ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
139話「蒸し料理、始めました」
「うおっ! 一体なんだ? って、ローランド様!?」
厨房の扉を勢い良く開くと、その音に驚いたルッツォが目を丸くして驚いている。
「デーデーデー、デーデデー、デーデデー、デーデーデー、デーデデー、デーデデー」
「その怪しげな歌はなんですか?」
「気にするな、ただの気まぐれだ」
「はあ」
俺は勢いよく開いた扉から、暗黒面に堕ちた光の剣を使って戦う騎士のテーマソングを口ずさむ。ルッツォとのコミュニケーションはこれくらいにしてさっそく本題を切り出すとしよう。
「ルッツォ、先ほど新しい調理器具を作ってみたんだが、その調理器具の確認をしたいから厨房を借りるぞ」
「新しい調理器具ですか? 私も見せてもらってもいいでしょうか?」
「構わない。寧ろその調理器具で新しい料理を作るから手伝ってくれ」
「かしこまりました」
やはり料理のことに関しては興味があるのだろう、ルッツォが見学を申し出てきたので、せいろの試運転も兼ねて手伝ってもらうことにした。
蒸し料理で最も簡単なものは、じゃがバターだ。せいろで蒸したじゃがいもは、焼いたり煮たりする時と違いその旨味を内に秘めており、焼いた芋と煮た芋と蒸した芋ではその旨味に差が出る。
しかしながら、未だにバターを入手できていないため、できれば早めに牛乳を手に入れたいところではある。
「ルッツォ、バターという調味料を知らないか?」
「バターですか? 聞いたことないですね」
「そうか、あと市場で食材を探しに行った時でいいから米と大豆がないか見ておいてくれ。見つけたら何をおいても確保するように」
「わかりました」
そう言いつつ、さっそくじゃがいもをせいろで蒸していくことにする。作り方としてはとても簡単で、ただのじゃがいもを洗い芽が出ていないか注意しながらせいろの中にじゃがいもを投入していく。
底の厚めの中華鍋モドキに水を張って、その上にじゃがいもの入ったせいろを設置する。かまどに火を入れ、そのまま待つこと二十五分から三十分ほど蒸していく。水が沸騰し、その高温の湯気によってじゃがいもが蒸されていくことであの蒸しじゃがいもができあがるのだ。
大体二十分辺りで一度せいろの蓋を開け、木の串でじゃがいもを突き刺しちゃんと中まで火が通っているかどうかの確認をする。
調理開始から三十分後、串の通りが柔らかくなりじゃがいもが蒸しあがったので、せいろをかまどから外し中のじゃがいもを皿に移し替える。
「本当ならここにバターを入れるのが定石なんだが、今回はマヨネーズにしておこう」
「あの不思議な白いソースですな」
「よし、できたぞ。食ってみろ……飛ぶぞ」
「はむ、ほふほふ……んぐっ、こ、これは!!」
ルッツォがじゃがバターならぬじゃがマヨを食べ目を見開き驚いたのを見た俺は、出来栄えの確認のためにさっそく試食する。
アツアツのじゃがいもとマヨネーズの取り合わせは前世でもよくある組み合わせなので、不味いはずがない。寧ろお互いを引き立て合い絶妙なハーモニーを生み出している。
「うん、美味いな」
「美味しいです。これが蒸すという調理法を使った料理なのですね」
「そうだ。蒸すことで旨味を中に閉じ込めることができるんだ。これも覚えてもらうからな」
「が、頑張ります……」
また新しい課題が増えたことに頬を引きつらせながらも、その瞳には新しいことを学べる喜びの色が浮かんでいた。
とりあえず、せいろモドキの機能性を確認できたので、ここからお遊び的な感じで肉まんを作ってみることにした。
肉まん自体も難しい料理ではなく、中に入る肉と野菜を混ぜたものを小麦粉と酵母菌で作った生地に包み込んでせいろで蒸すだけのお手軽料理なので、すぐに完成した。
「はむっ、もぐもぐ……うん、美味い」
肉まんの完成度も申し分なく、前世のコンビニで売られていたものよりも味は劣るが、化学調味料などの余計なものが入っていない分、素朴な優しい味に仕上がっていた。
それから昼食の時間帯に向けて、人数分のじゃがマヨと肉まんを量産し使用人たちに振舞ったところ全員から好評を得たのであった。
ちなみに、肉まんとじゃがいもだけでは足りないと感じたので、手持ちの野菜を使って俺特製の野菜炒めも作ったのだが、これも全員が美味しいと言って食べてくれた。
これで新たに蒸し料理が追加されたことで、料理のバリエーションが増えたことは喜ばしいことではあるのだが、未だに入手できていない植物性食物油や米・大豆などとの食材などまだまだ欲しいものは尽きないため、今後もそれらを入手すべく動いていこうと思う。……あれ? 俺の目的って観光だったはずなんだが、いつの間にか食材探索に変わっているのは気のせいだろうか? 気のせいですか、そうですか。
せいろは追加で作ってあるので、ルッツォの厨房にも何台か提供しておき、暇を見つけて練習するよう指示しておいた。
後日、ステラとマーニャのスパイコンビのヘッドハンティングの件について国王に呼び出しがあったので、その連絡を受けて国王のところに行ったら「俺にも肉まんとやらを食わせてほしい」と言ったので、仕方なく食べさせるとぺろりと四個を平らげてしまった。
それから、たまに料理を食べさせてほしいとお願いされたので、こちらの願いを可能な限り叶える“貸し一つ”という借金で了承してやった。よし、これで隣国との戦争になった時に何とかしてもらえるぞ! まあ、いくら異世界とはいえ戦争なんてそうそう起きないとおもうがな。……ないよね?
肝心の引き抜きの件だが、ステラは年齢的にはまだまだ現役だが本人の意志で引き抜きをしてもオーケーとのことだ。見習いのマーニャに関しては、まだ未熟ということもあり、今後の伸び代も期待されていることから一旦引き抜きは保留ということになった。まあ、潜り込ませたスパイが潜入先の人間に全員引き抜かれてはやってられないから、国王の判断としては正しいものなのだろうと納得する。
去り際に、今度俺に会わせたい人物がいるから準備ができたらまた呼ぶと告げられた。一体誰なのかと思ったが、たぶん王妃か王女、あるいは自分の跡取りを紹介して俺との顔繫ぎをさせておきたいという狙いなのだろうと当たりを付け、この件に関してはそれで終了となった。
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