ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
158話「アレの確認と、首都観光。そして、迎えにやって来た男の正体」
首都へと無事に入ることができた俺は、さっそく今後の活動拠点となる宿を目指す。首都の門を潜る際、見送りの兵士にどこかおすすめの宿はないかと問い掛けると【青天の夏風】という宿がいいという答えが返ってきたので、今はそこを目指して歩いている。
「それにしても、なかなかの都市じゃないか」
セイバーダレス公国は、主に農業と畜産に力を入れている国だと事前情報で得ていたので、少し田舎というイメージがあったのだが、首都の建築物はシェルズ王国のものと比べてみても何ら見劣りすることがない。
シェルズ王国の都市は五角形型の形をしていたが、セイバーダレス公国の首都【サリバルドーラ】は完全な円形型の都市を外壁で囲っているというよくありそうな形状をしている。
都市の周辺近郊には、主産品となる小麦や野菜類などを育てるための畑やその他家畜を育てるための広大な土地があり、前世のイメージに当て嵌めるのであれば北海道のイメージだ。
「あの第二公女もなかなか強かそうだったな」
都市の風景を眺めながら、俺は先ほど出会った公女についてそんな感想を口にする。ミスリル一等勲章が本物であるとわかった以上、権力者としてはその力を利用しようとその者を取り込もうとするのが定石だ。
だというのに、あの公女は俺の人となりや底が知れないということで、自らの邸宅に招待するということをしなかった。大公である母親の指示かもしれないが、どちらにせよ俺という存在を見定めようとしているのだろう。
ちなみにセイバーダレス公国の大公は女性で、この国ではどちらかと言えば女性の方が強い国だったりする。
しばらく都市内を歩き回り、教えられた宿がある場所へと向かった。もはや恒例行事のようなものなので詳細は割愛させてもらうが、やはりここも“アレ”があったことを報告しておく。詳細を言えば、女将の名前はスサーナで、その娘の名前はスーナだった。
部屋を確保し、その足でもう一つの“アレ”を確認するべく冒険者ギルドへと赴く。こちらも名前だけだが、巨乳眼鏡の受付嬢がリリアン、後輩受付嬢がロコル、解体職員がヅラルドであった。……うーん、やはりこのパターンが続くらしいな。
冒険者ギルドには特に用事もなかったため、それ以上長居することはなかったが、もうそろそろ冒険者として何か依頼を受けるべきだと思い始めている。暇があったら、俺ができる依頼を見つけておこう。
そのまま俺の足は首都観光へと赴き、首都の景観を楽しみつつ店舗や露店、市場などを見て回る。セイバーダレスの主要な都市だけあって、サリバルドーラには国中の多くの物が集まっている。
そのほとんどが食材や畜産物がほとんどだが、料理を嗜む俺からすれば興味を引かれるものばかりだったので、ある程度楽しむことができた。
特に収穫だったのは、国境の街で手に入れた大豆を使って作られた味噌と醤油であった。この国には、麹を使って大豆を加工する技術があるようだ。
さらに牛乳とそれを加工したチーズもあり、これで料理の幅がさらに広がることになる。……やったぜ。他国に逃げてきて正解だったな。
それ以外にもこの国で作られた食材を粗方買い込み、軒並みストレージにぶち込んだ。これは早く料理をしなければなるまい……。
などと考えながら、国境の街で爆産したタコ焼きとスイートポテトを頬張りながらホクホク顔で首都観光を行い、大体の地形を把握しておく。首都すべての地形を覚えるのには、あと数回ほど散策をしなければならないが、冒険者ギルドや商業ギルドなどの主要な施設の場所は大体把握できた。
そうこうしてい内に夕方に差し迫った時間帯になったので、今日の散策はこれくらいにして明日の大公との顔合わせに備え、夕食後すぐに就寝の支度をして眠りに就いた。
翌日、朝の支度を終えると使いの者がやってきた。アナスターシャの話では、明日の朝方としか聞いていなかったので、早めに準備しておいて正解だったな。
「ローランド様ですね。私は大公陛下の使いの者で、ビスタと申します。お迎えに上がりましたので、これより大公陛下の元へご案内いたします」
「ああ、よろしく頼む」
ビスタと簡単な自己紹介をして握手を交わし、そのまま豪奢な馬車に乗り込む。ビスタの案内に従って首都の中心部にそびえ立つ巨大な城へと入って行く。馬車から降りると、そこはシェルズ王国の王城と同じような堅牢な造りをした建物が見て取れた。とてもではないが、この光景を目の当たりにして、この国が農業と畜産を主な産業としているなど信じがたいと思ってしまう。
引き続いてビスタの案内で、城の内部に侵入する。だが、不思議なことにすれ違う騎士やメイドたちが、不自然な態度を取っていることが気になった。
「あんたは、この城では偉いんだな」
「……どうしてそう思うのですか?」
「まず、あんたの歩き方だ。実に静かで無駄のない動き。咄嗟の不意打ちにも対処でき、後れを取るようなことも余程のことがない限り起こり得ない歩き方だ」
「……」
ビスタが黙り込んでしまったが、気にせず俺は自分の見解を続けて口にする。
「第二に、すれ違った騎士やメイドたちの違和感のある態度だ。目上の人間に敬意を払いたいが、何かしらの理由でそれができずその態度が表にありありと出ていた。おそらくは今日だけ自分に反応せずそのまま仕事を続けてくれとでも言ったのだろう。でなければ、あの違和感の説明が付かない」
人というのはいつもやっていることを制限されれば、必ずどこかに違和感が生じる。そういった違和感というのは、第三者の目から見れば実にわかりやすいのだ。俺はさらにビスタが持つ違和感をしてきしていく。
「第三に、あんたの着ている服だ」
「服……でございますか?」
「そう、まるで急ごしらえで用意したかのようなボロボロの服だが、着ている本人が着慣れているとはとても言えないほどに違和感があり過ぎる。それに加えて、あんたの放ってる体臭に僅かだが香のような匂いが残っている。おそらく自分の目上の人間に対しての礼儀として使っているのだろうが、そもそも人と会う時に自分の体臭を気にするが故に香を付けるという考え自体が、身分の高い人間の思考なのだ」
香水を使うという文化は、前世の日本では日常的なものとしてあったが、この異世界ではそもそもそんな考えに至る余裕などないのだ。自分の体臭を気にする余裕がないほどに生活が逼迫している人間の方が多く、そんなことを気にしている場合ではないというのが実情なのだ。
そんな中、ビスタの体からは貴族がよく使う香の匂いが僅かながらに漂ってきた。仮にビスタが小間使いや平民出の文官であるなら、そんなことをすること自体が不自然なのである。
「そして、第四にあんたと握手した時に手の平にできていたまめだ。長年に渡って剣を握り続けてきたことによりできた剣ダコという種類のまめで、少なくとも一朝一夕でできるような生半可なものじゃない。最低でも七年……いや、十年以上の長い鍛錬を積み重ねなければできない代物だ。先の歩き方を鑑みるに、まあ十四、五年ってとこだろうな」
「……」
もはやぐうの音も出ないと言った様子で黙りこくってしまったビスタに、俺はダメ押しの一言を付け加える。
「最後に、俺の能力の中に鑑定スキルの上位スキルに解析というスキルがあるのだが、それのさらに上位スキルに【超解析】というものがあってな。俺はその超解析が使える。この意味はわかるな?」
「っ……」
俺の言葉に息を飲んだビスタに向かって、最後の答え合わせをするかのように言い放つ。
「セイバーダレス公国宰相ビスタ・フォン・ブルジョワージ公爵。セイバーダレスを治める大公の右腕にして、大公の身を守る近衛騎士団長も兼任している。二刀流の男。それがあんたの正体だ」
「ククク……あはははははは!!」
俺が答えを指摘してやると、大きな声を上げてビスタが笑い始めたのであった。
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