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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

146話「ローランド、町を救ってまた英雄になる」



「よし、収納完了。これで、いつでもあいつを呼び出せるようになったってことだな」


 オクトパスとの戦いにあっさり(?)と勝利した俺は、新しく手に入れたスキル【召喚術】を使って、オクトパスと召喚獣化させることに成功した。


 召喚術での契約をすると、召喚獣となったモンスターを亜空間に収納しておけるようになるらしく、その空間にいる間モンスターは時間が停止しているため、契約者が呼び出すまで時間が進むことはない。


 現在召喚術のレベルは当然1であるため、契約できるモンスターの数に限りがあるが、どうやらあと二匹までであれば契約ができるらしい。


 二匹契約ができるとはいえ、見つけたモンスターを簡単にペット……もとい、召喚獣にしてしまってはすぐに契約できる枠が埋まってしまうので、今後召喚獣にするモンスターは慎重に選ばなければならないだろう。


「さて、これでオクトパスの一件も片付いたことだし、町に戻って魚の仕入れをしようか」


 それよりも先に領主に報告するのが先だと頭の中ではわかっているが、どうもあの領主の名前で勝手に遠ざけてしまうイメージが付いてしまっているようだ。


 人を見た目で判断してはいけないと、幼稚園や小学校の低学年で保育士や教師から教えられたが、やはり人間とは人を見た目で判断してしまう生き物なのかもしれない。


 そんなことを考えつつ町まで戻っていると、何やら港に黒山の人だかりができていた。よく目を凝らして見てみると、それは町の住人たちで、おそらくだがオクトパスが暴れているのを見た人が何事かとよく見てみると、オクトパスと戦っている俺が見えたのでこの騒ぎになった感じだと予想を立てた。


 あまり気ノリはしなかったが、そのままどこかへ飛び去るわけにもいかず人だかりの中心に降り立った。地面に降りると、そこを中心として人だかりが円のようになっていく。


「何の騒ぎだ?」

「オクトパスが暴れてるって騒ぎが広まって、よく見てみたら誰かがオクトパスと戦っているのが見えたんだ。しばらく見てたら、急にオクトパスが消えて坊主が飛んで戻ってきたんだよ」

「なるほど、予想通りか」


 俺の予想した通りの状況になっていたらしく、人だかりはますます増え続け町中の人間が港に集結するのではないかと思うほどだ。


 オクトパスが消えたと思ったら、海の方角から俺が飛んでやってきたもんだから、そりゃ即ちこうなる。


「英雄だ……」

「この町を救ってくれた英雄だ!」

『うおおおおおおおおおお!!』


 ぽつりぽつりと、オクトパスの脅威が無くなり、それが俺の手によって引き起こされたものであると理解した町の人々は、歓喜の声を上げる。そして、口々に英雄だのありがとうだのと称え感謝の言葉を述べる。


「まさか、坊主みたいな子供がオクトパスを倒しちまうなんてな」

「実際は倒したんじゃなくて仲間にしたんだがな」

「仲間? それはどういう――」


 最初に話し掛けた町人が俺の言葉に引っ掛かりを覚え、さらに質問しようとしたところで、見知った顔が姿を見せる。この町を治める領主グッドマン……バッドガイである。


「ローランド君、この騒ぎはなんだね?」

「俺がオクトパスを倒すところを見られてしまったようで、それを知った連中がお祭り騒ぎを始めようとしてるところだ」

「本当にオクトパスを倒したのか!? 本当の本当か?」

「そんな嘘を吐いてどうするんだ? それよりこの騒ぎを何とかしてくれ」


 俺の言葉にはっとなったバッドガイが、あらんかぎりの大声で「静まれ」と叫び、周りの人間を黙らせる。その一言で、港に静寂が包まれる。さすがは領主威厳が違うと心の中で感心していると、バッドガイの演説が始まった。


「聞け、我が最愛なる町民たちよ。見ての通りオクトパスの脅威は過ぎ去り、今再び街に平穏が訪れた。その平穏をもたらしてくれたのは他でもない。ここにいるローランド少年なのだ!」

「え? ちょまっ――」

『うおおおおおおおおおお!!』


 バッドガイのとんでもない一言により、半信半疑だった町の住人たちが俺が町を救ったことを悟り、先ほどよりも大きな歓声を上げる。……おいおい、バッドガイさんよぉー。あんたなにしてくれとんじゃ!


 それから鳴りやまないローランドコールが続いたが、バッドガイの一言で町の住人たちが動き出すことになる。


「町民たちよ、こうしている場合ではない! 宴じゃ! 宴の準備をせよ!! 漁師たちは今すぐ船を出し、ありったけの魚を取ってくるのだ!!」

『うおおおおおおおおおお!!』


 ……おいおい、それでいいのか領主よ? オクトパスの脅威は去ったとはいえ、まだ復興ができてないんじゃないのか? それなのに、呑気に宴なんて開いて大丈夫なんか?


 俺の冷静で真っ当な意見をバッドガイにぶつけてみたが、返ってきた答えは実に考えなしの実直な答えであった。


「今宴をせずして、いつやるというのだ? めでたいことがあればみんなで祝う。それがこのマリントリルの流儀だ。ローランド君、今日はとことん付き合ってもらうぞ」

「えぇー」


 領主の一声で、即座に町民たちが行動を開始する。漁師たちは海に漁に出ていき、その妻たちや商売人たちはもしものために残していた食料や酒を惜しげもなく持ち寄り、料理人たちはその食材を使って何千人前という規模の料理を作り上げ、職人たちは即席の宴をする会場を作り始めていた。


 すべてが領主のたった一言から始まり、そして短い時間でこれだけのことを一斉に成してしまうことに、俺は少し……いや、かなり驚いていた。


 日本人も世界的に見れば協調性の強い国民性であるため、どちらかというとこの町の住人のように自分たちで協力して一つのことを為すことができる人種であるのだが、この町の住人ほどではない。


 俺がどうすればいいのか迷っている間にも、宴の会場が瞬く間に出来上がり、即席で作られたテーブルには料理人たちが作った料理が並べられ、その料理には先ほど漁師が取ってきた海鮮料理も含まれていた。


「……俺はどうすればいいんだ?」

「君はそこでじっとしていればいい。今宵の宴はこの町を救ってくれた英雄に感謝する宴でもあるのだ。主賓に働かせたとあっては、貴族としてこの町の一員としても立つ瀬がないのでな」


 そこまで言われてしまっては、俺が何かするというわけにもいかず、ただただ宴の準備が着々と出来上がっていく様子を見守る。その間にも、領主のバッドガイは的確に指示を飛ばいしいき、町民もその指示に従って手早く準備を進めていっているようだ。


 そして、数時間と経たずに宴の準備が整い、俺は今特等席で領主の宴の挨拶を聞く羽目になってしまっていた。


「であるからして、ここにいるローランド君によってオクトパスが倒され、この町に平和が訪れたのである。彼こそが、この町を救ってくれた英雄なのだ!!」

『うおおおおおおおおお!!』


 もはや何度目かもわからない歓声を聞かされつつも、俺はその声に応えるように引き攣った笑顔を浮かべながらぎこちなく手を振る。……これ、どんな拷問ですかね?


 新しいスキルに、拷問耐性が付くのではないかと思わせるほど、精神的な負荷を現在進行形で味わっている俺に、更なる追い打ちがやってきた。


「それでは、この町の英雄に何か一言もらい、それを乾杯の音頭としようではないか!」

「え?」


 待て待て待て待てぇーい! 聞いてないんですけどー!? なんかすごいしてやったりな顔してますけど、こんな状況で一体何を言ったらいいんだよ!!


 そんな俺の心の声も虚しく、バッドガイが言葉を続ける。


「では、この町の英雄。冒険者ローランドだ!!」

(こ、こうなったら、やるしかねぇ……)


 こうして、バッドガイの粋な計らい(?)によって、今生十二歳にしてすべらないスピーチをすることになってしまったのであった。

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