ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

156話「国境の街から首都まで二か月と聞いたのだが、どうやら俺が本気を出すとこうなるらしい」



 ヴァレンダルク辺境伯の屋敷で一泊した翌日、朝食を食べたあとすぐに次の街へと出発することにしたのだが、やはりと言うべきなのだろうがここで俺にとって厄介な出来事が起こった。


「首都まで行くのでしたら、私に道案内をさせてもらえないでしょうか?」


 昨日の話でどこか吹っ切れたラゼンダが、俺が王都を目指していることを伝えると道案内を買って出てきたのだ。……このパータン前にもあった気がする。


 ちなみに言うと、俺は王都と呼んでいるが、どうやらこのセイバーダレス公国は“王国”ではないので、王都ではなく公国の中心となる都市という意味で“首都”と呼ばれているらしい。


「気持ちは嬉しいが、お前にはまだここでやらねばならないことがある。今まで自分がやってきたことに対して、向き合わなければならないと思うのだが? 領民・兵士・使用人……お前の間違った価値観で迷惑を被った人間は少なからずいる。そんな人間たちを放っておいて貴族として、一人の人間として何も思わないか?」

「うっ」


 俺の言わんとしていることが理解できるからこそ、ラゼンダはそれ以上反論はできなかった。……なんかいいことを言っているように見えるだろうが、実のところ彼女が付いてくることに抵抗があるだけなのである。


 飛行魔法による移動が基本となりつつある俺と一緒に行動するということは、俺と同じ飛行魔法で付いてこなければならないということだ。しかしながら、飛行魔法は制御が難しく、並の使い手では宙に浮くことはできたとしても、その状態で高速移動はおろか人が歩く速さよりも遅い速度で飛ぶことが限界だろう。


 さらに仮にそれができたとしても、魔力制御と魔力操作を行う際には大量に魔力を消費してしまうため、精々が数秒から長くても数十秒程度の飛行しかできないのである。


 だからこそ、彼女が俺の旅に同行することは俺自身抵抗があるというのもそうだが、何よりも俺に付いてこられないという意味で彼女にとってはつまらない旅になるかもしれないとかんがえたのである。


「ラゼンダ。お前には今まで教えられなかったこと、言えなかったことがたくさんある。これから忙しくなるからローランド殿の道案内をしている時間の余裕はないぞ」

「うぅ~、わかりました。ですが、またこの街に来ることがあれば必ず顔を出してください。その時は成長した私の姿をお見せしますから」

「楽しみにしている。では、俺はこれで失礼する」


 そう言って、俺は二人と別れを済ませ国境の街を出発した。


 しばらく徒歩で移動をした後、人気のない場所に移動をして透明化の魔法を掛けてから飛行魔法で首都を目指す算段となった。


「米米米米米こめこめこめこめぇぇぇぇえええええ!!」


 欲望丸出しの叫び声を上げながら、最高速度で首都に向かって飛んでいく。あまりに妙な奇声を発していったせいか、街道を行き来している人間が驚いているのが見えた。


 国境の街から首都までは、国の端っこということもあって、馬車を使って二ヶ月弱ほど掛かるとラーゼンが教えてくれたのだが、想像してみて欲しい。新幹線並みのスピードで飛行する物体が、なんの障害物もない空中を移動するとどうなるのか……。その答えは至って単純である。


「どうやら、一日で着いてしまったようだな。少し本気を出し過ぎたようだ」


 常人であれば二か月掛かる道のりを、わずか一日で踏破してしまったことに俺自身驚きを隠せないでいるが「まあ、魔族をボコボコにできる俺が本気を出せばこんなものか」ということで無理矢理に納得することにした。


 当然ながら、いくら他の人には見えない状態で飛んでいるとはいえ、いきなり人が空から降りてくれば騒ぎになる可能性があるので、首都に一番近い人気のない場所を選び、そこから徒歩で首都を目指すことにした。


 それから、三十分ほど徒歩で移動するとようやくセイバーダレスの首都【サリバルドーラ】の門まで到着した。


 首都ということもあり、並んでいる人の数は尋常ではなく、長く待たされそうではあったが、ここで文句を言っても仕方のないことなので大人しく待つことにした。


「次」


 そうしてようやく自分の番がやってきた。さすがは首都というべきなのだろうか、首都にやってきた者のチェックも入念で多少時間が掛かっており、俺の番が回ってきた頃にはすでに一時間半以上が経過していた。


 仕方のないこととはいえ、流石にそれだけの時間ただただ待たされるというのは苦痛だったため、頭の中で次の生産物についての脳内会議を開いていたほどだ。


 だがしかし、その甲斐あって次に何を作っていこうかという構想に少し進展があったので、今は良しとする。米が手に入ったら……ムフフ。


「何か身分を証明するものを提示してくれ」

「ん」


 そう言われたので、今回は前回国境の街と同じ失敗をしないよう、言われなくても身分証を提示するつもりでいた。まずは冒険者としての身分を提示するべく、ギルドカードを取り出す。それを受け取り内容を確認した兵士が目を見開き驚愕する。


「し、失礼しました! まさかAランク冒険者とは……」

「気にするな。それと、これも出した方がいいだろう」

「こ、こここここここれは!?」


 ギルドカードを提示した後、未だ俺がAランク冒険者という驚きから立ち直ることができていない兵士に対し、更なる追い打ちとしてミスリル一等勲章を提示する。


 それを見た瞬間、まるで壊れたロボットのように言葉を発する兵士を見ながら、やはりこの勲章はそれほどのものなのだと改めて実感する。……国王め、そんなものをほいほい簡単に寄こすとは。馬鹿なのか?


 などと、考えていると兵士の驚きと俺の後ろに並んでいた人々が騒ぎ始める。それは周囲に伝播していき、収拾のつかないものになりかけようとしていた。


「まさか、こんなところでミスリル一等勲章持ちの英雄様にお目に掛かれるとは……」

「かなり若いぞ。成人していないんじゃないか?」

「偽物なんじゃないのか?」

「聞いたことがあるぞ。隣国のシェルズ王国で、とある一人の冒険者によって魔族が撃退されたって話だ」

「それがあの子供だっていうのか? 眉唾じゃないのか?」


 それぞれ口々に感想を言い合っているのが聞こえるが、それを咎めたりはしない。というか、早く入都の手続きを済ませていただきたいのだが……。


「なんの騒ぎだ騒々しい」

「はっ、た、隊長! じ、実は……」


 騒ぎを聞きつけたのか、この首都の入り口を警備する警備隊長がやってきた。事情を兵士から聞いた隊長はその内容を聞いて一瞬驚いていたが、すぐに平静を取り戻すと、俺に話し掛けてきた。


「ローランド殿、少しいいだろうか」

「俺の身分証に何か問題でもあるのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが、我々平民の出の者ではこのミスリル一等勲章が本物かどうかが推し量れないのです。そこで、お手数ではあるのですが、この勲章が本物かどうか判断できる人間を連れてまいりますので、少々お時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「ふむ、いいだろう。ならさっさと連れてこい」


 俺の返答に「ありがとうございます。では兵士に案内をさせます」と言うと、すぐに早馬に乗ってどこかへと向かって行った。おそらくはミスリル一等勲章を判別できる人間のところだとうが、果たしてどんな人間が現れるのだろうか?


 とにかく、兵士の案内に従って多少年季の入った取調室のような場所に連れて行かれた。兵士は終始緊張した様子で「このようなあばら屋で申し訳ありません」と恐縮していたが、俺としてはまったく問題ないため、再び脳内生産活動を再開することにした。


 それから、警備隊長が戻ってきたのは四十分ほど経ってからだったが、そこに現れたのは明らかに豪華なドレスに身を包んだお姫様だったのであった。

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