ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
153話「この勲章が目に入らぬか? え? 目には入らない? そうですか……」
「な、なんじゃこりゃぁー!!」
昼食から戻ってきた女騎士の第一声がそれだった。大方、俺が牢屋に閉じ込められて、惨めな思いをしているとでも思っていたのだろう。残念だが、牢屋に閉じ込められたくらいで参る俺ではないのだよ……。
あれからひたすらタコ焼きとスイートポテトを大量生産しまくった俺は、今は職人ゴーレムを出してさらに絶賛爆産中なのである。
狭い牢屋の中に、何体ものゴーレムがひたすらに同じ動作を繰り返す様子は、傍から見れば異常事態にしか映らないことだろう。もし俺が他の人間の立場であればそう考える。
その一部始終を見ていたバルムや他の罪人たちは、目の前で起きている現実が信じられないのか、言葉を発することなく呆然とその様子を見ている。
「ふう、こんなもんかな」
「おい貴様っ! 一体これはどういうことなのだ!? 説明しろ!!」
「暇だったから、昼飯を作るついでにゴーレムを使って料理を作ってみた。以上」
「説明になっとらん!! なんで檻の中で料理ができるんだ!?」
そんなことを聞かれても、できるものはできるのだから仕方がない。アリに対して“何故自分の何十倍もの重さの荷物を運ぶことができるんだ?”という問い掛けに対しての答えと同じである。できるものはできるのだ。それ以外の答えはない。
俺の答えが気に食わなかったのか、怒りとも悔しさとも取れる顔を浮かべながら女騎士が俺を睨みつける。
「ああ、そういえば思い出した」
「何をだ?」
「盗賊ではないかというあんたの尋問に押されて、俺が何者か身分証を提示していなかったと思ってな。今ここで出そう」
そう言いながら、俺は冒険者ギルドのギルドカードを女騎士に提示する。提示したカードを引っ手繰るように受け取った女騎士が、カードに記載されている内容を見てみるみるうちに顔を驚愕に染めていく。
「ば、馬鹿な! こんな子供がAランク冒険者だというのか!?」
「お嬢様、一体なんのことですか? Aランク冒険者とは?」
「……」
バルムの問い掛けに、黙って俺が提示したギルドカードをバルムに寄越すと、それを受け取ったバルムもまた目を見開き驚愕の顔を張り付けた。まさか、盗賊の仲間の疑いがある少年を捕まえたら、Aランク冒険者でしたなどという内容を口で説明されてもほとんどの人間が信じないだろう。俺も信じない。
だが、現実は残酷なものであり、事実ギルドカードに記載されている内容は偽造不可能だ。今までギルドカードの偽造品が出回ったことは過去に何度かあるが、偽物を作った人間は尽く捕まり処刑されている。
つまり俺が提示したギルドカードが偽物である可能性は限りなく低く、そのギルドカードが仮に本物であるとしたら、冒険者ギルドでも一流の部類に入るとされるAランク冒険者を盗賊扱いしたことになるのである。
そのような不義理をすれば、最悪の場合その街から冒険者ギルドが撤退するという制裁が加えられることになり、冒険者が立ち寄ることが少なくなってしまう。
この世界の経済は冒険者ギルドと商業ギルドが取り仕切っているといっても過言ではなく、その一角を担う冒険者ギルドに撤退された場合、街としてはかなりの痛手となる。
そして、Aランク冒険者の冒涜という行為は、冒険者ギルドが街から撤退する決断をさせる理由としては弱いが、撤退の理由としてはやろうと思えばできる理由なのだ。
さらに不運なことに、オラルガンドや王都のギルドマスターたちが、秘密裏に俺をSランク冒険者に昇格させようと各支部のギルドマスターたちに働きかけているらしく、俺が冒険者ギルドで持つ影響力は決して弱くはないのだ。
「お、お嬢様これはさすがに言い訳できない状況ですよ」
「くっ、こ、こんなもの偽物のカードに決まっている。こんな、こんなものこうして――」
「おっと、それ以上はやめた方がいいぞ? もしそれが本物だったら、あんただけじゃなくこの街自体が終わることになる」
「……ちっ」
俺の言葉を受けて、女騎士は顔をさらに歪めて舌打ちをする。それだけ今自分のやろうとしていることが拙いことだと理解しているのだ。
そもそも冒険者ギルドや商業ギルドで発行されるギルドカードは古代の技術が使われており、そのうちの一つにギルドカードを破損させた相手の魔力を記憶させ破損させた者が誰かを特定できる機能がある。
モンスターに破損させられた場合はモンスターの魔力を、本人が破損させた場合は本人の魔力を、それ以外の第三者の手によって破損させられた場合はその相手の魔力を記憶することで破損させた犯人を特定するのである。
つまり、俺のギルドカードが本物でそれを故意に破損させてしまった場合、すぐに犯人が特定されるため、女騎士は俺のギルドカードを破り捨てることを嫌ったのだ。だが、彼女にとってさらに不運だったのは、俺がただのAランク冒険者ではないということだ。
「ああ、そういえばこれも忘れていたんだが、国王が他の国に行くときはこれを国境の人間に見せろとか言ってたな」
「「そ、そそそそそそそれはぁー!!!!」」
俺がストレージから取り出したのは、ミスリル一等勲章だった。それを見た女騎士とバルムが喉が張り裂けんばかりに絶叫する。
俺が国王からもらったミスリル一等勲章というのは、全世界で共通の最高の栄誉であり、本物の英雄しか与えられることのない称号でもあるのだ。
ミスリル一等勲章は、この世界に存在する国家と呼ばれる組織で当代の国王や皇帝の手によって与えられ、それぞれの国が共通としている最高の勲章である。
例を挙げるなら、俺がもらったのはシェルズ王国のミスリル一等勲章だが、これが仮に隣国のセコンド王国や今いるセイバーダレス公国でも同じミスリル一等勲章という勲章が存在する。そして、その勲章は各国における最高クラスの勲章だというのが、この世界での共通認識だ。
一つ所持しているだけでも、その恩恵は大きく過去に一度たりとも複数の国のミスリル一等勲章を所持した人間は未だ存在しない。
そんな幻ともいうべきミスリル一等勲章が目の前に現れれば、驚かない人間はこの世界では辺境に住んでいる部族以外にはいないのだ。
「たしか、ミスリル一等勲章とか言ってたな。魔族を追い返した時にもらったものだ」
「そ、そう言えば風の噂で隣国の迷宮都市に魔族が襲ってきたが、一人の冒険者によって撃退されたと聞いたことがある。まさか、その冒険者というのが……」
「俺のことだな」
「……」
突き付けられた事実に、その場にいる人間全員が言葉を失った。先ほどまでヤジを飛ばしていた罪人たちに至っては、あまりの出来事に委縮してしまっている。
そして、辛うじて対応できているのが警備隊長のバルムだけだが、その顔は引き攣っておりどこかぎこちない。
まあ、成人してない少年だと思っていたら、国の英雄でしたなどと言われてもいきなり信じることなどはできないだろう。しかし、俺の持つミスリル一等勲章がそれが事実であると告げてしまっているのだ。
「どうだ? この勲章が目に入るか?」
「いえ、目には入りません」
「……そういう意味で聞いたんじゃないんだがな。まあいい。とりあえず、差し当っての問題から解決していこう。おい、女騎士」
「ひゃ、ひゃいっ」
俺が女騎士に声を掛けると、ビクッと体を震わせ声高な声を上げる。それに対してからかいたい衝動に駆られたが、それよりも優先すべきことがあると考え、俺は彼女に指示を出した。
「今すぐこの街の領主を連れてこい。お前たちではこの勲章が本物かどうかを判断するには、見たことがないから心許ないだろう? この街を治める領主の言葉であれば、お前たちもこの勲章が本物であると確証が持てるのではないか?」
などと体の言い訳を言っているが、とどのつまり領主にこの場を何とかしてもらいたいだけなのだ。所謂落としどころを見つけたいというやつだな。
この女騎士は領主の娘だというし、子供の失態の責任は当然保護者である親にあると思うのですよ。だから、ここは領主に彼女の尻拭いをしてもらうとしようじゃないか。
俺の言葉にすぐに領主の元へと向かった女騎士を尻目に、俺はさらに作り過ぎなくらいにタコ焼きとスイートポテトを生産し続けるのであった。
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