ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

150話「隣国へ行ってみた」



 王女たちの婚約要求から逃げてきた翌日、俺は各方面に事情を説明し、一時的に避難するため隣国へ旅に出ることにした。事情説明の途中でいろいろと新しい発見だったり、グレッグ商会で木工人形を作ってくれる木工職人を雇い入れたりとちょっとしたイベントが起きていたが、今は隣国へ逃げることを優先するべく詳細は割愛させていただく。


 逃げるといっても、定期的にあの王女たちに見つからないように瞬間移動で帰ってくるつもりではあるので、亡命するというよりも王女たちの頭が冷えるまでの時間潰しのような感覚に近い。


 シェルズ王国の両隣には二つの国があり、一つがセコンド王国でもう一つがセイバーダレス公国である。セコンド王国とは十数年前まで敵国関係にあり、つい最近まで戦争をしていた国であるため、シェルズ王国出身の俺が入国するのは些か危険だ。


 一方セイバーダレス公国は、公国を名乗っている通り国王がおらず【大公】と呼ばれる大貴族が頂点となって国を治めている形態の国で、主に農耕と畜産業が盛んな国だと聞き及んでいる。


 いずれは世界を見て回るつもりだったので、周辺諸国の大体の情報は得ているのだが、隣の国であるセイバーダレスの国境まで馬車を使って一月ほど掛かってしまう距離がある。


 今の俺でも飛行魔法を使っても数日ほど掛かる距離であることを思えば、どれだけの距離があるのかがわかるだろう。


 旅の準備は常にストレージ内に必要な物資が入っているので、特にこれといった準備はしていない。というよりも、こういった事態を常に想定しているため、何かあったときはすぐに逃げる準備はしっかりとしているのだ。こういうところは抜け目がないのだよ……。


 兎にも角にも、王都ティタンザニアから東方向に向かって飛んでいけば何日かすれば国境の街まで到着するはずだ。


「まさか、亡命紛いのノリで隣国に行くとは思わなかったな」


 本当ならもっとウキウキ気分で隣国へと旅立つはずだったのだが、これじゃあまるで犯罪者のようじゃないか。


 気分が落ち込むのをなんとか奮い立たせ、新しい新天地に向かうという新鮮な気持ちでなんとかモチベーションを保ちながら、俺は飛行魔法と透明化の魔法のコンボで隣国セイバーダレス公国へと出発する。


 特に急ぐ旅でもないというか、王女たちが自分の過ちに気付くまでの雲隠れの要因が強いため、焦って隣国まで行く必要はない。暗くなったら、オラルガンドの自宅に戻って寝ればいいのだから。


 そんなわけで、早すぎず遅すぎずな速度で確実に進めていき、一日で数十キロの距離を移動する。


 道中は特に代り映えのしない街道を見下ろしながら進んでいく。街道には、時折行き交う人々の姿が見える以外は物珍しいものはない。たまに荷馬車を引いた商人の一行の護衛がゴブリンなどのモンスターを戦っている姿が見えたが、すぐに駆逐されていたので手助けの必要はないだろう。


 それから、Bランクのはぐれモンスターが出てきたり、盗賊のねぐらを発見し氷漬けの刑にしたりとあまり面白味のないイベントがあった以外は特に何もなかった。……え? 十分何かあっただって? いやいや、ご冗談を。


 そのまま順調にシェルズ王国とセイバーダレス公国の国境の街に向かって進んでいき、一日目を終える。


 二日目は、オラルガンドの自宅でタコ焼きや在庫が心許なかったプリンなどの作製をしていたため、初日よりも距離を稼ぐことができなかった。


 三日目は、特に何の問題もなく順調に進んでいき、日が暮れたので自宅へと戻り、そのまま眠りに就いた。


 そして、四日目にしてようやくシェルズ王国とセイバーダレス公国の国境にある街へと到着した。ようやくといっても、通常であれば馬車で一月掛かる道のりを考えれば異例の早さなのだが、少しゆっくりめに飛んできたため、そう感じるのかもしれない。


 周囲の人間に見つからないよう、街の少し手前の死角になっている場所で一旦降りる。面倒だが、そこから徒歩で歩いていくことにして、そのまま街へと向かった。


 街の外壁が見える位置までやってきたが、ここでトラブルが発生した。俺が向かおうとしている方向から人相の悪い盗賊風の集団が、こちらに向かって逃げてきていた。


(あれは……盗賊か?)


 人を見た目だけで判断してはいけないのだろうが、どこからどう見ても盗賊にしか見えないし、実際に盗賊であることは間違いないのだが、こちらに実害が出ていない以上こちらから手を出すのは憚られる。


 そんな中、先頭を走っている頭目格の男がニヤリと口の端を吊り上げたのが見えた。どうやら、よからぬことを考えているらしい。


「お頭、失敗しやした! あとは頼みます!!」

「はあ? お前一体何を言って――」


 それだけ言うと、男とその部下である男たちは脱兎の如くその場から離脱していった。そして、数分後俺は街の兵士たちに囲まれてしまう状況へと陥っていた。どうやら、俺の初めての隣国旅行は犯罪者の疑いが掛けられた状態からスタートするようだ。

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