ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

144話「SSランクに分類される基準が必ずしもモンスターの強さを参考にしているわけではない」



 領主との顔繫ぎを行った翌日、俺は朝の支度を済ませ海へと繰り出した。


 本来であれば、この時間帯には漁師などで賑わっているはずの港には、人がほとんどおらず静寂が港全体を支配していた。


 それでも、船のメンテナンスのために人が出入りしているようで、港には今すぐにでも漁に出掛けられるよう船着き場に船が所狭しと並んでいる。


 オクトパス襲来からしばらく時間が経過しており、海以外からの食料調達が限界に近づいているこの状況では急いで討伐に向かった方がよさそうだ。


「さて、じゃあいっちょタコ焼きの材料を回収しに行くとしますかね」


 他の人間にとっては驚異的なモンスターでも、俺にとって最も恐ろしい相手は師匠モドキのナガルティーニャくらいだ。あれよりも強くて恐ろしい相手を探す方が難しくなっているこの状況で、たかだか海の中にいる八本足の軟体生物風情では役不足も甚だしいのである。


 飛行魔法と透明になる魔法を自身に掛けつつ、オクトパスの反応らしきものがある沖合の方へと進んでいく。辺り一面綺麗な青い海原が広がっていて、神秘的な大自然の美しさを改めて痛感させられる。


 自然は時に牙をむいて襲ってくるが、こうして見ているとやはり自然というのはかくも美しいものであると詩人的な感想を抱いているうちに目的のポイントに到着する。


「この下にいるな」


 そこは特段目立ったものはなく、地上的には何もない場所だ。オクトパスにとって居心地のいい場所なのかはわからないが、その場所に留まる理由でもあるのだろうか。


 そんなことを考えていると、俺の気配を察知したようでオクトパスが海底から姿を現す。その大きさは実に三十メートルは下らないかというほどの巨体を持ち、タコの特徴である長くうねった八本の足を自由自在に操っている。


「小さな気配を察知して来てみれば、人間の小僧ではないか」

「……喋れるだと? モンスターだと聞いていたが?」

「ふん、我ほどのモンスターになると人の言葉を操るなど造作もないわ。それに貴様ら人間が我らを格付けしておるようだが、その格付けで言うところのSSに入っている連中は軒並み人語を理解し操れるほどの知恵と自我を持ち合わせておるわ」

「うん? だが、スカル・ドラゴンもSSだったが、喋らなかったぞ?」

「小僧、スカル・ドラゴン、彼奴と会ったのか?」


 オクトパスの口からモンスターのランクに関する有益な情報を得られたが、その情報で解せない点がいくつが浮上した。


 まず、俺が一番最初に出会ったSSランクに分類されるモンスター、スカル・ドラゴンの存在である。元々スカル・ドラゴンはオラルガンドのダンジョンに封印されていたようで、それを魔族の眷属が復活させてしまったことで出会ったのがきっかけなのだが、その時は唸り声を上げるだけで人の言葉を話したりはしなかった。


 その他にも、俺がナガルティーニャのところで修行を終えたあとに戦った二百五十階層クラスのモンスターの中にも、SSランクに分類されるモンスターがちらほらいたが、そいつらも人の言葉を話すなんてことは一切なくただ馬鹿みたいに吠えるか唸り声を上げるだけだったのである。


「彼奴、スカル・ドラゴンはな。元々我と同じ狡猾な知性を持ち合わせた凶悪な邪竜だったのよ。だが、貴様ら人間たちの手によって封印され、その長き年月によってアンデッドに変貌を遂げたのがスカル・ドラゴンなのだ。だから、もはや死という概念の先にいるスカル・ドラゴンが元々持っていた人語を操る能力を失っても何ら不思議ではない」

「では、ダンジョンにいる人語を話さないSSランクのモンスターについてはどういうことなんだ?」

「あれはダンジョンが生み出したただの模倣的なモンスターであって、ダンジョンの外で生まれたモンスターではない。それ故、知性の欠片もなくただ唸ることしかできない木偶の坊よ。尤も、そんな木偶の坊でも人間からすれば、価値のある素材を落としてくれる存在であることは変わりないがな」

「なるほどな。なかなかいい話が聞けた。礼を言おう」

「そんなものは不要だ。何故なら、貴様はこの我によって亡き者にされてしまうからな!!」


 貴重な情報をもらえたことに対する感謝の言葉を述べたのだが、どうやら知性は合っても品性はなかったようで、いきなりその巨大な触手の一本を俺に振り下ろしてきた。


 しかしながら、そんな大振りな攻撃が俺に当たるわけもなく、悠々とオクトパスの触手を躱し再び元の位置で浮遊する。それを見たオクトパスが驚愕の感情を露わにする。……表情はモンスターだからわからんがな。


「ほほう、人間の分際でなかなかちょこまかと動くじゃないか」

「そっちこそ、モンスターの分際でその程度の攻撃しかできないとは。所詮は人の言葉を話せるだけの存在でしかないようだな」

「抜かせ!!」


 それから、オクトパスの触手による本気の振り下ろしが雨のように降ってくる。八本の足から繰り出される連続攻撃は、機動性に優れた鳥型のモンスターであっても完全に回避することは困難を極める。


「ま、こんな攻撃あのロリババアの超絶弾幕に比べたら、スローモーションだけどな」


 かつてナガルティーニャの元で修行していた頃、相手の攻撃を避ける練習だと宣いながら、致死レベルの攻撃魔法をまるで砂を投げつけるように数千発も叩き込まれたのは、今となってはいい思い出である。……んなわけあるか! マジで死にかけたわ!!


 それに比べれば今のオクトパスの連続攻撃など隙だらけもいいとこで、あの弾幕を経験している俺からすれば、どうぞ避けてくださいと言っているようなものなのである。


 常人には到底躱しきれない触手攻撃を、まるで昼下がりのティータイムを楽しんでいるかのような涼しい顔で躱しながら、ここで俺の日頃の癖が出ていることに気が付き、慌てて相手の能力を調べる。そう、戦う前に相手の能力を調べることを忘れてしまう癖である。


 圧倒的なまでに強くなり過ぎてしまったが故に、自分よりも格上の存在は一人を除いて存在しないという強者の驕りが、相手の能力を調べずに戦ってしまうという油断を生んでしまっているのだ。


(いかんいかん、この癖は直すべきだな)


“油断大敵、火がぼうぼう”なんていう慣用句もあるわけだし、戦いにおいて相性の悪い相手というのも必ず存在する。俺は万能ではあるが、決して無敵ではないのだから……。


 己の油断を改めて再確認できたところで、解析を使ってここでようやく相手の能力を調べる。すると、こんな結果が返ってきた。




【名前】:オクトパス

【年齢】:883歳

【性別】:不明

【種族】:水生族・クラーケン族

【職業】:なし(SSランク)


体力:137000

魔力:181000

筋力:SS

耐久力:SS+

素早さ:SA+

器用さ:SA-

精神力:SA

抵抗力:SS-

幸運:SB-


【スキル】: 身体強化・改LvMAX、魔道の心得Lv9、水魔法LvMAX、氷魔法LvMAX、嵐魔法LvMAX、霧魔法LvMAX、

 超集中Lv7、威圧L9、魔法耐性Lv9、物理耐性Lv9、毒無効LvMAX、幻惑無効LvMAX、パラメータ上限突破Lv1、

 墨吐きLvMAX、水潜LvMAX、再生Lv8

【状態】:なし



 ふむふむ……まあわかってはいたが、それほど大した奴ではないようだ。海のモンスターというだけあって水系統の魔法に特化していること以外に特にこれといった能力はもっていないらしい。


 強いて言うのならば、再生のスキルを持っているのが少し気になるところではあるが、さすがにゼロからの再生はできないだろうから存在そのものを消滅させれば問題はないと思う。


「そうだ。いいことを考えたぞ……」


 オクトパスの能力を見て、あることを思いついた俺は、さっそくそれを実行に移すことにした。検証である。

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