ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
136話「後処理」
「【キュアメディスン】」
未だ病で苦しむランドールに向かって、俺はキュアメディスンを唱える。ローグ村で人体実験……もとい、検証した結果この魔法が今回の病に効果があることはわかっていたので、ランドールにも使ったのだが、そうは問屋が卸さないとばかりに特に変化がなかった。
「ふむ、どうやらこの魔法の効果が及ばないほどに病気が進行しているようだな」
「兄さま、父さまは助かるのですか?」
「俺は父上と契約を交わした。デスコントラクトで契約した以上、その契約内容は果たさねばならない」
俺が父と交わした契約は、その気になればこちらから破棄することができるもので、俺にとってかなり有利なものだ。だが、一度約束したことはよほどのことがない限りは反故にするつもりはない。俺は、目の前にいるこの男を助けられると踏んだからこそ、相手の命を懸ける重い契約をすることにしたのだから。
「これならどうだ。【イルネスピュリフィケーション】!」
以前ナタリーの弟であるジャンを治療した時に使った魔法を使ってみる。この魔法は、病原菌やら病原体の原因となっているもの自体を浄化させる魔法で、先に唱えたキュアメディスンの上位にあたる魔法でもある。
俺がイルネスピュリフィケーションの魔法を唱えると、ランドールの顔がみるみる赤みを取り戻し、かつて見た元気な姿を取り戻していった。
「こ、これは……助かったのか?」
「あ、あなたっ」
「父さま」
「お父さま」
ランドールが危機を脱したことに安堵する家族の姿を眺めながら、今後の後処理について思案する。とりあえず、今後の方針としては、病気の原因を取り除き、このようなことが再び起こった時の対策を考えねばならない。
この領地が病に侵される度に呼び戻されてはかなわないというのもあるが、今後はマーク一人の力でなんとかしてもらわなければ、一領主としてやっていくことなどできないだろうという思いもある。
そのためには、回復魔法のレベル向上及び病気に対しての予防対策、並びに事態を乗り越えた後の事後処理までの流れを教えなければならない。今だ十歳という若さではあるが、まだまだ教えることは山ほどある。
「兄さま」
「ん?」
いろいろと頭の中で考えていると、突然マークに声を掛けられる。どうやら、父上から俺に話したいことがあるようだ。
「ロラン。今回のこと助かった。ありがとう」
「別にあなたのためだけにやったわけじゃない。すべてはこの俺がのんべんだらりと過ごすために必要だっただけの話だ。だから、礼を言う必要はない」
「それでも、俺はまだここで死ぬわけにはいかなかった。例え俺のためではなくとも、命を助けられたことに変わりはない。本当に感謝する」
「ふんっ」
俺はランドールの言葉に、鼻を鳴らしてそっぽを向く。それが照れ隠しだと分かっているのか、そこにいる全員が微笑ましい顔を浮かべながらその様子を見つめていた。やめろ! そんなハートフルな雰囲気を出すんじゃない。
そんな雰囲気に居たたまれなくなった俺は、すぐに話題を今後のことについて話すことにした。まずは、現状まだ病気で苦しむ人間がいるということで、直接現地に赴き治療を施さなければならない。こういった病は、もとから完璧に絶たねばまたどこかで必ず出てくるのだ。
ひとまず、屋敷の人間から治療を行うということになり、マークに回復魔法の修行の一環として俺の魔法を直接見せながら指導をしていく。
「いいか、病気を治す魔法を使う時は、その魔法で悪い部分が浄化されていくのを頭で思い描きながらやると成功しやすい。【キュアメディスン】」
「なるほど」
「お前もやってみろ」
「はいっ」
「ロランお兄さま、わたくしにも教えてくださいまし」
一通り屋敷の人間を治療し、治療が終わる頃にはマークもキュアメディスンが使えるようになり、ここで嬉しい誤算だったのが、ローラも回復魔法を覚えることができるようになった。これである程度の病気であれば、二人でなんとか対処できるはずだ。
俺の姿を見た使用人たちは一様に俺がいることに驚いていたが、どうせまたすぐにいなくなってしまうため、彼らがどう思おうと知ったことではないとばかりに治療を施していった。
こうして、ルトヒー病に罹っていた屋敷の人間すべての治療が終わり、病の危機を乗り越えることができたのであった。
「では、明日の早朝また来るから遅れないようにな」
「兄さま、屋敷に泊ってください。ここは兄さまの家でもあるのですよ」
「俺はもうマルベルト家の人間ではない。そんなやつがマルベルト家の屋敷に出入りしていると知ったら、あらぬ噂を立てられる攻撃の材料となり兼ねない。それはわかるな?」
「……」
俺の言葉に、顔を俯かせる。そんなマークを見かねたローラが、俺に提案する。
「ロランお兄さま。お兄さまは、流行り病からわたくしたちを救ってくれた恩人ですわ。そんな恩人を、屋敷でもてなしもせずにそのまま返したとあっては、貴族の名折れだと思うのですが?」
「ふむ、確かにローラの言うことにも一理あるな。であれば、父上にお伺いを立てて父上が良いと言えば泊って行ってやろう」
俺の言葉に途端に顔を輝かせるマーク。だからマークよ、その笑顔は女の子に向けるものであって、決して実の兄に向けていいものではないと言っているだろう? そして、ローラお前もだ。
すぐに父上から滞在の許可を取り付けた二人は、俺を逃がすまいと部屋へ案内する。俺が以前使っていた部屋に案内され、懐かしい思いに浸るように思わず見回す。俺の部屋はマークのわがままでそのままにしてあり、定期的に掃除がされているようで、塵一つ落ちてはいなかった。
それから、すぐに夕食となり俺は久々に家族と共に食事をすることになったのだが……。前世の料理の味に慣れてしまっている俺の口にマルベルト家の料理が合うわけもなく、以前と同じく厨房に赴き料理無双を披露することになった。その結果、俺の作った料理は大層喜ばれたが、マルベルト家の料理人はあまりいい顔はしなかったことを付け加えておく。
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