことがある。それは、ハムスターなどの愛玩動物を撫でるということと、同じ人間である彼女を撫でるという行為はどう言い繕っても絶望的な違いがあるということだ。
俺に撫でられているということを彼女が理解した瞬間、まるでりんごのように真っ赤に顔を赤くして俺のされるがままになっている。
「おっと、すまない。ちょうどお前のような小動物を飼っていたことがあってな。懐かしい気分になったから、思わず撫でてしまった。嫌……だったか?」
「嫌じゃ……ないですのん」
勢い良く首を左右に振りながら、俺が聞き取れるかどうかといったくらいに彼女が小さく返答する。どうやら、気分を害した訳ではなかったようで、少し安心する。
(いかんいかん、懐かしくて思わず撫でてしまったが、よく考えたらこれもフラグになるじゃないか)
世界を見て回るという目標を掲げている俺からすれば、ある程度の年齢になるまでそういった恋愛系の話は必要ないと考えている。だから、今の時分から女の子とそういう関係を築くつもりは毛頭ない。
とにかく、少し気まずくなってしまった雰囲気をどうにかするべく、俺は彼女に闇ギルドに入ってからの真面目な話をし始めた。
「とりあえずだ。お前はいつも通りギルドに入って責任者に接触してくれ。それだけやってくれれば、あとは俺が奴らを捕まえるから」
「わかったですのん」
ちょっとした出来事があったが、闇ギルドの連中を捕まえに行くとしようじゃないか。
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