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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

118話「王都へ行こうとしたが、予想通りテンプレが襲ってきた」



 ぬいぐるみと木工人形の騒動から数日後、来てほしくないものが到着した。王都からの呼出状である。


 朝目を覚ますと、領主からの使いの者がやってきて急遽呼び出されたと思ったら、呼出状を差し出されたのである。


「というわけで、ローランド君。君には王都に向かってもらいたい」

「仕方ない。すぐに準備をして向かうとしよう」


 それで領主とは簡単な挨拶を済ませ、すぐに王都に旅立つ準備を行う。だが基本的に旅支度はあまり必要ない。


 何故なら、夜になったら瞬間移動でオラルガンドの自宅に戻ってくればいいからだ。旅の準備よりも、やっておかねばならないのは、俺が王都に旅立っている間のグレッグ商会に納品する商品をどうするかだ。


 一応だが、グレッグ商会に納品している商品については一定の数しか納品しておらず、余った分はストレージの肥やしになっており、その数はすでに数十万という馬鹿げた数字にまで膨れ上がっている。だから、それをすべてグレッグ商会に納品してしまおうと考えている。


 それに加え、商会としての規模が大きくなるにつれて何らかのトラブルに巻き込まれる可能性を考慮し、警備ゴーレムの数を増やしておくことも考えねばならない。


 ちなみにオラルガンドから王都までの距離は馬車で十日前後で、冒険者が身体強化で本気で走れば七、八日で着くらしい。


「という訳だから、留守を頼んだぞ」

「わかりました坊っちゃん。任せてください!」


 グレッグに挨拶をし、グレッグ商会をあとにする。次に冒険者ギルドと商業ギルドに赴き、王都に呼び出された旨を伝え、今日にもオラルガンドを出立すると告げた。両ギルドのギルドマスターとも快く送り出してくれた。


 各方面への挨拶回りを済ませ、いよいよ王都に向けて出発するとなったその時、少し困った事案が発生してしまった。


「ローランド様、私が王都へご案内いたします」

「貴様がどうしてもというのなら、案内してやらんでもない」


 どこからか噂を聞きつけてきたのか、それともただただ偶然なのかはわからないが、この絶妙なタイミングでファーレンとそのお供のくっころさんが訪ねてきたのだ。俺が王都へと旅立つことを告げると、自分が案内役を買って出ると言い出し始めたのである。


 これがなんの能力もない人間であれば、案内役がいることは心強いとは思うが、俺には無用の長物でありはっきり言って邪魔以外の何物でもない。


 どういう風な断り方がベストなのだろうと頭の中で模索していると、さらに面倒事が襲ってきた。


「何してんだ師匠?」

「先生、おはようございます。あなたのメイリーンです」

「こんな朝に会うなんて珍しいわね」

「何かあったんですか?」


 そこに現れたのは、ギルムザック以下三名のいつものメンバーだった。俺が何か言い出す前にファーレンが俺が王都へ旅立つことを伝えてしまい、水を得た魚のように「俺たちもついていく」と囀り始めたのだ。


 ファーレンだけでも厄介なのに、ここにギルムザック達が加わればどうなるのか想像に難くはないだろう。だが、ここで嬉しい誤算が起こった。ファーレン達とギルムザック達でどっちが俺を王都へ案内するか揉め始めたのである。


 まるで漫画やアニメのように足音を立てずに抜き足差し足でその場を離れ、速攻でオラルガンドの門へと向かった。これ以上ここに留まっていては、面倒だと判断したからである。


 すぐに門で手続きを済ませ、オラルガンドを脱出する。まるで悪人のような気分だが、別段犯罪を犯したわけではない。面倒な連中から逃げているだけなのである。


「よし、ソッコーで帰ってくるぞ」


 独り言を一つ呟くと、俺は身体強化を発動させ街道を少しそれた人目に付きにくい場所をひた走る。以前にも増して強くなったパラメータにより、まるで新幹線のように周囲の背景を置き去りにしていく。


 しばらく王都に向けてその状態を続けていると、若い女性のような悲鳴が聞こえてきたので、そこへ急行してみるとそこにいたのは、先ほど悲鳴を上げた本人であろう若い女性と数人の男たちであった。


「や、やめてください!」

「もういい加減諦めろよ。こんなところに誰も助けに来やしないって」

「こいつはかなりの上玉だぜ。たっぷりと楽しめそうだ」


 そう言いながら、覆いかぶさろうとする男たちから逃れようと必死の抵抗を見せる女性だったが、男と女では力に差があるのは明白であるからして、いとも簡単に押さえつけられてしまう。


「いやぁー、離して! やめてぇー!!」


 男の手が彼女の服を破ろうとする直前、ごきりという音を立てながらあらぬ方向に曲がった。まあ、それをやったのは俺自身なのだがな。


「ぎゃあああー、な、なんだ!? 手が、俺の手がぁぁぁぁあああああ!!」

「だ、誰かいるのか! 出てきやがれ!!」


 仲間の一人の異変に気付き、誰かからの攻撃だとすぐに判断した男の一人が、声を張り上げる。そのリクエストにお応えしてお出まししたいところではあるが、王都に向かうという目的がある以上有象無象に構っている時間はない。


「【ウォームウォール】、【アイスミスト】」


 俺は以前ナタリーを助けるために使った魔法コンボを使って、すぐに悪漢たちを始末する。瞬く間に氷の彫像へと姿を変えた男たちを尻目に、未だに呆然としている女性に目を向ける。


 女性は二十代前半で、肩までの伸びた艶やかな栗毛と黄色い瞳を持ち、とても艶めかしい体つきをしていた。それこそ、男好きする体つきで、今回のような悪漢に襲われても仕方がないと言えるほどに……。


「あ、あのー?」

「面倒臭いから、ちょっと大人しくしててくれ」

「え? い、一体何を……って、きゃあっ!」


 俺は説明も自己紹介もありとあらゆるプロセスをガン無視して、彼女を抱き上げた。所謂一つのお姫様抱っこである。彼女の方が背が高かったため、他の人間の目から見れば若干不格好に映っているかもしれないが、ここは我慢して彼女を運ぶしかないだろう。


 そのままの状態で、人の気配のあるところにまで彼女を運んでいく、あまりのスピードに彼女が暴れまわった結果、彼女の丸みを帯びた大きな脂肪の塊を鷲掴みにするという案件が発生してしまった。


(まあ、これだけ暴れられたら落とさないように体を固定しないといけなかったからな。うん、仕方のないことだ)


 誰にともなく言い訳する俺だったが、十二歳のこの体は未だに目覚めていないため、彼女のそれを鷲掴みにしたところでそういった感情は一切起きることがない。精々、スライムを握りつぶしているのと何ら変わりなかったのである。


 そんな状況の中、ようやく人の気配がある場所へとたどり着くと、彼女をお姫様抱っこから解放する。人口ジェットコースターを体験していた彼女にとってはとても恐ろしいものだったらしく、その場にへたり込んでしまう。


 彼女の体力の回復を待っている時間が惜しいので、回復魔法を使って彼女の体力を回復させると、そのまま彼女の手を引っ張って前方に見える幌の付いた荷馬車へと近づいていく。


「ちょ、ちょっと坊や! いきなりなんなの!?」

「いいからついてこい」

「なんなのよ……もうっ」


 俺が聞く耳を持たないをわかったのだろう。文句を言いながらも、大人しくされるがままになっていた。……されるがままといっても、別にそういうことじゃないからな?


 荷馬車に到着すると、護衛たちが前方に立ち塞がったが、俺を見た護衛の一人が声を上げる。


「【魔族狩り】の英雄さんじゃないか!? どうしてここに?」

「まあ、いろいろあってな。ところで、ここの責任者は誰だ?」

「私です」


 荷馬車から出てきたのは、四十代くらいの男性だった。恐らく行商人で雰囲気的に温和そうだったので、この人に任せれば大丈夫だろうと思い、彼女を任せることにした。


「突然で申し訳ないのだが、何も聞かずにこの女性を最寄りの街まで連れて行ってやってくれないか?」

「いきなりそのようなことを申されましても……」

「その分礼は弾む。そうだな……これでどうだ?」


 そう言って俺が差し出したのは、かなりの膨らみを持った麻袋だった。突然渡された麻袋の中身を確認した男性の目の色が変わる。


「こ、ここ、これは!?」

「グレッグ商会で扱っている【魔石英のブレスレット】の大小と【ヘアピン】に【シュシュ】だ。この女性を最寄りの街に連れて行ってくれるなら、これを報酬として支払ってやろう。どうす――」

「連れて行きます! いや、連れて行かせてください!!」


 俺が言い終わる前に食い気味で返答する男性。どうやら、うちの商品もかなり有名になってきているらしいな。結構結構、コケコッ――やめておこう。


 これ以上関わり合いになると、タイムロスが生じてしまうため、報酬先払いで無理矢理麻袋を渡し、その場をあとにしようとしたのだが……。


「ま、待って! 待ってください!!」

「なんだ?」

「あ、ありがとうございました。あの、あなたのお名前を教えてくださいませんか?」

「名乗るほどのもんじゃないさ。あんたを助けたのも、たまたま目に付いただけだ。気にするな」


 それから、行商人の男性と護衛の冒険者たちに彼女に手を出すなとやんわりとした口調で言い含め、俺はその場を後にした。去り際に何か言いたそうな彼女だったが、これ以上は関わりたくないので、これでおさらばだ。……なに? もったいないだって? まだ目覚めていない俺にどうしろっていうんだ?


 いきなりのテンプレだったが、ある程度の予想は付いていたので、まだ想定の範囲内ではあった。だが、同じことが四回も起こるとはさすがの俺も思わなかったがな……。


 テンプレイベントを着実にこなしていき、俺が王都に到着したのはオラルガンドを立って四日後のことであった。

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