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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

120話「王都散策……国王への謁見? 何それ美味しいの?」



「ふうー、今回もジュンサーさん方式だったか……」


 先ほどの宿での出来事を振り返りながら、小さくため息を吐く。とりあえず、今はそんなことは気にせずせっかくの王都に来たということで、今後の予定を組み立てていこうと思う。


 まずは王都観光と称して、色んな場所を散策してみようと考えている。この王都でしか手に入らない物や、ここでしか見られないものが絶対にあるはずなので、それを見てみたい。


 ……うん? 国王との謁見? 何それ美味しいの? そんな下らな……もとい、どうでもいいことなどさておいて、今は王都を観光することが第一優先である。それに、呼出状が届いてから王都に到着する平均日数は大体十日ほどであるらしいので、少なくともあと二、三日は遊んでいられるのだ。


「最初は目先の問題として、冒険者ギルドに行ってアレを確認しなければなるまい……まあ、十中八九あいつらがいるだろうがな」


 もはや俺の中で確定事項となっていることを念のために確認しようと思い、さっそく宿をあとにして冒険者ギルドに向かった。


 王都の冒険者ギルドもまたオラルガンドの冒険者ギルドに引けを取らないほど大きく、さすがはこの国一番の大都市にある冒険者ギルドだと感心する。


「うわー、天井が高いなー」


 あまりの壮観さに十二歳らしいリアクションを取ってしまう。……あれ? リアクション取っていいんだよな?


 とまあ、内装に関しての感想はまた後日ということで、さっそく例のアレを確認していこうじゃないか。


 横並びに複数の受付カウンターがある正面側に足を向け、受付にいた眼鏡を掛けた見覚えのある巨乳の女性に声を掛けた。


「やあ、たぶん合ってると思うんだが、メリアンかな?」


 最初はマリアンで次がミリアン。そして、オラルガンドではムリアンだったので、今回は当然メリアンになるはずなのだが……。


「あ、はい。私はメリアンですが、どこかでお会いしましたでしょうか?」

「やっぱりな。で、マミムの連中とはどんな関係だ?」

「マミムってなんです?」


 おっと、どうやら説明を省きすぎてしまったらしく、訳のわからないといった顔をメリアンが浮かべる。そりゃ、いきなりマだのミだのムだの言われてそれを理解しろという方が無理な話だ。


 俺はメリアンに今まで立ち寄ってきた冒険者ギルドの名物受付嬢の話をしてやり、その血縁者であろうメリアンがどういう関係者なのか聞きたいことを説明してやった。


「私はムリアンの父親の妹の旦那の姉の子供です」

「……それはもはや他人なんじゃないか?」

「そんなことありません。ちゃんとした親戚ですよ!」


 ムリアンから見て明らかな遠縁の親戚加減に、思わず口に出してしまったが、どうやら彼女にとっては大事なことだったようで、勢い良く抗議の声を上げた。まあ、俺にとっちゃどっちでもいいんだがな。


 とりあえず、眼鏡巨乳の受付嬢は確認が取れたので、もう一人の受付嬢についても聞いていく。ちなみに宿の方でのもう一人は、出会ってはいないが恐らく存在するだろう。たぶん、ノーサ辺りだろうな。


「ここにニコルかサコルはいないか?」

「いいえ、おりませんが」

「じゃあ……シが付く名前の受付嬢は何人いるんだ?」

「メリアン先輩、ちょっといいですか?」


 俺がそんなことを聞いていると、メリアンに話し掛けてきた。見た目はどこにでもいる普通の感じなのだが、俺の勘が普通じゃないと告げている。なんなのだこの感覚は?


「ああ、それなら向こうの棚にあったはずよ」

「ありがとうございます。さっそく探してみます」

「待ちなさいシコルル、リボンが乱れてるわよ」

「そっちかぁぁぁあーい!」


 俺の突っ込みに何事かと周囲の冒険者たちの視線が向くが、何もないと知るとその視線を元に戻す。……いかんいかん、いきなりの不意打ちに思わず叫んでしまった。


 とりあえず、この少女がもう一人の名物受付嬢であることは間違いないだろう。それにしてもシコルルか、確かにシが一個足りないととんでもないことになるから、これはこれで仕方のないことなのか?


 などと、俺が無駄な思考を巡らせている間にシコルルが自分の仕事に戻って行ってしまう。別段彼女に用はないが、ちょっと話してみたかった気もしなくはない。


「それで、冒険者ギルドに何か用ですか?」

「用といえば用だが、一応俺の目的は今この瞬間達成された」

「はあ」

「いや待て、まだあと一人濃い奴が残っていたな……解体場はどっちだ?」

「おい、メリアンちょっといいか?」

「出たぁぁぁああああ!! ハゲ坊主だぁぁぁぁあああああ!!」


 そこに現れたのは、俺が会いたかったもう一人の人物である。その頭頂部は、髪の毛一本生え揃っておらず、紛うことなきハゲがそこにいた。だが、彼らは決まってこのセリフを口にする。


「誰がハゲ坊主だ! これは剃ってんだよ!!」


 彼らの中では、そういうことになっているらしい。とにかくこれで俺が冒険者ギルドで果たしたかった目的はすべて達成できたといっても過言ではない。とりあえず、最後にこのハゲの名前を当てておこうか。


「うーん……」

「な、なんだ坊主? どうかしたのか?」

「えーっと……あっ、ツルルドだ!!」

「うん? なんで俺の名前を知ってるんだ」


 当たっちゃったよ。というか、今までの俺のこの系統の名前当てクイズの正解率妙に高くないか? まあ、そんなことはどうでもいいことではあるがな。


 これで冒険者ギルドでの目的は達成したので、不思議な顔でこちらを見ているメリアンとツルルドに「また来る」とだけ伝え、俺は冒険者ギルドを後にした。


 ギルドを後にしたあと、俺が向かった先は市場だ。この国一番である都市の市場に、どんな品が売られているのか興味があったのだ。


「お米~大豆~お酢~、お米~大豆~お酢~」


 新しい場所へとやって来たことで、まだ入手していない物が手に入るかもしれないという期待感から、鼻歌混じりに市場を散策してしまう。その内容がもろに食材に偏っている気がしなくもないが、俺にとってこの三つは最優先で手に入れたい食材なため、それが口を突いて出るのは致し方ないことなのだ。もう一度言うが、致し方ないことなのである!


 米は言わずもがな、日本人のソウルフードであり、日本人に生まれたからには米という存在は切っても切れない物なのだ。大豆は、味噌や醤油などの日本を代表する調味料を作るのに必要であり、これを手に入れられれば和食のラインナップがかなり増えることになる。そして、最後のお酢は以前俺が作った【たまごサンド】に使われるであろうマヨネーズと、トマトを原材料とする調味料であるケチャップを作るのに必要な物だ。


 以前のたまごサンドではマヨネーズは入れなかったので、もしかしたらその状況を見ていた日本出身の第三者がいた場合「マヨネーズは?」と疑問に思っただろうが、マヨネーズを作るためにはお酢が必要だったため、作りたくても作れなかったのである。もちろんお酢なしでも作ろうと思えば作れただろうが、味の方は日本産のものと比べるとかなり落ちてしまうと考えたため、敢えて作らなかったと言い訳しておく。


 兎にも角にも、王都の市場にやってきた目的である新しい物を手に入れるべく、露店を見て回る。さすがに王都の市場だけあって店の数も取り扱っている品数も多く、目移りしてしまい、ついつい大人買いのさらに上貴族買いをしてしまう。まあ、元貴族だし間違ってはいないのか?


 出店されている店の割合としては、食べ物や料理を扱う飲食系が四割、食材を扱う店が三割、装飾品を扱う店が二割で残り一割がその他である。食材的に新たに手に入れたのは、きゅうり・トウモロコシ・ブロッコリー・みかん・いちご・ぶどうが売られていたので、すべて買い占めた。あまりの根こそぎ加減に食材を販売していた店の人が唖然としていたが、そんなことは俺の知ったことではない。


 次に訪れたのは装飾品を取り扱う店で、これについては身に着けるために購入するというよりも、今後グレッグ商会で取り扱う装飾品を増やす際の参考にする部分が大きい。


 店員に王都での流行りを聞き、大体の内容を把握したのでそのお礼としていくつかの装飾品をこれまた大人買いした。大体が女性用なので、今度オラルガンドに戻った時のお土産として配ることにしよう。


「美味そうだな。一つくれ」

「あいよ、小銅貨三枚ね」


 美味しそうな肉の匂いを漂わせていたので、試しに一つ買って食べてみることにした。何かの肉が串に刺さった所謂肉串というやつで、特に珍しいものではないが、肉は柔らかく美味かった。


「っ! おい、お前、何のつもりだ?」

「ふぐっ、ふぁにふぉふる」


 俺が肉串の味を楽しんでいたその時、突如として俺の懐に伸びてくる手があった。それを瞬時に察知したので、その手を取って掴み反対の手で相手の頬を鷲掴みにした。どうやら頬を掴んでいるため、何を言っているのかわからなかったが、おそらく「何をする」と言っているということだけは何となくわかった。


 これではまともに会話ができないので、仕方なく離してやると、逃げようとしたので襟首を掴んで逃げられないようにした。


「な、何するんだ! 離せ離せよ!!」

「何をするはこっちの台詞なんだがな……。お前、俺から掏ろうとしただろう?」

「な、なんのことだ? 俺はたまたま手を上げたら、あんたがそこにいただけだ」


 俺が追及すると、目をこれでもかと泳がせながら動揺しているのが手に取るようにわかる。相手は俺よりもさらに歳が下の男の子で、見た目的には九歳かそこらだろう。


 日々の生活にも困っているのか、服はボロボロでまともに風呂にも入っていないのか、髪の毛はぼさぼさで若干きつめの臭いも漂ってきている。


「おい」

「な、なんだよ! あぁ? な、なんだこれは!?」


 俺はストレージから中銀貨一枚を取り出すと、それを自分の右手の平に乗せ、少年の手に重ね合わせた瞬間に中銀貨を彼の手の平に残すように渡した。いきなり自分の手の平に中銀貨という大金が現れたことに驚いていたが、それを寄こした犯人が俺だと理解すると警戒の色を浮かべながら怪訝な顔を向けてくる。


 一日の食費が大銅貨三枚の家庭が一般的とされているこの国の人間にとって、中銀貨一枚は約一月分の食費に相当する。給金として支払われる以外に見ることはほとんどない中銀貨を、歳が自分とあまり変わらない身も知らぬ少年である俺に手渡されたことに戸惑っているようだ。


「次はもっと上手くやることだな。じゃあな」

「あ、お、おい!」


 俺は少年の呼びかけに答えることなく、右手を肩口から後ろ手に振りながら踵を返し、賑わう雑踏へと消えていった。少年もそれ以上関わりたくないのか、追いかけてはこなかった。


 何故少年に中銀貨一枚を渡したのか……特に明確な理由はないが、なんとなくそうしたい気分になったからだ。……そう、あれだよあれ。ほら、一日一善ってやつだよ! 今日はまだ善い行いをやってなかったから、あの子に中銀貨一枚を渡して今日やってない善行の代わりにしたんだ。……なに、言い訳が苦しい? やかましいわ! なんでもいいだろ!! 納得しろ!!


 それから、さらに市場を見て回ってみたが、目下捜索中のお米・大豆・お酢のうち、お酢を見つけることができたのであった。ほら、やっぱ一日一善の御利益があったじゃないか! 参ったか!!


 お酢を売っていた店で調味料や香辛料の類いも売られていたので、知らないものから知っているものまで一通り購入した。……ん? お酢はどうだって? もちろん根こそぎ買い占めましたとも。またドン引きされたけどな。


 とりあえず、三つのうち一つが見つかったため、今日の散策はこれくらいにして、一度宿へと戻ることにしたのだった。余談だが、宿に戻る道中で質のいい小麦が売っていたので、それも忘れずに買ったことも付け加えておく。

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