ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
170話「グレッグ商会と王都の屋敷」
「おう、小僧。ようやく帰ってきやがったか」
突然声を掛けてきた人物……それは、ガンザスという男だ。俺がぬいぐるみと木工人形を販売し始めた時にグレッグ商会に押し掛けてきた木工職人で、元々はその界隈では名の知れた職人であったらしい。
そんな中、俺の木工人形を見た彼は衝撃を受け、その精巧な造りと実際に動き出すのではないかと思えるほどの再現率に、その製法が知りたいと考えたガンザスが行動を起こすのに時間は掛からなかった。
そう思ってグレッグ商会へとやってきたガンザスだったが、木工人形の製作者である俺がおらず、詳しい話を聞くことができないでいたのだ。
それからも何度か足を運んだが、ほとんどが空振りに終わってしまい、彼の木工人形の製法を知りたいという欲求がついぞ満たされることはなかったのである。
そして、とうとう俺と出会ったガンザスが放った第一声は「この商会で職人として働かせてくれ」であった。
俺との空振りが続いた結果、職人としての好奇心が先行してしまい、思わずそのようなことを言いだしてしまったらしい。
こちらとしても、俺以外の誰かが木工人形を生産できる体制を確保しておくことは悪くないことなので、ガンザスの申し出を有り難く受けた形になる。
「小僧の木工人形を真似て、新しいものを作ってみたから見て欲しいんだが」
「わかった」
ガンザスの要望に応え、彼が木工人形を作っている工房へと向かう。あれから新たに工房を建築したので、今はそこが木工人形を製造する生産場となっている。
工房に入ると、製造用に置いてある木材が所狭しと並べてある。それと同じくらいの量だけ完成した木工人形があるのだが、その中に俺が作っていない種類の木工人形があった。
「これが、新しい木工人形か」
「そうだ」
そこに置かれていたのは、俺が作った分の木工人形とは別のモンスターであった。造りの精巧さも、俺と比べて遜色なく、とてもリアルに作られていた。
「いいじゃないか、これならすぐに新作として出しても問題ない」
「そう言ってもらえると、ありがたい」
「それはいいとしてだ。ガンザス。お前、最近寝ているのか?」
よく見れば、ガンザスの目の下には隈ができており、何日もまともに寝ていないのが丸わかりであった。
「ガンザス。俺は言ったはずだ。徹夜はするなと」
「わかっちゃいるんだがね。職人として新しいものに挑戦することが楽しくて、寝ることを忘れちまうんだ」
前世で勤めていた俺の会社では、月に何十時間という残業が課せられていた。ブラック企業という訳ではなかったが、ホワイトな企業と比べると、うちの会社は間違いなくブラックの部類に入っていた。
かくいうこの俺も平の社員よりも少ないとはいえ、月に十数時間は残業や休日出勤をしていたこともあり、それに対してある一定の不満も持ち合わせていたのである。
であるからして、グレッグ商会ではそういったことがないようグレッグにしっかりと言い含め、営業時間外の労働をさせないように指示を出していたのだ。
とりあえず、ガンザスには数日間の強制休暇を取るよう指示を出しておく。ガンザスは渋ったが、俺の“決まった時間内で完成させてこそ一流の職人だ。俺にはそれができるが、ガンザス。お前にはそれができないのか?”と挑発めいたことを口にしてやったら、見事に引っ掛かってくれたようで、俺に木工人形を見せた後すぐに寮へと戻って行った。
ちなみに、従業員の人数も増えているため、工房と同じく従業員が住むための寮も増築している。その二つを増やしてもグレッグ商会の敷地にはまだ余裕があるので、さらに追加で工房と寮が増やしていくことになるかもしれない。
「よし、グレッグ商会は問題なさそうだな……って、いつまでくっついているんだお前はっ!」
「わふ?」
久々に会った反動なのか、ガンザスの工房にいる時も他の場所を視察しているときもびったりと俺にくっついて離れようとしないウルルがいた。
仕事の方はいいのだろうかという疑問が浮かんだが、そこはグレッグやモリー辺りが調整しているのだろうと当たりを付け、深くは突っ込まないようにした。
最後になったが、あれから規模を確実に拡大しているグレッグ商会はオラルガンド内で不動の地位を築きつつあり、オラルガンドでも指折りの商会となっている。
その分、商会で働きたいという希望者が引っ切り無しに商会を訪れているという報告を受けたが、グレッグにはそういった外部の人間は信用のおける人間の紹介がなければ雇わないように言っておいた。
理由としては単純で、他のライバルの商会の息の掛かったスパイを入れないようにするためだ。今のところ、グレッグ商会の仕入れなどのルートを知っているのは商会の代表であるグレッグとそれを補佐するモリーくらいで、他の従業員たちには仕入れルートの情報は伏せている。
仮に他の商会に仕入先のルートが俺であると露見してしまった場合、俺に直接取引を持ち掛けることは想像に難くない。面倒な厄介事に自分から首を突っ込む趣味はないので、そういったリスクはできるだけ回避すべきが得策であるという考えのもと、仕入れルートの情報を漏らさないようにするために雇い入れる従業員も慎重に人選をしなければならないのだ。
そういったことを常日頃から徹底するようグレッグに指示を出し、俺はグレッグ商会を後にする。
「さて、次は王都だな」
グレッグ商会を後にしてから向かった先は、俺の屋敷がある王都ティタンザニアだ。まずは、何か変わったことはなかったか聞くために執事のソバスのもとに向かう。
「これはローランド様、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。さっそくだがソバス。何か変わったことはなかったか?」
「それが……」
どうやら、俺が他国へ逃げ……もとい、観光に行っている間に、王女たちが訪ねてきたが俺がいないことがわかるとすぐに帰って行ったらしい。それからも定期的に俺が帰ってきていないかどうかやってくるとの報告を受けた俺は、まだ諦めていないのかと内心でため息を吐いた。
「それ以外では特に何もないのか?」
「はい、問題ございません」
「ならいい、引き続き俺はまた外に出ていくことが多くなるから、屋敷のことは任せたぞ」
「畏まりました」
それから国王のスパイであるステラとマーニャに「近いうちに会いに行く」と国王に伝言を頼もうとしたのだが、すでに国王からはスパイの任を解かれてしまっており、今は屋敷の使用人として働いていると言われた。
「それでも、元暗部なら国王に接触する方法くらいあるだろう。まあ、お前たちが伝えなくても事前告知なしで行くだけだけどな」
俺がそう言うと「わかりました。なんとか伝えてみます」と答えたので、任せても大丈夫だろう。
最後に料理人のルッツォの元を訪ね、道中で作ったタコ焼きとスイートポテトを屋敷の使用人の人数分お土産として渡しておき、屋敷を後にした。
そのままの足で今度は孤児院にやってきた俺は、同じように何か変わったことがなかったか聞いてみたが、何度か孤児院に侵入しようとする賊がいたそうだが、俺が設置していた警備用ゴーレムのお陰で事なきを得たとおばあちゃんシスターのレリアンヌと爆乳シスターのイーシャに感謝された。
「ふむ、今後のことを考えてゴーレムの数と質を高めておくか」
そう言うが早いか、俺は今まで警備の任務に就けていたゴーレムをレベルの上がったスキルでアップデートし、新たに追加で三十体の警備用ゴーレムを設置しておくことにした。
他にも顔を出していなかった場所にいろいろと顔を出していると、日が暮れてしまったため、今日はオラルガンドの自宅帰って休むことにした。余談だが、王女たちとの接触を避けるという名目で屋敷以外で滞在することはソバスには伝えてあるので問題はない。
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