ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

119話「王都ティタンザニア」



 迷宮都市オラルガンドを出立して四日後、ようやく王都ティタンザニアに到着した。本来であれば、これほど時間が掛かるはずはなかったのだが、度重なるテンプレに見舞われた結果、四日という長丁場になってしまった。


 特に助けた女性を誰か他の人間に押し付け……もとい、任せるという作業に時間を割かれてしまい、本当に苦労した。そもそも都合のいい一行が見つかるということ自体が稀であり、仮に見つかったとしてもこちらの頼みを聞いてくれるとは限らないのだ。


 その作業を繰り返すことになってしまったことで、本気モードで一日と掛からないはずの道のりが、四日という日数になってしまった。しかし、それでも常識的な観点から見れば、十二分に早い日数であることは間違いない。


 シェルズ王国で最も栄えている都市である王都ティタンザニアは、人口が百万人を超える大都市であり、上空から俯瞰で見ると某国の国防総省のように五角形の形をしている。


 ありとあらゆる品が国内外問わず集まり、他国からの観光客も多くまさに都会という言葉が良く似合う場所である。しかしながら、人口が多い分治安が良いところと悪いところの線引きがはっきりと明確化されており、知らないうちに治安の悪い場所へ足を踏み入れてしまったがために犯罪に巻き込まれることも珍しくはない。


 そんな巨大な人口を、魔物などの外敵から守るために建設されたこれまた巨大な外壁は、優に十メートルは超えており、まさに鉄壁の様相を呈している。


 そして、そんな王都に入るにはそれなりに厳しい審査を受けなければならず、現在俺は某夢の国のアトラクションに並ぶ客の気分で、今か今かと自分の番がくるのを待っていた。


「次の者」


 長蛇の列に並び始めて二時間後、ようやく自分の番がきたらしく声を掛けられた。重厚な鎧に身を包んだ門兵が身分証の提示を求めてきたので、ギルドカードを提示する。


「っ!? まさかお前のような子供がAランク冒険者だと? こんな偽のギルドカードをどこで手に入れたんだ?」


 まあ、そりゃあ見た目が十二歳の子供がいきなりAランクのギルドカードを提示してきたら嘘だと思うよなー。俺が仮に門兵の立場でも、同じように思うわ。だが、残念なことに今回は本物のAランク冒険者なのだよ門兵くん。


「ギルドカードは、冒険者ギルド並びに商業ギルドが厳正に管理をする偽造不可能な代物だ。だからこそ、各国は身分証としてギルドカードを提示することが認めている。……違うか?」

「た、確かにそうだ」

「なら、そのギルドカードが偽物でないことぐらい見ればわかるはずだ。それとも、この国の王都の兵士はそんな常識も知らないほどの程度の低い連中なのか?」

「き、貴様っ!」

「……お前じゃ話にならん。責任者を出せ」


 高圧的な態度にムッときた俺は、威圧のスキルを発動させそれを門兵にぶつける。いくら屈強な兵士であろうとも、俺の威圧をまともに食らって立っていられるはずもなく、片膝を付いて動けなくなる。


「それくらいにしてもらおうか」


 俺がさらに威圧を込めようとしたその時、奥から責任者らしき三十代くらいの男が出てくる。この状況でも冷静に対処しているところを見るに、かなり場慣れしたベテランの兵士のようだ。


 とりあえず、彼の指示に従い威圧を解く。すると、運動をしていないのにも関わらず威圧を掛けられた兵士から大量の汗が流れ落ちる。


「この状況の説明が必要か?」

「いや、必要ない。大方そこの馬鹿がまたよからぬことを仕出かしたのだろう」


 どうやら、俺に突っかかってきた兵士は常習的にこのようなことをしているらしい。なんでそんな奴が、王都の顔である門兵をやってるんだ? 俺の顔色を見て何を考えているか察した責任者が、説明してくれた。


「こいつの家は貴族の出でな、散々甘やかされて育ってきたらしく、家の者に鍛え直してほしいと頼まれる形でこの仕事をやらされているんだ。だが、長年染みついた性根ってやつは簡単に直るもんじゃない。俺も何度も言い聞かせているんだが、俺の目を盗んではこんな下らないことばかりを仕出かしてるんだ」


 そう言い終わると、まるで腫れ物に触るかのようなため息を吐く。なるほど、貴族の人間だから首にしたり他の部署に左遷したりすることもできず、かといって何もさせないというわけにもいかないため、簡単な仕事を任せているがこういった問題ばかりを起こす人間ということか。


「まあ、事情は大体わかった。で、もちろん通してくれるんだろ?」

「ああ、それについては問題ない。ギルドカードも確認したが、間違いなく本物だ」


 責任者の男に改めてギルドカードを確認してもらったが、何の問題もなかったため、そのまま通行の許可をくれた。だが、今回の一件であの兵士が反省するとは思えないため、一応どこの誰か聞いておくことにした。


「おい、お前どこの貴族家の者だ? 名前を聞いておこう。あとで抗議することも視野に入れなければならないからな」

「……」


 俺の言葉にささやかな抵抗を見せているのか、返事がない。まあ、別にお前じゃなくても聞く相手はもう一人いるんだがな。


「どこの家の者だ?」

「メロディナンド伯爵家の三男坊だ。名前はミカエル・メロディナンド」

「っ!?」


 俺の問い掛けに、責任者の男が淀みなく答えたのを聞いたミカエルが、驚愕の表情を浮かべる。おそらく教えないと思っていたのだろう。


 門兵というのは、街や都市にとって顔役という役目を担っており、門兵の素行が悪ければその街や都市全体がそんな土地柄なのかと思われる可能性がある。それ故に、門兵というのはできるだけ真面目で模範的な限られた人間にしかなれない役職であるはずなのだ。


 門兵に粗相があれば仮にその相手が王族や貴族であった場合、外交問題となる可能性もあり、決して軽率な行いを取ってはならないのである。最悪の場合、粗相をした兵士は極刑に処せられることもあるため、たかが門兵の仕事と侮ってはならないのだ。


「そうか、抗議するかは別として顔と名前は覚えたからな。ミカエル・メロディナンド」

「ちなみにだが、俺はこの王都の門前警備隊の隊長をしているロッゾだ。何かあれば、連絡を寄こしてくれ」

「わかった。ああ、そうそう、ついでにどこかおすすめの宿を聞いていいか?」


 俺の問いに苦笑いを浮かべながら、ロッゾが宿を教えてくれた。もうここには用がないので、門を潜りようやく俺は王都へと入ることができたのであった。


 王都に入ると、まず目に飛び込んできたのは巨人族でも余裕で通れそうな幅広い大通りだ。大きい馬車が数台並んでも余裕ですれ違うことができるくらいの大通りには、多くの人々が行き交っており、王都に相応しい人通りだ。王都の人の多さに感心していると、そこであることを思い出し歩みを止めた。


「待てよ、新しい宿ということは……やっぱあれだよな?」


 今回で四回目の宿ということでもはや確実なのはわかっているが、それでも普通の宿だという期待が強くなってしまう。


「とりあえず、行ってみるしかないな!」


 ここで立ち止まっていても何の進展もないため、覚悟を決めてロッゾがすすめてくれた宿へと向かうことにした。


 十数分後に到着した宿は【旅人の止まり木】という名で、オラルガンドの宿とそれほど変わった点はない。警戒しながら中に入ると、そこにいたのは妙齢の女性だった。


「いらっしゃいませ! 宿泊ですか? それとも食事ですか?」

「宿泊で頼む。とりあえず、一人部屋を食事付き五日分で」

「わかりました。それでは中銀貨一枚と小銀貨五枚になります」


 ということは、食事付き一泊で小銀貨三枚か……さすがに王都だけあって料金も割高だな。当然値切る必要もないので、言われた金額を払い鍵を受け取る。


「新しいお客さんかい?」

「ああ、女将さん。はい、新規のお客さんです」

「ですよねー」


 そこにいたのは、見覚えのある中年美女性だった。豊満な肉体と魅力的な色香を持ち合わせたその姿は、もはや見覚えしかない。


「それで、あんたは何ーナさんなんだ? ノサーナさんか?」

「坊や、なんであたしの名前を知ってるんだい?」

「やっぱりかい!」


 どうやら、この宿も某アニメに登場する女性警察官方式が取られているようだ。とりあえず、お決まりなので言っておく。……うん、知ってた。


 ひとまず、部屋を確認するため、二人と別れて二階にある自分の部屋に向かうことにしたのであった。この調子じゃ、冒険者ギルドも……いや、もはや何も言うまい。

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