ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
152話「どこでだろうとできる。それが生産活動だ」
「さて、ただ待っているだけでは時間の無駄だし、勤しみますか」
そう言うと、俺は自分の入っている牢屋に臭いや汚れなどを浄化する魔法を掛け、一瞬にして生産活動に集中できる環境を作り上げる。
地下牢というだけあって、その環境はかなり悪辣なものであり、はっきり表現するなら臭い・汚い・狭いの三拍子が漏れなく揃っていた。
そんな中で集中力を要する生産活動をするなど正気の沙汰ではないため、少し環境を改善させてもらった。俺以外にも牢に収容されている罪人がいるため、他の牢屋に魔法を掛けると騒ぎになってしまう。そのため、魔法は自分の牢だけにしておいた。……罪人たちよ、あいすまぬ。
そんなことを考えながら、ストレージから前もって作っておいた作業用のテーブルと簡易式の竈を取り出し、生産活動を開始する。今日行う生産活動は料理である。
「ということで、ローランドのイケイケクッキングのコーナー(ボソッ)」
こんな場所で料理などと思うかもしれないが、ちょうど時間帯も昼飯時ということもあって、新しい料理を作りがてら昼食をつくることにしたのである。
まずは、鉄鉱石から作った鉄インゴットを使って丸い鉄板を作り、魔法を使って半球の溝を作っていく。これで今回調理するための道具は完成したので、次に実際に調理するための料理の材料を使って下準備をしていく。
木のボウルに卵を割り入れ、あらかじめ準備しておいた出汁を入れる。ちなみにこの出汁は、マリントリルで手に入れた昆布モドキと魚から取った出汁を使用している。
混ぜ合わせたものにだまにならないように気を付けながら、小麦粉を少しずつ加えていく。氷魔法を使って少し生地を冷やしておき、その間に鉄板の準備をしておく。
鉄板を熱している間に、オクトパスのタコ足を一口サイズの大きさに切り揃えておき、鉄板が温まったら生地を投入する。
じゅうじゅうという生地の焼ける音と共に、昆布モドキと魚で取った出汁のいい香りが辺りに立ち込める。さすがにそんなことをすれば、牢屋にいる罪人たちも俺の行動に気付かないわけもなく、食い入るようにそれを見つめている。
焼けた生地が固まってしまう前に、オクトパスのタコ足を半球型の溝一つ一つに入れていき、千枚通しに見立てて作った道具を使って丸い形になるようにクルクルとひっくり返していく。
「おお、前世でやったことはなかったけど。やってみると、案外楽しいものだな」
特定の関西地域では、小学生になると家庭用のそれ専用の器具を使って半ば強制的にやらされるという話を聞いたことがあるが、意外と楽しいものであると今生の年相応にウキウキとした気分で生地をひっくり返していく。
ひっくり返した生地の反対面も焼け丸い玉状になったら、ある程度焦げ目が付くまで焼いていけば完成である。もうお分かりだろうが、これでタコ焼きが完成した。
「あとは、魚醤と野菜で作った特製ソースをかければ……できあがりだ」
容器に魚と塩を入れ、発酵させることでできる魚醤と、野菜を煮込むことでできる出汁を混ぜ合わせて作った異世界風ソースと呼ぶべきものだ。ちなみに魚醤は転換魔法を使って時間短縮を行っており、通常であればできるのに半年くらい掛かったりする。
ソースといっても前世のような品質に届くわけもなく、その味も劣っている。せめて、未だ手に入れていない米・大豆・酢などがあればもっと高品質のものが作れるが、ないものは仕方がないので、今はこれで妥協している。
「何はともあれ、試食だな。では……いただきます。はむっ、はふっはふっはふっ」
俗に言う外はカリッと中はトロトロな状態という理想的なタコ焼きの食感と、即席ではあるものの特製ソースとの相性はよく、なかなかに楽しめる味だ。
化学調味料に頼っていないのと、入手した食材の品質自体が高いため、下手をすれば前世ではあまり美味しくなかったものが、こっちではかなりの美味さとなることもあるようだ。
「うん、美味い。いいぞ、これは実にいいものだ」
「おいガキ! 俺にもその美味そうなもん食わせろ!」
「俺もだ!」
「だが断る!」
罪人たちのヤジが飛ぶ中、タコ焼きを焼いては食べ焼いては食べを繰り返し、腹も膨れたところで締めのデザートを作っていく。
セイバーダレス公国に向かっている途中でいくつかの村落を見つけ、そこで興味深い食材を手に入れたので、今回はそれを使ったデザートを作っていく。
まずは、村落で手に入れたそれをせいろを使って蒸していき、蒸しあがったら皮を剥いてヘラやスプーンなどで細かく潰す。潰したものに、あらかじめ見つけておいたヤギの乳と砂糖と食物性植物油を混ぜ合わせたものを加え、なめらかになるまで混ぜ合わせる。
できあがったものを俵の形になるよう形成し、表面を卵黄でコーティングをして火魔法を使って加熱していけば……。
「スイートポテトの完成である」
そう、俺が村落で見つけたもの……それはさつまいもだった。たまたま見つけた村落で甘い芋があると村人が食べさせてくれたのだが、見つけた瞬間村人に影響が出ないよう買い占めた。あとになって錬金術で無限に増やせると気付いたのはご愛敬である。
「では、いただきます。はむっ、もぐもぐ……」
時間が空いている時に入手しておいた食材が、ここにきて日の目を見ていることに感嘆しながらも、できあがったデザートを味わう。
さつまいもの甘さと砂糖の甘さがマッチングして、とてもいいハーモニーを奏でている。うむ、美味である。
甘いものということでこれが女の子であれば別腹なのだろうが、俺は男なのでほどほどにしておく。しかしながら、そこに水を差す様に怒号が飛び交った。
「おいガキッ!! 一人だけで楽しんでんじゃねぇよ!!」
「そうだ! 俺たちにも寄こしやがれ!!」
「だが断ると言っているだろうが!」
まったくもって遺憾である。なぜ身も知らない人間のために、俺が手塩にかけて作った料理たちをやらねばならないのだろうか。しかも相手は罪人であり、何かの法を犯した犯罪者なのだ。ますますもって俺の料理をくれてやる理由などは一切ない。
「なんだ騒々しい。少しは静かにできんの……か?」
そんなことを考えていたその時、騒ぎを聞きつけてやって来たバルムが厳しい表情で現れる。眉間に皺を寄せた強面の顔ほど恐ろしいものはないが、その顔もすぐに間抜けな顔へと変貌する。主に俺の入っている檻の中を見たことによって……。
「なあ坊主、なんで檻の中に竈とテーブルがあるんだ?」
「俺が取り出したからに決まってるだろ?」
「じゃあ、なんで美味しそうな匂いをした料理があるんだ?」
「俺が作ったからに決まってるだろ?」
「じゃあ、なんでお前のいる檻の中が綺麗になっているんだ?」
「俺が綺麗にしたからに決まってるだろ?」
「……」
俺がバルムの質問にすべて答え終わると、目を右手で覆い隠すような仕草を取る。仕事疲れが目にでも来ているのだろうか? とりあえず、タコ焼き食っとくか?
「もぐもぐ、こりゃあ美味いな」
「だろ」
「ふざけんなガキッ! 俺らにも寄こしやがれ!!」
「うるさいぞ罪人共! 静かにせんか!!」
檻越しにタコ焼きを渡してやると、躊躇いつつもいい匂いをさせた料理の誘惑には勝てなかったのか、パクリと口にする。タコ焼きを口にしたバルムが味の感想を述べる中、罪人たちが再び騒ぎ出したのをバルムが一喝する。
そりゃ、罪を犯したお前らと街の治安を守っている兵士のバルムが同じなわけがない。罪人にくれてやるものはないが、頑張っている人間に多少の施しをするくらいの気概は持ち合わせているつもりなのだよ……俺はな。
それから、追加でタコ焼きとデザートのスイートポテトを食べ終わる頃に、再び罪人たちの不満が爆発したが、バルムの一声で黙らせられることになったのであった。
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