ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
131話「商業ギルドへの交渉」
「てことで、レリアンヌ。この子たちの仕事の振り分けを頼む」
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなことを言われても困ります!!」
子供たちの意志を確認した俺は、さっそくどの仕事をどの子にさせるべきか考えていた。がしかし、ほとんど初対面といってもいいこの状況下である俺に、どこ子がこの仕事に向いているなどという適材適所な仕事の振り分けをすることなど困難であるため、その役割を孤児院の責任者であるレリアンヌに一任しようとした。
しかしながら、いきなりの出来事に戸惑いを隠せない彼女が俺の指示に素直に従うなどということはなく、改めてレリアンヌとイーシャに説明してやった。
国からの支援金がない今、自分たちにできることは支援金の支給が再開されるのを待つことではなく、自給自足で孤児院をやっていけることではないのかと。その第一歩として俺が仕事を提供し、その仕事で得た報酬で孤児院を立て直せばいいのではないかと。
「……」
「いきなり俺みたいなここにいる孤児たちと変わらないような子供が、こんなことを言い出して何の冗談だと思っているだろう。だが、現実を見てみろ。今のレリアンヌに孤児院を立て直す案があるのか? 国からの支援金が再開されたのか? 現実は案もなければ支援金ももらえていない。だったら、今の自分たちできる精一杯の方法で生きることが重要なんじゃないのか?」
俺の言葉に、レリアンヌは顔を俯かせ黙り込んでしまう。それは俺の言葉が正しく反論の余地すらないからだろう。
現実問題このまま何もしなければ、半年と経たずに孤児院にいる孤児たちは餓死で死んでしまうか、犯罪を犯し兵士に捕まって犯罪者として罰を受けることになるかのどちらかだ。
おそらく、彼女の中で答えは出ている。俺の提案に乗るしかないということを。このままでは最悪の結末が待ち構えているということを。
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だ。問題ない」
前世の地球でその台詞はご法度だが、ここは異世界である。そんな死亡フラグのような特殊な法則は存在していないはずだ……たぶん。
俺の言葉を聞いて彼女たちも半信半疑な部分がありながらも、現状を打開する具体的な案がない以上俺の提案を受け入れることにしたようだ。
とりあえず、孤児院で世話をしている孤児の人数は、二十人前後なのでそれを一つの仕事につき六、七人のグループに分けてもらった。まずはマジックカモミールの収穫法と日ごろの手入れの仕方を教える。
みんな命が懸かっているとあって真面目に俺の話を聞き、すぐに収穫と手入れ方法を覚えた。他の仕事についても特に難しい工程や技術は必要としないので、小さな子供でも覚えるのは簡単だった。
三つの仕事を一通り教え込んだ俺は、レリアンヌに言って台所に案内してもらい三日分の食料を提供する。それを見たレリアンヌとイーシャは何度目かの驚きを見せていた。
「あの、どうしてここまでしてくれるのでしょうか?」
「そうだな、強いて言えば……俺の自己満足ってやつだな」
俺の前世は日本人だった。基本的に、日本人は困っている人がいれば手を差し伸べてしまう傾向が強い国民だと言われている。どうやら、俺もその国民性の御多分に漏れてはいなかったようだ。
だからといって、俺は困っている人がいれば誰も彼も助けてしまうほどお人好しでもなければ善人でもない。俺に助けるだけの力があり、相手に助けられるだけの資格がある時にだけ助けるといった限定的な善意でしかないのだ。
今回の慈善事業もその一環であり、具体的な理由を挙げるのならば“俺が助けたいと思った”というはっきりとした理由になっているのかどうかわからない抽象的な理由なのだ。
もっと突き詰めていくのであれば“俺の目の前に不幸な人間がいることなど許せない”や“俺が何の後ろ指も刺されずに今後生きるためには、お前たちが幸せでなければならない”などといった俺を主体とする理由がいくつか出てくるが、端的に今回孤児院を救済する原動力として一番の理由は“俺のため”なのである。
今後、俺はいろんな場所を見て回りたいと考えている。そこに不幸な顔して俺の周りを歩かれちゃあ、こちらとしてもいい気分で見て回ることができないのだ。つまり、俺がいい気分で観光ができるように、周囲の人間が幸せでなければならないというあくまでも“俺が俺が”という理由から来る救済なのである。まさに“オレオレ救済”というやつだ。
「ローランド様は、お優しい方なのですね」
「そんなことはない。現に、茶葉や高級糸の生産にお前たちを利用しようとしている」
「ふふ、そういうことにしておいてあげます」
俺の行動に対する感想をイーシャが口にし、俺がそれを否定することを言ってみたが、本気と捉えられなかったようだ。確かに、俺にはゴーレムがいるからそいつらに任せれば、二十四時間休むことなくしかも効率的に生産することができる。
その作業を子供たちにやらせようとしている時点で、言い訳のしようがないのかもしれない。そのことをレリアンヌもイーシャもなんとなく察しているのだろう。
「とりあえず、俺はこれから商業ギルドへ行って話を付けてくる。明日の早朝に実践的な手入れの方法を教えるから、今日は子供たちを早めに寝かしつけておくようにしておいてくれ」
「わかりました」
「ローランド君、ありがとう」
そう言って、孤児院の連中と別れた俺は、その足で商業ギルドへと向かった。時刻は夕方一歩手前くらいの時間帯で、道中食べ物を扱う屋台の店が、仕事を終えた人たちがやってくるピークに向けての準備をしているところであった。
そんな光景を尻目に商業ギルドへと到着すると、すぐさまストレージから国王からもらった【ミスリル一等勲章】を装着し、受付へと向かう。
「お、おい。あれを見てみろ」
「あれが噂の英雄か? 小さすぎないか?」
「でもあの胸の勲章は、本物みたいだぜ?」
「魔族をやっつけたって話だろ? あんな子供が信じられん」
などと囀る商人たちの声を聞き流しつつ、受付に向かいギルドカードを提示しながら用向きを伝える。
「失礼、ギルドマスターにお目通り願いたい。取り次いでくれるか?」
「は、はい。か、かしこまりました。少々お待ちくださいませ!!」
しばらくすると、ギルドマスターに確認しに行っていた受付嬢が戻ってきた。どうやら会ってくれるとのことで、すぐにギルドマスターのいる執務室へと案内される。
「失礼する」
「ようこそおいで……くださいました」
俺のただならぬ雰囲気を察してか、若干口調が堅苦しい物へと変化する。ちなみに、今の俺は少しだけだが貴族モードになっていることを付け加えておく。そのままソファーにおもむろに座ると、俺はさっそく用件を口にする。
「忙しい中、突然来てしまって申し訳ない。今日は、リリエール殿にある商談を持ってきた」
「お聞かせくださいませ」
最初の柔らかい態度とは打って変わって、まるで大貴族を相手にしているような畏まった態度を取る。以前の俺の雰囲気とは違うことを察知し、空気を読んで合わせているようだ。
「まずは、この三つの品を見て貴殿の意見を聞きたい。別に貶したところで怒りはしないので、忌憚のない意見を述べてほしい」
「わかりました。拝見いたしますわ」
彼女に一言断りを入れ、ストレージからレリアンヌたちにも見せた品を来客用のテーブルに並べていく。先の二つを見た瞬間目を見開き驚いていたが、最後の野菜を取り出した時は怪訝な表情を浮かべていた。そりゃ、どこにでもある野菜だからな。
しばらく、手に取って眺めたり細かな部分を観察したりしていたが、ようやく査定が終わったようで、その結果が発表された。
「どれも素晴らしい品だと思います。こちらのマジックカモミールは状態も良く、お茶としても薬の材料としても申し分ありません。このヤーンマイトの糸も問題なく、高値が付くのは間違いないでしょう。最後にこちらの野菜類ですが、確かに鮮度も品質も良好だとは思いますが、高値が付くかと言われれば難しいというのが正直なところです」
「なるほど」
リリエールの評価に一言だけで返答すると、俺はすぐに本題を切り出す。
「これはまだ暫定的な話だが、将来実現可能かもしれない話として聞いてくれ」
「はい」
「もし、これらの商品を定期的に安定して納品できると言ったら、商業ギルドとしてどういった契約内容を提示する?」
「そうですね。もし本当にそうなったと仮定してお話しするのなら、マジックカモミールとヤーンマイトの糸は取引品としては魅力的ですし、こっちの野菜類の方も目新しさはないですが、形も悪くなく鮮度もいいのでギルドとしても是非とも実りある契約を結びたいところです」
(ふむ、さすがに手の内は見せないか。腐っても商業ギルドのギルマスってとこか……。まあ、腐ってはないんだがな)
などと内心で冗談を言いつつも、条件としてはそれほど悪くない内容で契約を結べそうだったので、交渉をさらに進めることにする。
「では、あと二、三日ほど待ってくれ。まだこれだけの品質を出せるかどうかが確定していないから、このレベルの品の安定供給が確約できていない状態での契約は、そちらとしてもこちらとしても本意ではないだろう?」
「その二、三日で何かしらの答えが出るということですか?」
「まあ、そういうことだ。その結果が出次第また改めて具体的な交渉に移ることにしよう。それで構わないか?」
「わかりました。いい結果が出ることを期待しております」
そんな感じで話が纏まり、リリエールとの交渉は一旦終了となった。これから安定した商品の供給のため、子供たちに教えていかねばならないことがある。少しばかり忙しくなりそうだ。
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