ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
115話「新しい商品を開発する」
「では、始めていこうか」
ナガルティーニャとの邂逅の翌日、俺は一人自宅で宣言する。今日は、グレッグ商会で新しく販売する予定の商品を開発することにした。開発といっても、どちらかといえば作製と言った方が正しい表現ではあるので、さっそく作業に取り掛かることとする。今回作製する商品が何かと言えば……。
「ぬいぐるみだな」
そう、あの“ぬいぐるみ”である。なぜそんなものをと思うかもしれないが、この世界には娯楽というものがとかく少ない。精々が王侯貴族などがよく利用する闘技場や劇場などがあるくらいで、前世の地球のように多種多様に富んだエンターテイメントがないのである。
そして、それは一般庶民にも同じことが言え、彼ら彼女らの娯楽らしい娯楽というと、誰かが喧嘩しているだのあるいは誰かが結婚しただのという揉め事を見物したり噂話をしたりする程度のものでしかない。
それに加え、この世界の住人は娯楽というものにお金を使うという価値観がなく、収入自体も少ないため、仕事で得られた収入はそのほとんどが貯蓄に回されているのが現状だ。
だからこそ、この世界で新たに娯楽というものを提供してやれば、それは新たにお金というものを使うことに繋がり、経済やその他の分野において目覚ましい発展を遂げる可能性を秘めている。
その最初の走りとして、俺が白羽の矢を立てたのが“ぬいぐるみ”である。その他の異世界ファンタジー小説では、リバーシや将棋などのボードゲーム系統の商品が登用されているが、それはおいおい作っていくとして、まずはぬいぐるみを作って世に広めるところから始めてみようと考えたのだ。
「ここをこうして……これはこうで……ここをこうこうこう!」
ぬいぐるみの材料は綿を使うのだが、この綿はダンジョンで入手したものだ。この数日の間にダンジョン攻略はかなり順調に進んでおり、現在は七十階層まで攻略が完了している。
ダンジョンの四十七階層にバスケットボールくらいの大きさの蚕のような見た目をした【ヤーンマイト】というモンスターがいる。四十七階層という深い階層にも関わらず、ヤーンマイトはこちらが何もしなければ攻撃してくることはないという珍しいモンスターなのだ。
その代わり、ヤーンマイトの生息する森周辺には、好戦的な蜂型や蟷螂型のモンスターが徘徊しており、まるでヤーンマイトを守るかのような行動を取っているのだ。そのヤーンマイトが吐き出す糸を紡いだものが、今回使うぬいぐるみの材料だったりする。
ぬいぐるみといってもその裁縫の技術は侮れないものがあり、なかなか思い通りの形にするのが大変だった。それでも、新たに進化したスキルの力によって思い通りのぬいぐるみが完成し、商品開発という名のぬいぐるみ作りに一区切りがつき、小休止を取ることにした。
できあがったぬいぐるみは、この世界のモンスターたちを可愛らしくデフォルメしたもので、スライムやゴブリンといったよく目にするモンスターもあれば、犬や猫などの動物系のぬいぐるみも作ってみた。
俺は大丈夫だが、この世界の人間にとってモンスターを忌み嫌う者も少なくないため、無害な動物もラインナップに入れておくことで、駄目だった時の布石としておくのだ。
表面にも綿を使用することでモフモフ感を加え、手触りを良くしてある。小さな子供のおもちゃから大人な女性が癒しのアイテムとして使うような女性層をターゲットにした販売戦略を考えている。
「ぬいぐるみと来れば、次はこれだな」
そう呟きながらストレージから取り出したのは、一本の太めの薪であった。その薪を風魔法を駆使して削り込んでいき、最終的にとある一匹のモンスターの姿となる。猪突猛進をその身で表現しているのではないかと思うほどの姿をしている猪型モンスター、ダッシュボアである。
俺が次に作製したもの……それは、フィギュアだ。フィギュアといっても、こちらの世界ではプラスチック製品やゴム製品を取り扱っているわけではないので、一本の薪から精巧な人形を作る木工人形というのが正しい表現だが、その精巧さは地球の技術にも引けを取らないほどだ。
こちらのフィギュアに関しては、子供用というよりも冒険者や大人向け……特に男性をターゲットにした商品にするため、敢えてリアルな造りを再現し精巧に作ってある。……大人向けで男性をターゲットにといっても、そういう意味じゃないからな?
さらにフィギュアを支えるための底板の裏部分に、モデルとなったモンスターの情報を軽く掲載しておくことで、ちょっとした標本のような役割を持たせてある。
例えば、ダッシュボアの場合だと“突進力はあるが、体格が小さく避けやすいため、駆け出し冒険者でも簡単に狩ることができる。肉は淡白で美味。”という説明が記載されている。
とりあえず、今まで出会ってきたモンスターをモデルにゴブリン・オーク・サンドアント・ザッピ―といった木工人形を作製していく。
一通り作り終えたら、細かい部分に間違いがないかしっかりと肉眼でチェックをし、問題ないと判断したものだけストレージに回収し、残りは処分するのももったいないので、適当な場所に飾っておいた。
さて、今回は娯楽を目的とした商品を作製したのだが、いつもならここで職人ゴーレムの出番となる。しかし、今回に限っては別の方法での量産を考えているのだ。
「俺がいなくなっても、商会としてやっていけるようにしとかないといかんからな。木工人形は無理でも、ぬいぐるみは商会で作らせた方がいいかもしれん」
そう、今回の量産方法は職人ゴーレムによる生産ではなく、グレッグ商会で雇っている従業員の手作りでの生産方法を取ることにしたのだ。理由としては先ほども言った通り、今のグレッグ商会の仕入れは俺が作る商品の納品にほとんど頼り切ってしまっている。この状況で、俺が突然いなくなってしまえば、グレッグ商会はほとんど機能しなくなってしまうのは目に見えている。そのため、ある程度グレッグ商会独自の生産ルートを確保しておく必要があると考えたのだ。
さっそく、グレッグ商会へと赴きグレッグに事情を説明する。すると、グレッグは複雑な表情を浮かべたと思ったら苦笑いを浮かべたあとこう切り出し始めた。
「そのことについては、俺も考えていたところです。このまま坊っちゃんに仕入れを任せっきりにしていては、坊っちゃんが何かの拍子にいなくなった時にダメになると」
「ならちょうどいい。今回販売する商品は、グレッグ商会の従業員で作製から販売までのルートを確立してもらう。材料の仕入れは、いつも通り俺からとなるが、いずれ材料の仕入れから販売までのルートの一連が整った状態の商品を取り扱ってもらうことになるから、そのつもりでいてくれ」
「わかりました。従業員への説明は、今日の営業が終わってからでいいですか?」
「そうだな、皆にはそう伝えておいてくれ」
それから一度自宅へ戻り、職人ゴーレムのメンテナンスとチェックをしたあと、グレッグ商会の営業が終わる夕刻を待って再び商会へと赴いた。
商会は相変わらず盛況で、俺がオラルガンドの英雄として名が知れ渡ってしまったことで、グレッグ商会のオーナーが俺であるということも知れ渡ってしまったので、さらに奴隷の従業員を増やすことになってしまった。
現在グレッグ商会の従業員はグレッグを入れて十三人体制にまで拡大しており、グレッグとナタリー姉弟以外すべて奴隷という状態になっている。
本来ならば、奴隷でない純粋な従業員も増やしたいところではあるが、他の商会の息の掛かったスパイが潜り込む可能性を捨てきれないため、新しく補充する従業員は奴隷限定となってしまっていた。
そのお陰もあって、他の商会に付け入る隙を与えることなく、有難いことにグレッグ商会の独壇場が続いている。他の商会もこの状況を指をくわえて見ていただけではなく、類似品を作って売り出してはみたものの、うちの販売する品と比べれば品質に雲泥の差があり、仕入れ値との折り合いからグレッグ商会の販売価格よりも高値で付けなければならず、今のところ類似品が出回っても売り負ける事態には陥っていない。
まあ、うちの場合仕入れ値がタダで、値を付ければ付けるだけその売り上げがそっくりそのまま利益に直結している。テレビゲームで例えるなら、お金を無限に得られる裏技を使って序盤から高額な武器や防具を買いまくって敵を倒していくようなものだ。それで負ける方が難しいというものだ。
「今日集まってもらったのは、次販売する商品について君たちに生産をやってもらうためだ」
俺の言葉に、従業員たちが騒めき出す。彼女らを代表して元商会勤めのモリーが質問を口にする。
「生産とは、何か作製するということでしょうか?」
「そうだ。今回君たちに作ってもらいたいものはこれだ」
そう言って、俺はストレージからデフォルメされたモンスターのぬいぐるみを取り出す。ぬいぐるみを見たほとんどの者が、そのぬいぐるみを見て「可愛い」という感想を漏らした。どうやらモンスターに対する忌避感は思ったよりもなさそうだ。
他にも動物をモチーフにしたぬいぐるみも取り出してみたが、こちらも当然受け入れられた。この反応なら、客に販売しても問題なさそうだ。
「今回はこのぬいぐるみを君たちに作製してもらいたい。とりあえず、最初は裁縫が得意な者が中心となって作業を進めていき、慣れてきたら裁縫があまり得意でない者に教えるという形で行こうと思うがどうだろう?」
「それで問題ないかと思います」
「じゃあ、まず裁縫が得意な者に作り方を教える。からよく手順を覚えてくれ」
そこから、ローランドのイケイケ裁縫教室が開催され、裁縫スキルを持っている従業員を中心にぬいぐるみの作製法を伝授していった。さすがに裁縫が得意な者だけあって、一、二度作っただけですぐに俺が作ったものと遜色ないぬいぐるみが量産されていった。
それから、裁縫が不得意な者にもぬいぐるみを作ってもらい、何とか全員が販売できる品質のぬいぐるみを作り出すことができるようになった。全員に教え終わったあとで解析で調べてみると、もともと裁縫のスキルを持っていた者はスキルレベルが上がり、持っていなかった者も新たに裁縫スキルが生えてきていた。
一応念のため、もう数日間は練習のためぬいぐるみを作り続けてもらうことにした。余談だが、一番最後にぬいぐるみが作れるようになったのはウルルだった。
最後にもう一つの木工人形だが、やはりというべきか女性陣には酷評だったが、男性陣には受けが良かったことを付け加えておく。
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