ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

172話「おにぎりと新たな事業の立ち上げ」



「ローランドのイケイケクッキングのお時間です」

「……」


 国王との面会を果たし、屋敷へ戻ってきた俺がまず取った行動は、言わずもがな料理を作ることであった。


 あれからセイバーダレスのパーティーやいろいろと忙しいことが重なってしまい、せっかく米や大豆を手に入れたにもかかわらず、料理をする時間がなかったのである。


 今回でやるべきことをすべてやり終えた俺に、ようやく生産活動のチャンスが巡ってきた。当然、そのチャンスを活かさないほど俺は愚かな人間ではないので、さっそく行動を開始したのだ。


 一石二鳥を狙って屋敷の料理人のルッツォも同席させ、今回はとある料理に挑戦することにした。その料理とは……。


「おにぎりだ」

「おにぎり……ですか?」


 そう、あの日本人のソウルフードである米を使った親しみのあるおにぎりである。尤も、おにぎりというものを料理にカテゴライズして良いものかという件については、また別の機会に議論するとして、今は一刻も早く料理をしていこうじゃないか。


 まずは適当な木のボウルに米を入れ、水で洗い糠を取り除く。糠が取れたら、深底の鍋に米を入れて水を張り米を炊いていく。


 三十分ほどじっくりと時間を掛けて炊いていき、頃合いを見て火から取り出し、完成してるかどうかを確認すると、どうやら上手くいっているようだった。


「よし、あとはこれを塩で握って完成だな」

「随分とお手軽な料理なんですね」


 確かに、おにぎりはお手軽な料理だが、その分日本人の間で長年に渡って愛されてきたものでもあるのだ。たかがおにぎり、されどおにぎりなのである。


 手を火傷しないように気を付けながら、手に塩を塗り込みつつおにぎりを握っていく。前世ではよくやっていたことなので、綺麗な三角おにぎりができあがっていくのだが、今の俺は十二歳なので子供の手では握れる大きさに限界があった。


「こんな感じで完成だ」

「なるほど。食べてみてもいいですか?」

「ああ」


 料理ができれば、あとは味を確かめるための試食だけなので、食べていいか聞いてくるルッツォと共にさっそく食べてみることにした。


「あむっ、もぐもぐ……」


 口の中に入れた瞬間、素朴ではあるもののどこか懐かしい風味が広がる。塩のみという味付けであるにもかかわらず、米自体の甘味と米粒一つ一つを噛むことで感じる存在感は、俺がずっと望んでいた通りの感覚であった。


 こちらの世界の米は、農薬を使っていないのが要因なのかそれともそれ以外の何か特別な要素が作用しているのか、地球の米と比べてかなり甘味が強いようだ。


 尤も、こちらの世界の米が最高というわけではなく、栽培が化学薬品やDNA操作などの化学栽培に頼っていない分、風味にムラがあったり若干の雑味を含んでいたりもするのだが、概ね許容範囲の域を脱してはいないので問題はない。


 できれば、自家製栽培で更なる高みの米を作ってみたくもあるが、それはまた時間に余裕ができてからでも遅くはないだろう。


「これは、素朴な味ですがとても美味しいですね」

「だろ。それに手掴みで食べることができるし、腹持ちもいいから。ちょっとしたおやつから主食にも向いているんだ」


 それから、ルッツォに米の炊き方をレクチャーし、余った時間はタコ焼きとスイートポテトのレシピを教えてやった。


 とりあえず、この世界のお米の味を確かめることができたので、時間ができたら次は大豆を使った醤油と味噌の作製に挑戦してみたいと考えている。


 例の如く使用人たちに餌付け……もとい、俺自らが作った昼食を振舞った後、俺は国王からもらった御用商人の紹介状と土地の権利書を両手にアッファーリ商会と商業ギルドへと向かった。


 まず向かったのはアッファーリ商会だった。今回の目的はアッファーリ商会の代表者の息子を紹介してもらい、その人材を新たに設立する商会の代表とするのだ。


「あなたがローランド様ですな。お初にお目に掛かります。私はこのアッファーリ商会の代表を務めますバンズと申します」

「ローランドだ。さっそくだが、これを渡しておこう」

「こ、これはっ……」


 アッファーリ商会へとやってきた俺は、すぐに代表のバンズに国王の紹介状を見せた。国王の紹介状とあって最初は驚いた様子のバンズだったが、そこは御用商人とあってすぐに平静を取り戻すと、紹介状に書かれた内容について質問をしてくる。


「ローランド様は、どうしてうちのマチャドを紹介して欲しいのでしょうか? はっきり申しまして、マチャドに商人としての才はあまりないと思いますよ」

「それは、あんたやあんたの長男次男から見て才がないのか、それとも世間一般的に才がないのかのどっちのことを言っているんだ?」

「その質問に答えるのであれば、私たちと比べてになりますが」

「なら世間一般的には商人として最低限の能力は備わっているのだろう。なら問題ない。紹介してくれ」

「そこまで言うのでしたらわかりました」


 俺の言葉にバンズはそう言うと、手の空いていた者にマチャドを連れてくるよう指示を出した。しばらくしてやってきたのは、大人しそうな見た目の青年であった。


「父さん、僕に用って何?」

「こちらの方が、お前を紹介してほしいと言われてな。お前も魔族を撃退した英雄の話は聞いておろう。彼がその英雄ローランド様だ」

「ローランドだ。よろしく頼む」

「は、はあ。マチャドです。それで、僕に一体何の御用ですか?」


 俺は新しく店を出したいことと、その店をマチャドに任せたい旨を伝える。最初は驚いていたマチャドだったが、最終的には無理矢理に説得し、何とか協力を取り付けることに成功した。


 マチャドを伴って、そのまま商業ギルドへと足を運び、受付嬢に用向きを伝えた。俺が顔を出すとすぐに応接室に通され、出されたお茶を啜りながら待っていると、ギルドマスターのリリエールが入ってきた。


「ローランド様、お久しぶりです。リリエールです」

「……なんで、いきなりギルドのトップが来るんだ?」


 俺としては、担当の職員とゆったりとした手続きをしたかったのだが、これじゃあ落ち着いた話ができないじゃないか……。


「ローランド様の担当は、すべて私ということになっておりますので」

「それって、職権乱用っていうやつじゃないのか?」

「そんなことはありませんよ。ふふふふ」


 などと笑っているが、明らかにギルドマスターの権限をいいように私的に使っている。こちらとしても、ギルドのトップに話が通っていれば何かと動きやすいので有難いと言えば有り難いが、ギルドマスターって意外と暇なのだろうか?


「言っておきますが、私は結構忙しい人間ですからね。決して暇だからここに来たわけではありませんからね」


 どうやら、先ほど考えていたことが顔に出てしまっていたらしい。リリエールがムッとした顔でそんなことを言い始める。


 兎にも角にも、ひとまずは商業ギルドにやってきた用向きを伝え、話を進めていくことにした。今回商業ギルドに赴いた目的としては、国王からもらった商業区の土地の使い道とそれに伴った手続きを行うためである。


 現状オラルガンドのグレッグ商会を通じて、俺や職人ゴーレムたちが作製した商品が販売されているが、そろそろ需要が落ち着いて供給過多になりつつあると考えている。そうなってしまうと、いくら商品を生産しても在庫を抱えることになってしまい利益にはならない。


 尤も、生産するために掛かる費用――コストがゼロであるため、仮に売り上げゼロでも赤字になることはない。まさに商売チートである。


「とりあえず、商会の登録手続きを頼む。代表者はこいつで」

「この方は……確かアッファーリ商会の代表の息子さんじゃないですか?」

「僕のことを知っているのですか?」

「たまたまですけどね。わかりました。では、彼の名で登録しておきます」


 特に何の問題もなく商会登録を済ませ、俺とマチャドは商業ギルドを後にする。ちなみに、商会の名は“マチャド商会”と付けたかったのだが、マチャドが頑なに拒否したため、仕方なく【コンメル商会】と名付けた。名前の由来は、イタリア語で“商人”を表すコンメルチャンテから取ってきている。


 こうして、商人と商会登録を手に入れた俺は、マチャドと共に国王からもらった土地の確認をすることにしたのである。

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