ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
175話「新しいイベントの発生」
「絶景かな、絶景かな」
コンメル商会の営業が開始して、数日が経過した。国が管理している土地での開店とあってか、初日から多くの客で賑わいを見せた。興味本位で入店してきた客が、そのまま商品を購入していき、それを知り合いに自慢することで口コミが広がり、日数が経過するごとにコンメル商会に訪れる客は右肩上がりに増加していった。
元々国王からもらう予定の土地は一等地を指定していたので、それを見越して多めに奴隷の従業員を雇っていたのだが、俺が予想していた来客数のさらに倍以上の人数が訪れていたため、急遽従業員の人数を五人追加することになってしまった。
商業ギルドでのマチャドを補佐してくれる人材に関しては、なかなか条件に合う人材が見つからず苦戦しているようだ。しばらくは、マチャド一人で何とか頑張ってもらいたいところである。
訪れる客の数が数だけにトラブルになる確率も高くなっているので、警備用の戦闘ゴーレムも十体と厳重に設置している。
そして、今俺がどこにいるのかといえば、一階と二階を繋ぐ階段の踊り場部分の手すりに体を預けて客で混んでいる店内を見下ろしている。二階部分も販売スペースとして開放しているのだが、二階で取り扱っているのは富裕層向けの商品がメインなため、あまり二階に上がってくる客は少ない。
しばらく客の入りを見ていたが、ずっと見ていても代り映えのしない光景なので、すぐに見飽きてマチャドのところへと赴いた。
マチャドに与えた専用の執務室では、机に齧り付くように書類と格闘するマチャドの姿があった。急に自分の店を持つことになり、しかも開店初日から大盛況という商人にとっては有り難いやら忙しいやらで、てんてこ舞いになっている様子だ。
「どうだ、忙しいだろ?」
「だったら、早く補佐の人材を寄こしてくださいよー!」
「適任者が見つからないんだから、仕方ないだろ。見つかるまで我慢するんだな」
「じゃあ、せめてローランド様も手伝ってくださいよぉー」
「嫌です。全部お前に丸投げ……任せると言っただろ?」
「今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんですけど!?」
まったく、これだけの商会の代表をやらせてもらっているのに、なんという贅沢な奴なんだ。こんな一等地で、しかもこんな最初から繁盛している店なんてなかなか持てないんだからな?
とりあえず、最初の滑り出しとしては順調すぎるくらいに順調すぎるので、このまま少しずつ王都全体にコンメル商会の名を広げていきゆくゆくは他の商会と同じように定着していければ万々歳だ。
それからマチャドの仕事の邪魔になる前に、彼にねぎらいの言葉を掛けた俺は、そのままコンメル商会を後にした。
そのあとグレッグ商会や孤児院など様々な場所を訪れ、特に問題ないと判断した俺はそのままオラルガンドの自宅で就寝した。ちなみに、オラルガンドの自宅を利用しているのは、王女たちと出くわさないようにという配慮であることは言うまでもない。
「うん? なんだ?」
俺がベッドに入ってしばらく経ってから、俺の感覚操作に反応があった。その反応は、コンメル商会の敷地内に建てた寮の中から出ており、寮を利用している人間の誰とも合致しないものだった。
「ふむ、ついに夜襲イベントが発動したか?」
こんなこともあろうかと、俺が関わった施設には侵入者がいれば直ちにわかるようにしてあるのだが、そういったことは設置してある戦闘ゴーレムで事足りていたため、今まで俺自身が出張ることはなかった。
だが、寮に侵入した賊は戦闘ゴーレムの警戒網を掻い潜って的確にマチャドのもとを目指しているようで、そろそろマチャドと接触する位置まで迫っていた。
「入ったか……」
反応からマチャドが寝ている寝室に侵入したようで、そろそろマチャドに危険が迫っていた。このままではマチャドが殺されてしまうので、仕方なく瞬間移動を使って侵入者に悟られないよう寝室に潜んで様子を窺う。
「……」
「【ディメンジョンキューブ】」
「っ!?」
マチャドに近づく前に侵入者を空間をコントロールする魔法を使って、一メートル四方の透明な箱のような物体の中に閉じ込める。いきなりの出来事に驚愕する侵入者をよそに、人間が起きてこないよう音が漏れない結界を張る。
「この男に何の用だ?」
「……」
「おっと、その前にだ……【ポイズンレジスト】、【ボディプロテクト】」
暗殺者にありがちな、任務失敗による自害を防ぐため毒に対しての抵抗力を高める魔法と物理攻撃を一時的に無効化する魔法を侵入者に使用する。これで自害したくでもできないはずだ。
「すぅ、すぅ」
「まったく、こんな状況になってるのに呑気なやつだ」
「……」
俺がそんな言葉を発すると、侵入者もそれに同意している雰囲気を見せた。尤も、俺も侵入者も部屋の住人であるマチャドに気付かれないよう部屋に入り込んでいるため、気付かないのは当然といえば当然なのだが……。
「う、うぅん……あ、あれ? ローランド様?」
「起きたか。今から暗殺者を尋問するところだから、お前も見ておけ」
「暗殺者? ……って、な、なんですかこれは!?」
どうやら、遅まきながらも自分が襲われそうになっていたことを理解したらしく、途端に狼狽え出す。これから楽しい楽しい拷問の始まりだ。
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