ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

154話「ざまぁな展開は嫌いではないが、趣味じゃない」



「お待たせして申し訳ない。私がこの街の領主ラーゼン・フォン・ヴァレンダルク辺境伯と申します」

「ローランドだ。冒険者をやっている。娘から話は聞いているな?」

「はい、大体ですが」

「ならこれを確認してくれ」


 俺は牢屋越しにミスリル一等勲章を手渡してやると、ラーゼンがそれを受け取り確認する。ちなみにだが、俺はまだ牢屋の中にいたりする。


 理由としては、タコ焼きとスイートポテトの量産に集中していただけなのだが、女騎士が領主を連れてくるまでに再三にわたって警備隊長のバルムから牢屋から出るように言われていたのだが、敢えて居座ってやったのだ。“ここにぶち込んだのは、お前らではないか?”と言外に伝えるために。


 俺からミスリル一等勲章を受け取る時も、領主のラーゼンはそのことについて言及したいのか眉を顰め複雑な表情で勲章を受け取っていた。


「……間違いない、本物のミスリル一等勲章だ」

「では、この子供……いや坊っちゃんが迷宮都市を襲った魔族を撃退したという英雄なのですね」

「ああ、この勲章はある特別な製法によって作られている。偽造は不可能だ」

「……」


 父親であるラーゼンの言葉を聞いて、バルムが問い掛ける。その問いにラーゼンが頷くのを見た女騎士が、黙りこくってしまった。


 そんな彼女の様子を知ってか知らずか、ラーゼンがもう我慢できないといった具合に俺に言葉を掛けてくる。


「ところで、ローランド殿はなぜ牢屋に入っているのですかな?」

「“ここに入っていろ”と言われたからだ」

「一体なぜそんなことに?」


 俺は今回の一件を、包み隠さず説明してやった。俺の説明が進むにつれ、ラーゼンの顔が険しくなり、最終的には女騎士を睨みつけることになった。


「自分が、一体何を仕出かしたのかわかるな? ラゼンダ」

「はい……」


 ラーゼンの言葉に、しおらしく女騎士が答える。というか、女騎士の名前ってラゼンダだったのか。今知った。


 そこからひたすらラーゼンの平謝りと娘のラゼンダに対する説教が続いたが、他人の家族の問題に首を突っ込むつもりはないので、早々に本題に入ることにした。


「妻の忘れ形見と思って、甘やかし過ぎたようだな。まさかこんなことをやるとは……」

「申し訳ありません。私は――」

「悪いが、そういったことは後にしてくれないか? それと、俺はいつまでここに入ってればいいんだ?」

「おおう、そうでしたな。気付かなくて申し訳ない。バルム、牢の鍵を開けるのだ」

「はっ、ただ今」


 先ほどからバルムに「出ろ出ろ」と言われていたことを棚に上げ、いつまで国の英雄を牢屋に入れているのかとラーゼンに問い掛ける。


 慌てたラーゼンがバルムに命じ、俺を閉じ込めていた牢の鍵を開け、ようやく檻から解放される。まあ、俺の力をもってすればたかだか鉄製の檻如き一瞬にして破壊することが可能だが、それをやると俺が魔族認定されかれないため、今回は大人しくしていたのである。


 さて、生産活動も十分にできたことだし、次はやはりこの街の“アレ”を確認しなければならない。そう思い、町に繰り出そうとしたのだが、当然それを許してくれない人物がいた。


「ローランド殿、どちらへいかれるのです?」

「今日泊まる予定の宿だが?」

「でしたら、我が屋敷に泊まられてはいかがだろうか? 今回の非礼の詫びもしなければなりませぬ故、是非とも泊って行ってくだされ」

「ふむ」


 さてさて、どうしようか。確かに今回領主であるラーゼンには、娘の失態の責任を取るという意味で、なにかしらの形で俺に対して詫びをしなければならないのは間違いない。だが、それとは別にもはや俺の趣味となりつつある“アレ”の確認を行っておきたいのだ。ここは隣の国だが、この国でも“アレ”が適応されているのかが気になって仕方がない。


 それとは別に、ラーゼンが向ける俺に対しての詫びという形の厚意を受ける必要があると俺は考えている。でなければ、この場にラーゼンを呼んだ意味がない。


 ラーゼンの詫びが邸宅に招待するというものであるならば、それを受けなければ相手の面子を潰すことにもなる。だからといって“アレ”を確認しないのは俺の精神衛生上よろしくはない。まさにあちらが立たねばこちらが立たぬ状態だ。


(そうか、泊るのはラーゼンの屋敷にして“アレ”の確認だけやってくればいいんじゃないか。そうだ、そうしよう)


 それから、ラーゼンの厚意を受けることにしたが、まだ日が高いという理由を付け街中観光をしたいと申し出て、なんとかその場を離れた。ラーゼンが「であればせめて護衛を」とか言っていたが、俺より強い護衛を用意できるのかという問いに答えられなかったため、なし崩し的に俺の単独行動の許可を取り付けた。


「じゃあ、確認しにいくとしますか」


 そのままその足で“アレ”の確認をすると、やはり“アレ”が存在した。もはやお決まりパターンとなりつつあるので詳しいことは割愛するが、宿の名前は【春風の小川】という名で女将の名はテサーナ、娘の名はテーサだ。


 冒険者ギルドは巨乳眼鏡の受付嬢がラリアン、後輩受付嬢がウコル、ツルツル解体職人がパゲルドだった。……うむ、余は満足じゃ。


 などという一幕があり、他にも何か珍しいものはないかと市場を見て回ってみると、なんと【大豆】を発見したのだ。


「これをくれ!!」

「ま、まいどあり……」


 俺のあまりの剣幕に店員が若干引いていたが、そんなことは知ったことではない。少しだけ【威圧】スキルが発動していたかもしれないが、そんなことは知ったことではない。大事なことなので――(以下略)。


 念願の大豆を手に入れたことで、新たに【味噌】と【醤油】の道筋が見えてきた。この調子であれば、米もすぐに見つかるのではないかと思い、何の気なしに大豆を売っていた店の店員に聞いてみた。


「ところで、米という穀物を知っているか?」

「コメ? もしかして、粒麦のことを言っているのか?」

「粒麦? それはどんなものだ?」

「小麦に似ているが、小麦のように小麦粉にするのではなく、これくらいの小さな粒のような部分を食べる穀物だな」

「たぶんそれだ。何処に行けば買える? 教えろ、今すぐ教えろ!」

「わ、わかった。わかったから、服から手を放してくれ! 息ができなくなる」


 ……おっと、いけないいけない。俺としたことが、かつてのソウルフードである米が手に入るかもしれないということで、我を忘れてしまっていた。危うく、店員を殺しかけるところだった。……まあ、必要とあればそれもやぶさかではな……いや、なんでもない。


 それから店員の話を優しく(?)聞いてやると、なんでもこのセイバーダレス公国の一部の村落で栽培されている流通量の少ない穀物らしく、店員もたまたま手に入れられたという単純な理由で冗談半分で店に出していたらしい。


「俺の米を冗談半分で出しただとぉー!?」

「ひ、ひぃー。ご、ごめんなさぁーい!!」


 俺の威圧混じりの叫びを聞いてすっかり委縮してしまった店員を見た俺が、再び冷静さを取り戻し、どこに行けばたくさん手に入るかを優しく尋ねる。


「この米はどこに行けばたくさん手に入るのかな? 言え、吐け、教えろ」

「な、なんか脅迫されている気がするんですが……」


 そんなことは知らん。教えないお前が悪い……などと、内心で思ったがここで店員の機嫌を損ねれば、重要な情報を教えてもらえないかもしれないため、丁寧に問い掛ける。


「何処に行けばこの米は手に入るのでしょうか? 教えやがれください」

「まあ、別に隠す理由もないし構わないよ」


 店員が教えてくれた話によれば、セイバーダレス公国の王都を越えた先にある村落が米を栽培しているとのことで、王都でもそれなりに取引されているとのことだ。……よし、次の目的地は王都で決定だ。すぐ行こう、今すぐ行こう、瞬時に行こう。


 などと考えたが、今日は領主の詫びという名の接待があったので、とりあえずそれを消化してからという結論に至った。もうすぐ米が手に入ると思うと、とても気分がいい。


 そんなこんなで、国境の街の観光も一通り終わったところで夕方になったので、俺は今日泊まる予定の領主の館へと向かうことにした。

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