ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

121話「マヨラーとケチャラーの戦い?」



 「さあ、始まりましたぁー! ローランドのイケイケ三分間クッキングのお時間です!!」


 相変わらず訳のわからない料理番組のコーナーが始まったが、今回は料理というよりもどちらかというと調味料に近いかもしれない。


 王都の宿からオラルガンドの自宅へと瞬間移動した俺は、さっそくキッチンで目的のものを作るべく腕まくりと手洗いを済ませる。今回は王都の市場でお酢が手に入ったので、あの伝説の日本人には必要不可欠なものといっても過言ではない調味料であるマヨネーズとケチャップを作ることにしたのである。


 作るといっても、使用する材料も作り方もそれほど難しいものではない。塩と胡椒とお酢は両方同じで、その他の違いがあるとすればマヨネーズには卵がケチャップにはトマトが必要だということくらいだ。


 特に気負うことなく、簡単な作業でマヨネーズとケチャップが完成したので、さっそく野菜スティックを作って試食してみる。


「流石に、野菜スティックにケチャップは合わんか」


 野菜スティックに使用する調味料としてマヨネーズは定番なため、味は想像した通りになったが、ケチャップは別の料理で試すべきだったと後悔した。


 次にケチャップに合う料理を考えた時、卵を使った目玉焼きやスクランブルエッグを思いついたので、速攻で作りケチャップで食べてみた。


「うん、これは合うな」


 スクランブルエッグはともかく、目玉焼きにかける調味料で最強はこれだという白熱した議論を、当時学生だった頃の友人たちが話していたが、マヨネーズ・ケチャップともに甲乙つけがたい。


 その友人たちは典型的なマヨラーとケチャラーであり、ご飯にかける飯の友として各々マヨネーズとケチャップを選択するほどの猛者であった。


 当然の帰結といえばそうなのだが、結局二人の議論は平行線を辿り、学校を卒業した後で定期的に開催された同窓会でも同じ議論を繰り広げ続け、俺がその生涯に幕を閉じるまでに決着がつくことはなかったのだ。


 とどのつまり、目玉焼きという料理にかける調味料で最高のものは何かという議題に対しての最適解は“それぞれが一番おいしいと思うものをかけるべき”ということなのだろうと、今の俺はそう考えている。


 ちなみに、俺は塩胡椒でも醤油でもソースでも、もちろんマヨネーズでもケチャップでもなんでもかけて食べることができるため、友人からは“この蝙蝠野郎が!”と言われてしまい、その腹いせに友人にアイアンクローをかましたのは、今となってはいい思い出である。


「ああ、あと大事なのはこれだよなー」


 俺がいつぞやに作った料理である【たまごサンド】についても、これで本来のたまごサンドを再現できるようになったので、さっそく作ってみた。若干マヨネーズを多めにしてしまったため、たまごサンドの中の具がタルタルソースのようになってしまい、俺の意図しないところで【タルタルサンド】という新しい料理が完成してしまった。……まあ、美味かったからいいけどな。


 とりあえず、マヨネーズ&ケチャップの味の確認についてはこれくらいでいいと思ったが、調味料の出来を確かめるための食材に野菜や卵しか使っていないことに気付き、やはりあの料理を作らなければならないことに思い至る。


「でも、あれを作るためには植物性食物油が必要になってくるんだよなー」


 俺が次に欲している物のリストに新たに【植物性食物油】が追加された。具体的なものとしては、菜種油が代表的だろうか。この世界で菜種が存在しているのかは別として、いずれは手に入れてやると心に決める俺であった。もちろん、お米(食べるため)と大豆(醤油と味噌のため)もな。


 今ある食材を使って、マヨネーズとケチャップが必要な料理を作り上げていく。さらに卵を使って作ったプレーンオムレツに、上質な小麦から小麦粉を生成し作り上げたピザなども作り上げた。特にピザができたことは上々で、これで日々の食生活も豊かになるというものだ。


 それから、もはやマヨネーズやケチャップなど関係なく脱線に脱線を重ね、王都で手に入れたトウモロコシを使った焼きトウモロコシ(醤油なしバージョン)を作ったり、ブロッコリーを湯がいてマヨネーズを絡めたものを食べたり、今まで手に入れた果物を使った果物盛り合わせを作っているときに、いちごを見てショートケーキを作りたいから牛乳も必要だなということで、新たに欲しいものリストに牛乳が追加されたりといろいろなものを作りまくった。


 気付けば、空は茜色に染まっており、慌ててキッチンを片付け王都の宿に戻った。戻ってすぐに宿の人間が夕食ができたことを告げに来たので、もう少し遅れれば危ないところだったかもしれない。


 兎にも角にも、お酢が手に入ったことで前世の地球で使っていた調味料であるマヨネーズとケチャップを再現することに成功し、料理の幅が格段に増えたのであった。




      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 翌日、再びオラルガンドの自宅に戻り、さらに追加で【うどん】・【パスタ】にラーメン……はまだ材料が足りないからできなかったが、うどんとパスタが完成する。味も申し分なく、うどんは魚の出汁が欲しくなり、パスタはミートソースを作ることで【ミートソーススパゲティ】が完成する。他にもにんにくを使った【ペペロンチーノ】や野菜をふんだんに使った【スパゲッティ風焼きそば】という創作料理みたいなものも作ってみた。


「ふう、余は満足じゃ……」


 十二歳の体には不釣り合いな膨れ上がったお腹を叩くと、しばらく美味しいものを食べた満足感に浸る。いつの間にか、旅の目的が観光から美味しい物を追い求めるグルメ旅に変わりつつあるが、それはそれとして今この状況を楽しむことに全力を注ぐ。


 しばらくして、ぽっこりと膨らんだお腹が引っ込み始めてきたのを見計らって、散らかしたキッチンを片付けた後、再び王都の宿に戻ってきた。まだまだ王都の散策が終わっていないため、ある程度地形を把握するまでしばらくは王都を観光するというのもありかもしれない。国王への謁見は、俺にとってはもののついででしかないのである。


「ってか、もう国王に謁見するの面倒臭くなってきたんだが……」


 今回の主目的であるはずだった国王への謁見がいつの間にやら副目的になりつつある中、更なる発見を求めて王都を散策する。


「お姉ちゃん、お腹空いたよ……」

「我慢しなさい。食べる物なんてもうないんだから」


 人通りの少ない場所へとやってきたその時、路地の片隅で身を寄せ合う幼い姉弟がいた。昨日出会った少年もみすぼらしかったが、この姉弟もボロボロの服を着ている。二人とも俺よりも年下くらいで、姉は九歳で弟は六歳といったところだろうか。


「こんなところで何をしている?」

「お兄ちゃん誰?」

「ダメよマーク! 知らない人に話し掛けては……」

「何? お前、マークという名前なのか?」

「う、うん。そうだよ」

「……」


 俺の弟と同じ名前か……決めた。助けましょう!! 一日一善プロジェクト第二弾ってやつだ。……文句は受け付けないぞ?


 俺はストレージの中から、昨日と今日作った料理を姉弟に与えた。最初は警戒していた姉弟も、目の前でいい匂いのする料理の誘惑には勝てず、俺の手から料理を受け取り無心になってがっついている。


 一通り満足したのか、満足そうな顔を二人が浮かべたところで、昨日の少年に引き続き俺は二人に中銀貨一枚を与える。突然差し出された大金に姉が断っていたが、無理矢理に彼女の手に中銀貨を握らせ、俺はその場を後にした。


「あ、ありがとうございました!」

「ありがとう」

「気にするな」


 そう言いつつ、俺は掏りの少年と同じように肩口から後ろ手を振りながら、姉弟たちを別れた。それにしても、この王都は大都市だけあって孤児の数が多いようで、掏りの少年や先ほどの姉弟のようにボロボロの服を着た子供たちが人気のない場所でその場から動かずにいるのを何人か見かけた。


 身寄りのない子供の面倒を見る孤児院などがあるはずなのだが、どうやらすべての孤児を受け入れるほど国からの支援が行き届いていないらしく、孤児たちが王都の路上で生活しているのが現状であるようだ。


「子供は国の宝だというのに……ああ、そういえば俺もまだ子供だったな」


 自分がまだ十二歳だということを忘れていたことに気付き、俺は苦笑いを浮かべる。孤児の面倒を見るつもりはないが、このまま黙って見ているというのも何となく薄情な気がしなくもないため、何か俺にしかできない形での支援をするべきだろうかと考えてしまう。


「いや、それはそれでとても面倒臭いことになりそうだからな……だがしかしだ」


 元日本人としての気質がそうさせるのか、はたまた俺個人としての感情なのかはわからないが、ここで考えても出ない答えに歯痒い思いをしながらも、俺は今日の王都の散策を終えた。

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