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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

130話「世界は違っても、世の理は変わらない」



「よし、お前ら腹は膨れたな。じゃあ、これから大事な話をするからちゃんと聞くんだぞ」


 食事を終え、皆が落ち着いたタイミングを見計らって俺は話し始めた。現状国からの援助が滞ってしまっているため、孤児院では建物を修繕する費用や服などの生活必需品、さらには生命線となる食料の調達すら難しい状況へと追い込まれてしまっている。


 子供たちもそうだが、世話をしているレリアンヌやイーシャもどことなく頬がやせ細っており、満足に食べられていないことがよくわかる。そんな痩せた状態でも、イーシャの胸部装甲がとんでもないのだがな……。


 どうしてそんな状態になっているのかといえば、理由は簡単で孤児院自体の収入源となるものがまったくないからである。通常特定の施設を運営するためには、国などの然るべき機関が施設を維持運営するための援助金を出し、管理する側がその援助金を使って施設を維持していくか、施設自体で得られる収益によって算出されたお金で施設を運営するかの二つのパターンに分かれる。


 今回の場合、前者の国からの支援金で孤児院の運営がなされていたわけだが、何者かの手によってその支援金が着服されていたため、孤児院の運営が立ち行かなくなっている。


 であるならば、孤児院自体にある程度の収益を上げる何かがあれば、国からの援助が一時的に途絶えてたとしても孤児院だけの力で最低限なんとかやっていけるのではと考えたのだ。


「お前たちは俺が与えた料理でお腹が一杯になった状態だが、明日はどうなるかわからない。俺がいつまでも料理を出してくれる保証もなければ、誰かが救いの手を差し伸べてくれるわけでもない。今のお前たちは瀬戸際に立たされている。それはわかっているな?」


 俺の投げ掛けに、その場にいた全員が顔を俯かせる。どうやら、子供ながらに今の状況が良くないということは理解しているようだ。そんな雰囲気を払拭するように、俺は不遜な態度で宣言する。


「だが、喜べ! そんな危機的状況に、救いの手を差し伸べてくれる人間がお前らの目の前にいる。そう、この俺だ!!」


 自分で言ってて「なんだこいつは」という感想が頭に浮かぶが、実際にこの状況を何とかしようとする人間であることに変わりはないため、俺はそのまま話を続ける。


「これから、お前たちにある仕事をいくつか頼みたい。その仕事をするための準備はこれからだが、真面目に働けばちゃんと給金が支払われるようになるだろう」

「そ、それは本当でしょうか?」


 俺の言葉に、レリアンヌが問い掛ける。孤児院の責任者として、藁にも縋る思いなのだろう。それだけ、今の状況が逼迫しているということを意味している。


「ああ、本当だ。だが、さっきも言ったがお前たちにその仕事をしてもらうためには下準備が必要だ。その準備を今から行いたいのだが、構わないだろうか?」

「ど、どういったことをされるのでしょうか?」


 レリアンヌの問いに答える代わりに、俺はストレージから三種類の品物を取り出した。
 一つは、見た目は何の変哲もないお茶の葉で、特に変わった点は見受けられないどこにでもありそうな普通のお茶の葉だ。もう一つは、木の棒にぐるぐる巻きにされた糸の束で、これも特に変わった点はない。最後はみずみずしい色合いを放つ複数の新鮮な野菜たちで、これも新鮮ということ以外至って普通である。


「あの、このお茶の葉はなんですか?」

「これは【マジックカモミール】といって、人気の高い品目のお茶の葉であると同時に、薬師の間では薬の材料としても取り扱われている汎用性の高いお茶の葉だ」

「こっちの糸は?」

「これは、オラルガンドのダンジョンに生息する【ヤーンマイト】というモンスターが吐き出す糸を加工したもので、かなり高値で取引される高級糸としても有名だ」

「では、この野菜たちは?」

「これはただの野菜だ。見ての通り鮮度はいいが、どこにでもある普通の野菜だな」


 俺が取り出した品物の説明を一つ一つレリアンヌたちに説明していくものの、なぜ俺がそんなものを取り出したのかその意図をはかりかねているようであった。


 先ほども言ったが、孤児院の運営を立て直すには国の援助だけでなく、孤児院自体からも何かしらの収益がなければ厳しい。そこで俺が目を付けたのは、この三つの品々だった。


 まずマジックカモミールについてだが、このお茶の葉は魔力を多分に含んでいる土地によく自生していることが多く、ダンジョン内の森の中や人があまり踏み入れていない未開の土地などで発見されている。
 お茶の葉としての効能は、心を落ち着かせる鎮静作用や疲労回復などが主で、これを使って作られる薬の効能もそれに準ずる効果がある。


 次にヤーンマイトについては、グレッグ商会で販売しているぬいぐるみの糸にも使用されているため、強度や耐久度などのあらゆる性能において高い水準を叩き出している。
 そのため、実際取引される金額もそれなりのもので、グレッグ商会のぬいぐるみもそれが原因で若干お高めの値段に設定しているほどだ。


 最後の野菜たちは、特に珍しくもなんともない普通の品だが、よく見かける食材であるため需要は高く値段も安いが、自給自足ができれば自分たちで食べることもできるため、この三品のラインナップの中に入れたのである。


「子供達には、このマジックカモミールの栽培・ヤーンマイトから取れる糸の収集・畑で野菜を育てるこの三つの仕事をやってもらいたい」

「えっ!? そ、そんな急に言われても」

「それについては問題ない。これらを生産するための費用はこちらが負担するし、子供たちには最初から作るのではなく、管理と収穫だけをやってもらうだけだからな」

「で、でも……」


 俺の言葉に戸惑うレリアンヌだったが、本当にそれが実現すれば孤児院がなんとかなるかもしれないと考えているのか、あまり強く否定はしてこない。とりあえず、善は急げということで孤児院の庭に案内してもらった。


「おし、まずはマジックカモミールから行くか。【アースコントロール】」


 庭へとやってきた俺は、さっそく準備に取り掛かることにした。まずは大地魔法で庭の地面を耕し、お茶の葉から錬金術を使って種に変換する。そして、畑の畝のように土を盛り上げた場所に魔石を砕いた粉末を撒きつつ種を植え、水魔法で水をやりながら木魔法を使って一定の大きさにまで成長させた。瞬く間に生え揃ったお茶の葉が、鮮やかな緑色の葉を茂らせる。


 次はヤーンマイトだが、転換魔法の中に【ディメンジョンルーム】という魔法があり、この魔法を使えば別の空間に生き物を含めた物体を保存しておくことができるため、すでにヤーンマイトは確保済みだ。
 あとは、ヤーンマイトが住んでいたダンジョンの環境に合わせる形で、木魔法を使って木々が多い茂る場所を作ってやり、ディメンジョンルームからヤーンマイトを取り出してその場に放し飼いにするだけである。


 最後の野菜は、お茶の葉と同じく畑の畝を作って錬金術で種に変換して木魔法で育てるだけなので、すぐにできあがった。


「よし、いっちょ完了!」

「……」


 何もなかった場所にいきなり畑や木々が出現したことに、レリアンヌやイーシャの大人たちと他の子どもたちも唖然としている。だが、すぐに子供たちが目の前で起こった光景に騒ぎ出し、それをレリアンヌが静かにしなさいと窘める。俺は全員が落ち着くのを待って、改めて彼女らの意志を聞くことにした。


「全員注目! いいか、改めて聞くがどうする? もしやりたくないというのならば無理強いはしない。だが、俺の故郷の言葉に“働かざる者、食うべからず”という言葉がある。働かない人間に、生きるための行為である食べる資格は与えられないという意味の言葉だ。お前たちは生きている。であるならば、働かなければならない。生きるため、食べるために。さあ、選べ! 働いて生きるか、何もせずこのままひもじい思いをするか!!」


 そんなもの、答えは最初から決まっている。そう言わんばかりに、その場にいた子供たち全員が異口同音にこう言い放った。


『働く!!』


 食べるためには、働かなければならない。それはこの異世界でも同じ理らしい。そう思わせるほど子供たちの出した結論は、的を射ていたのであった。

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