ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
174話「人員確保」
「いらっしゃいまし、ドンドレ奴隷商会へようこそ」
胡散臭い雰囲気の男が、これまた胡散臭そうな挨拶をする。商業ギルドを後にした俺とマチャドは、その足で奴隷商会へと赴いていた。
目的は言わずもがな、新しい商会で働いてもらう従業員の確保である。元々商業ギルドのギルドマスターであるリリエールに依頼していたのだが、依頼して数時間と経たずに俺が戻ってきたため、まだ準備もできていなかったのだ。
信頼のおける人間の選定にはそれなりに時間が掛かることはわかっているので、とりあえず商品を販売する店員だけでもなんとか確保しようと、グレッグ商会と同じく奴隷を買って従業員にすることにしたのである。
「どういった奴隷をお探しでありましょうか?」
「かくかくしかじかチョメチョメポンポン」
「なるほど、店の従業員として奴隷を買いたいということですな。承知しました。すぐに条件に合う奴隷を見繕いやす」
「……なんで、あんなデタラメな説明でわかるんだろう?」
「そこは、年季の差というやつなんじゃないか」
俺自身冗談のつもりで言ってみただけなんだが、意外にも通じてしまった。闇の部分を知っている奴隷商人は、それだけ経験が豊富ということなのだろうか?
奴隷商人の察しの良さに、呆れを含んだ言葉をマチャドが吐きつつ、給仕の女性の案内に従って応接室に通される。
しばらく待っていると、先ほどの奴隷商人と共に貫頭衣を身に纏った十数人の奴隷たちが部屋に入ってくる。奴隷の見た目は、それなりに顔立ちの整っている者から、地味な見た目だが体つきがいい者と様々なバリエーションが押さえられている。
能力自体は、ちょっとした文字の読み書きや簡単な数の計算と接客経験のある者が重点的に揃えられており、顔・体つき・能力の三種類で分類されているように見受けられた。
「いかがでしょうか?」
「聞いていなかったが、お前が店主か?」
「そうでやす。自己紹介が遅れやしたが、この商会で代表を務めておりやすドンドレと申します。稀代の英雄様にお会いできて光栄の極みでごぜぇやす」
「どうして俺が件の英雄だと思った?」
「この商売は情報が命でございますから、ちょっとした情報が取引を左右するなんてこともままございやす」
「なるほどな」
それだけで、ドンドレが周囲の情報に耳を傾けていることが理解できる。商人として、取引相手の情報を持っているのといないのとでは相手に与える印象も変わってくる。
例えば、魚が食べたいと思っている相手に肉を勧めても断られる可能性の方が高いが、相手が望んでいるものをあらかじめ知っていれば、その相手に望んだものを出してやることができるのだ。
おそらくだが、俺のことを事前に調べていて、その過程で俺がグレッグ商会と繋がっていることを知ったドンドレは、いずれ王都でも店を構えるのではと予想していたのではないだろうか?
その時に備え、ある程度の奴隷を仕入れておき、俺が来店した頃合いを見計らって条件に合う奴隷を出してきたというからくりなのだろう。あの適当なかくかくしかじかでも通じたのがいい証拠だ。
それにこのドンドレ奴隷商会を紹介してくれたのは、商業ギルドでギルドマスターをやっているリリエールというのも、俺の憶測が正しいという裏付けに一役買っている。
商業ギルドで新たに商会を立ち上げれば、従業員が必要となる。そのために新しく人を雇い入れなければならない。そして、グレッグ商会のほとんどの従業員が奴隷で賄われている。この情報は秘匿していないため、当然ドンドレも知っているはずだ。
俺が正規のルートで従業員を雇わず、奴隷を起用することがあらかじめわかっているのであれば、その条件に合った奴隷を集めておけば、必然的に大儲けができるという結論に至ったというわけである。
「商人としてかなりの腕利きらしいな」
「お褒めにあずかり恐悦至極でごぜぇやす」
「とりあえず、様子見で七人ばかりもらっていこう。契約者はここにいるマチャドだ」
「え? ちょ、ちょっとローランド様!?」
突然の俺の言葉に目を見開いて驚いた様子のマチャドだが、そんな彼を無視して俺は奴隷の手続きに入った。
「ローランド様が契約するんじゃないんですか?」
「これはお前の店の従業員を雇うために奴隷を買うんだぞ? 契約するのはその代表になるマチャド、お前に決まっているじゃないか」
「えぇ……」
俺の尤もな言葉に困惑するが、これは既に決定事項でありアチャドに拒否権などはない。グレッグ商会で奴隷を雇う際にも、グレッグも今のマチャドと似たような態度を見せていたが、今では俺の指示がなくとも自主的に新しい奴隷を雇い入れたりしているので、いつの間にかグレッグ商会に顔を出した時に知らない顔ぶれが増えていたりする。
だが、それを咎めることはしない。寧ろ、グレッグ自身が必要なことだと判断したのであれば、なんの問題もないと俺は考えている。
「ではマチャド様。契約の儀を執り行いますので、こちらにいらしてくだせぇませ」
「は、はあ」
未だ納得していないマチャドであったが、渋々ながらドンドレの指示に従い七人すべての奴隷契約を行っていった。ちなみに、七人の内訳は男が二人に女が五人で、男は顔つきはごく一般的な顔で一人が細マッチョな体つき、もう一人がゴリゴリの太マッチョを選んだ。
女に関しては、五人のうち三人が顔も体も平均的な人間を選んだが、残り二人は顔が整った美人と顔は地味だが体つきが妖艶な地味っ子グラマラスな女を選んだ。
「ご契約いただきありがとうごぜぇやす」
「いくらだ?」
「へい、締めて七人で中金貨十枚でごぜぇます」
「そうか、安いな。これで頼む」
「……これは、少々額が多いのですが」
俺はドンドレの提示した金額の1.5倍の金額に相当する中金貨十五枚を支払ってやった。その意図は、今後忙しくなれば何かと人手が足りなくなる可能性もあるだろうし、新たに奴隷を増やすなどということも十分にあり得るだろう。
だからこそ、今後ともよろしく頼むという意味を込めて通常の金額よりも多めに支払ったのだ。ドンドレもその意図に気付いたようで、口の端をニヤリと吊り上げ「ありがとうごぜぇやす」とだけ言っていた。
従業員も手に入れたことだし、これで王都でも商品を売り出すことができると内心でほくそ笑んでいると、重要なことを思い出してしまた。
(そういえば、奴隷たちの住む場所を作っていなかったな。まあ、住む場所は一階建ての平屋でもいいからすぐできるだろう)
ひとまず、奴隷たちの服を一通り購入してから再び店の方へと向かう。店に到着すると、あらかじめ作っておいた特定のアイテムしか取り出せない鞄をマチャドに渡し、中に入っている品を設置した棚に陳列していく作業を奴隷たちとやってもらう。
その間に、俺はマチャドと奴隷たちが住む寮を即座に建築し、当面の家具も作製して設置していく。国王からもらった土地は、他の店舗の敷地の三倍はあるので、マチャド達が住む寮を建てる余裕はあるのだ。
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。俺はローランドだ。この店の出資者で、所謂オーナーというやつだ。この店のことはここにいるマチャドにすべて任せてあるから、何かあったら彼に言うように。あとは、君たちを買ったのは奴隷としてタダ働きさせるためではなく、従業員として雇っているから、ちゃんと給金は出ることをあらかじめ言っておく」
基本的に奴隷は道具として扱われるため、奴隷の働きに対し対価を支払う必要はない。だが、今回はグレッグ商会と同じく店の従業員として雇っているため、同じように給金を出そうと考えている。
そのことが意外だったのか、奴隷たちは困惑の表情を浮かべているが、詳しいことはマチャドに丸投げしておくとしよう。
「とりあえず、昼になったから飯にしよう」
そう言って、俺は奴隷たちにストレージに入っている料理を振舞うと、そのままマチャドに店を任せてオラルガンドの自宅に戻った。
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