ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
168話「理想像と歴史上初」
「大体、お前らはこの国でも有数の貴族だろうが! そんな連中が、公衆の面前で子供みたいに取っ組み合いの喧嘩をするとは何事だ!!」
「「も、申し訳ありません……」」
うん、もう状況的には理解できると思うが、敢えて説明するとだ。俺は今この国でもトップと言われている貴族家の当主二人を正座させ、説教をしているところである。
国の頂点に君臨する人間が、このようなことをしていては他の人間に示しがつかないだろうし、何よりも為政者としてはあまり良くはない。そう考えての説教だったのだが……。
「「……」」
「……そ、そもそもがだ。マリーシア大公とマルゲリータ公爵の確執はさっきビスタから聞いたが、明らかにマルゲリータ公爵の勘違いだ」
「嗚呼、もっと……もっと叱って」
「……」
俺の説教に、まるで水を得た魚のように二人してキラキラとした眼差しを向けてくる。マルゲリータ公爵に至っては、恍惚の表情を浮かべ妖艶な雰囲気を醸し出している。
よく観察してみると、他の貴族たちもなぜか説教されている二人に対し、羨ましそうな羨望の眼差しを向けていたり、マルゲリータ公爵と同じく頬を赤らめている者もいる。
「ちょ、ちょっと待ってろ。お、おいビスタ。これはどういうことなんだ? なんで周りがこんな反応をしている?」
「じ、実はですね……」
ビスタの話では、セイバーダレス公国は男性の出生率が低い話はしたと思うが、その関係上男性はとても大切に育てられる。それが因果関係となっているのか知らないが、基本的にセイバーダレス公国の男性はなよなよした優男が多い。
そして、セイバーダレス公国の女性が男性に求める理想像は、自分が間違ったことをしていたらちゃんと叱ってくれるような人らしい。所謂一つの“お父さん”的な存在だ。
もっと端的に言うのであれば、セイバーダレスの女性というのは軒並みファザコンだということになる。……ファザコンて。
「というわでして、その……ローランド様がアリーシアとマルゲリータ公爵を叱っている姿が、ここにいる女性たちの理想の男性像と重なったようでして。ですから、あの……」
「……その可能性は考慮してなかったというか、普通考慮せんだろうが! どこの世界にファザコンが理想の国があると考えるんだよ!!」
「ふぁざこん? よくわかりませんが、この国ではそれが当たり前の認識なのです」
そうビスタに宣言されてしまっては、こちらとしてはどうしようもない。そういうものだと認識を改めるしかなく、俺は内心で舌打ちをする。
だが、もはや状況は手遅れといった様子で、マリーシアたちを叱る前と後とでは、明らかに周囲の女性たちの態度と雰囲気が異なっていた。まるで、標的を見つけた獲物のような眼差しから、何かを期待するような縋るような眼差しなど様々な感情が込められており、どれ一つを取っても邪なものしか含まれていなかった。
「と、とにかく。一度仕切り直しだ!! お前らいつまで正座してるんだ。さっさと最初の“面を上げよ”から始めないか! マリーシア大公は玉座に、マルゲリータ公爵は元の場所に戻れ!」
「「は、はい!」」
兎にも角にも、この脱線に脱線を重ねた状況を元の位置に戻さねばならないと考えた俺は、正座させていた二人を立たせ、最初のシーンからやり直すことにした。
「お、面を上げよ」
「……」
そこから、ぎこちない所作は否めないが、再び謁見が始まった。まずは俺がどのような功績を上げたのかという説明が行われた。
先ほどとは打って変わって、周囲の人間が興味津々に聞き入っている。あれ? あんたらさっきはそんな真剣に聞いてなかったじゃないか?
そして、俺が上げたマンティコア討伐の功績に対する報酬の話になったその時、再び問題が発生したのである。
今一度確認しておくが、俺がマンティコア討伐によってもらうことになっている報酬は以下の三つだ。
・爵位や領地の授与の拒否
・褒賞金として大金貨千枚の支払い
・今後この功績によって起こり得る問題の後処理(後ろ盾)
この三つの報酬を宰相であるビスタが読み上げた瞬間、それを聞いていた貴族達がこぞって不服を申し立てたのである。
「この国を救った英雄に見合う褒美ではありませんわ!」
「大公は一体何を考えているのかしら?」
「ローランドきゅん、かわいそう……」
「こんな横暴が認められるはずありませんわ!! 断固抗議いたします!!」
一国を救った英雄に対しての褒美としてはあまりにもあまりな内容ということで、表面上は抗議の声を上げている善良な貴族に見えるが、こちらの当てが外れたという感情を含んだ雰囲気が透けて見えるようで、はっきり言って滑稽だ。
大方、貴族の位をもらった俺に娘や孫といった縁談話を持ち掛けて自分の家に取り込もうとしたのだろうが、残念ながらそういうのはお見通しなのだよ……。
さらに言うと、貴族達……否、彼女たちと言うのが正確なのだろうが、彼女たちが抗議の声を上げているのはそういった貴族としての目論見もあるだろうが、何よりも俺に気に入られようとしているのがはっきりと態度に出ている。
俺がマリーシアとマルゲリータ公爵に説教をした前と後とでは態度が明らかに違うのだ。そう、明らかにだ。
「静粛に!」
未だ抗議の声が飛び交う中、マリーシアの透き通る声が響き渡る。その品のある声と有無を言わせぬ毅然とした態度に、周囲の喧騒が途端にピタリと止む。
「此度の件の褒賞については、あらかじめ本人であるローランド殿と話し合って決めた内容となっております。それに異を唱えるということは、どういうことかお分かりですね?」
彼女のその一言でその意図を察した貴族達が途端に押し黙ってしまう。これはあらかじめ決められた決定事項であり、それに文句を言うということは大公であるマリーシアに逆らうということに等しい。
これはれっきとした依頼を出した依頼主とその依頼を受けた人間との正当な契約であり、双方がしっかりと契約の内容に合意した上で結ばれたものだ。それに第三者が異を唱える筋合いはなく、その物言いはいちゃもん以外のなにものでもない。
しかし、それでも納得がいかないのか直接的な抗議はないものの、不満気な様子を見かねたアリーシアがため息を一つ吐き、静かに口を開く。
「ですが、皆さまの言うことにも一理あります。そこで、褒賞に関して一部内容の変更を行いたいと思います」
突然俺の了解もなくそんなことを言い出すマリーシアに、貴族たちも騒然とし始める。……ちょっと、アリーシアさん? そんなことを聞いてないんだけど?
俺が目を細めてアリーシアを見やると、露骨に目を逸らしやがった。おいおい、まさかその場のノリで言ったんじゃないだろうな? そんな投げ掛けを視線に乗せて送ってみると、さらに今度は首を逸らしやがったので、たぶんノリで言った可能性が高い。
「まずは、此度の褒賞の内容が決まった経緯についてお話しします」
そこから、今回の褒賞の内容についての経緯と説明がなされ、その場にいる全員がその内容を理解したところで、新たな褒賞内容が彼女の口から発表された。
「まず褒賞金についてですが、当初は大金貨千枚ということでしたが、これを五千枚に引き上げます」
マリーシアの一言に、一同が感嘆の声を漏らす。お金はあって困るものではないが、平民が一生使っても使いきれない量の金を手に入れて、一体どうしろというのだろうか? ……俺にこの金を元手に大商人になれとでも?
「続いて、先ほども説明した通りですが、爵位と領地の授与に関しては本人の意思を尊重し与えないこととします」
続いて告げられた一言に、今度は落胆の声を一同漏らす。貴族のしがらみという面倒なものなど、こちらから願え下げなのでね。
そして、最後に告げられた内容が今日一番の驚きに包まれることになる。
「最後に、我が国を救ってくれた英雄を称え、我が国からもミスリル一等勲章を授けることと致します!!」
「え?」
こうして、歴史上誰一人としていなかったミスリル一等勲章複数持ちがあっけなく誕生した瞬間であった。
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