ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
127話「料理のすゝめ」
「ルッツォ、料理の調理法がいくつあるか知っているか?」
屋敷の厨房へとやってきた俺は、料理人のルッツォに開口一番そう問い掛けた。ちなみに、俺がもらった屋敷で雇われている料理人はルッツォ一人なため、厨房の広さに対してかなりのスペースがある。
「二つでしょうか?」
「まあ、そう答えるだろうな。いや、別にこれはルッツォが悪いわけではないから問題ないぞ」
「はあ」
一体何を言っているのだろうという顔を浮かべながら、ルッツォが生返事をする。この世界の料理の技術が、前世の地球で言うところの中世ヨーロッパ程度かそれ以下の場合、主な調理法として広まっていたのはおそらく【焼き】と【煮る】の二つのみだ。
火で炙って焼くというのと煮え立ったお湯などで煮込むという二つだけで、他の二つに関してはあまり知れ渡ってはいないと予想を立てた。それが証拠に、今まで食べ物を提供する食事処や屋台を見ているが、大抵が先の二つの調理法を使ったものばかりだったのだ。
とまあ、以上の点から見てもやはりというべきか、この世界の料理の技術はそれほど高くなく、料理人といっても前世の地球のレベルで言えば、見習いとして料理を覚え始めた程度の技術しか持ち合わせていないのが一般的なのではないかと推察したのである。
「とりあえず、さっき出した料理をどう作ったのか俺に見せてくれ」
「畏まりました」
ルッツォの腕前……というよりも、この世界の料理人の腕を確かめるべく、一度俺に出したものと同じ料理を作ってもらうことにした。俺に見られているということで、少し緊張した手つきで調理を開始したが、さすがの料理人だけあって料理が完成する終盤では料理に集中していた。
「これで完成です」
「うん、わかった。じゃあ、次は俺が調理するから、自分とどこが違うのか見ていてくれ」
「はい」
まずは、調理する食材からだ。ルッツォは何も考えずに食糧庫にあったものをそのまま使用していたが、まず調理する食材に泥や虫などが付いている可能性を鑑みて、野菜を水で適度に洗い流す。
そして、泥や虫が付いていないことを確認すると、鍋に水を入れそれを火にかける。沸騰するまで食材の下処理を行い、食べやすい大きさに切っていく。沸騰したら少し火を弱めて火が通りにくいものから順番に処理をした食材を入れじっくりと煮込んでいく。
途中灰汁などが出てくるのをこまめに掬い取り、弱火でさらに煮込んでいく。火が通ったら塩と胡椒で味を整え、そのままひと煮立ちさせれば完成である。
「これで完成だ。試してみろ」
「……っ!? お、美味しいです。私の作ったものとは、比べ物になりません」
味見用の小皿に出来上がった野菜スープを入れてルッツォに味見させると、目を見開き素直な感想を口にする。自分が作った料理との差に驚くと同時に、自らの未熟さを痛感したのか、悔しそうな表情を浮かべる。
「お前はただ知らなかっただけだ。これからは俺のもとで料理を学び、少なくとも俺と同じくらいの料理人になってもらう」
「私がローランド様と同じくらいになれますかね?」
「なれるさ。だって、俺は料理はできるが、料理人じゃないからな」
「え……」
俺の何気なくはなった一言が、ルッツォをさらに驚愕させたようだ。これだけの料理を作っておきながら、料理人ではないと主張する俺よりも劣っている自分は一体なんなんだと考えているのだろう。顔を俯かせたまま、暗い表情を浮かべている。
「とにかく、さっきの料理のやり方はもう覚えたな。ひとまずもう昼時だから、他の使用人の料理は俺が作るから、お前はさっきの野菜スープを同じように作ってみろ」
「ローランド様! そ、それはいくらなんでも……」
「いいか、俺は貴族じゃないから面子だのなんだのは気にしなくていい。それに、今のお前じゃ俺を満足させることができる料理は作れないと思うぞ?」
「そ、それは……」
「まあ、それはおいおい教えていくから今日はその野菜スープを作ってくれ。それと、これは今後の練習用に必要な食材の代金だ。受け取っておけ」
俺はそう言うと、ストレージから大銀貨十枚ほどが入った皮袋をルッツォに渡した。中身を見たルッツォが慌てて返そうとするが、俺は頑なに受け取りを拒否し、結局それを見ていたソバスが代金を預かるという形で決着がついた。
「ソバス、俺はこれから使用人たちの料理を作るから、お前はこの屋敷にいる全使用人を食堂に集めておいてくれ。もちろん、椅子に座って待つように」
「ローランド様、それは……いえ、畏まりました」
俺の指示に反論しようとしたソバスだったが、俺の意志が変わらないことを悟ったのか、素直に指示に従い厨房を出ていった。
それから、現在雇っている使用人計十一人の昼食を作るべく、俺は調理を始めた。ちなみに使用人の振り分けは、ソバス、ルッツォの二人に三十代後半のミーアという名のメイド長と、その下に正規のメイドが五人、そしてメイド見習いが二人に庭師が一人で合計十一人である。
十一人分の料理といっても、それほど凝った料理を出すわけではないため、それほど手間ではない。本来であれば、前世の地球の料理を出すことはリスクを伴う可能性があるので、俺一人で行動している時であれば料理を作るのに問題があったが、ここの使用人たちとはそれなりの付き合いになりそうだと感じたため、俺の料理を食わせることにしたのである。
まあ、食わせると言ってもそれほど料理の腕に自信があるわけではないのだが、この世界での経験と前世の頃によく自炊していた経験を合わせれば、人様に出しても問題ないくらいのものは作れるだろう。
そこから手早く俺を含めた十二人前の料理を作り、途中でルッツォにアドバイスしながら料理を完成させた。ちなみに料理の献立は、特製ドレッシング野菜サラダに自家製の白いパン、サッピーの焼き鳥タルタルソース添えとルッツォが作った野菜スープの四品である。
完成した料理を食堂に運び込むと、無駄に長い食堂のテーブルに座っていたメイドたちが一斉に立ち上がろうとしたので、全員着席するよう促す。ソバスとメイド長が真っ先に手伝おうとしたが、有無を言わせず拒否をしルッツォと二人で料理を配膳していく。
「……」
自分の主人が自ら配膳してくれているということの後ろめたさと、手伝いたいというなんとも言えない感情が食堂を包み込む中、すべての料理の配膳が完了する。
「では、諸君。今日は俺と諸君らとの初めての顔合わせということで、拙いながらも俺が料理を作った。お近づきの印として受け取ってほしい。あと、パンはおかわりしてもいいが、他の料理のおかわりはないのでそのつもりで。では、食べてくれ」
言いたいことだけ言うと、俺はそのまま自分が作った料理を食べ始める。主人と食事を共にするという通常ではあり得ない事態に、どう対処していいのかわからないメイドたちを見かねたソバスとメイド長のミーアが、率先して料理を食べ始める。
「んっ、美味しい」
「こ、これは……とても美味しいです」
それを見た他の使用人たちも、出された食事に手を付け始める。最初は戸惑っていた使用人たちだったが、漂ってくる料理のいい香りに根負けし、全員が食べ始めたのだ。
しかし、食べ始めた途端出された料理のあまりの美味しさに手が止まらなくなり、気付けばほぼ全員が料理を完食してしまっていた。
「うん? あれ? もう、食べてしまったのか?」
「ローランド様、申し訳ございません。あまりの美味しさに、手が止まらなくなりまして……」
「私もです。メイド長の大役を預かる身としてまだまだでございます」
「構わないさ。ところで、パンのおかわりが欲しい人はいないか?」
俺の問いに、全員が頷いたのは言うまでもない。それから、あらかじめ作っておいたいちごジャムをパンに塗って渡してやると、ものすごい勢いで食べ始めた。特に女性陣の食い付きが凄まじく、やはり甘いものに目がないのだなと改めて痛感させられる。
親睦を込めた昼食は見事に成功したが、このあと食べすぎで動けない使用人が続出してしまい、しばらく家の仕事がストップしてしまった。次から甘い食べ物を出す時は注意しておこう。
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