ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
113話「オルベルトたちに料理を振舞ったらいつの間にか大宴会に発展していた件」
「待っていたぞ坊主。さあ、約束どおり料理を食べさせてくれ!!」
冒険者ギルドに赴くと、まるで門番のようにギルドの入り口に仁王立ちで張り付いているオルベルトを発見した。どうやら、俺が冒険者ギルドに来るのを首を長くして待ち侘びていたらしい。
そもそもの話だが、オルベルトたちに商業ギルドの隊商の護衛を引き受ける依頼料として彼らに料理を振舞う約束をしていたのだが、どれだけ食べたかったんだよ……。
「わかった。じゃあ酒場のテーブルで待っててくれ」
今回は、自分のストレージにストックしてある分ではなく、実際に作ってみようと考えている。今まで作った料理はある程度貯め込んでいるのだが、彼らの雰囲気から食べ尽くされてしまうと判断したためである。
冒険者ギルドに併設している酒場の厨房を借りて、今まで作ってきた料理を作り上げ各々に振舞う。何故かギルムザック達も食べているが、そこは一緒に依頼を受けたということで目を瞑ることにしたのだが……。
「おう、こっちにもくれ」
「こっちもだ」
「こっちは三人前だ」
……あれれーおかしいぞぉー? なんか、他の冒険者たちのテーブルにも俺が作った料理が並んでいるんだが……。
「こっちにもくれ」
「おう」
って、お前かギルムザックぅぅぅうううう! お前は一体何をやってるんだ!? 俺が心の叫びを上げている間もギルムザックが他のテーブルに料理を配り回り、いつしか酒場全体が宴会場へと発展していた。
冒険者たちは、食べたこともない美味しい料理に舌鼓を打ち、その料理の美味さに酒が進み、あちらこちらでどんちゃん騒ぎが起こっていた。
当然他のテーブルに料理が配られるということは、本来配るべきはずのオルベルト達に料理が行き届かないというわけであるからして、彼らに料理が届くまで作り続けなければならないということだ。
作っては出し作っては出しを繰り返すこと数十分後、ようやくオルベルトのもとに料理が行き渡り始めたのだが、そこから地獄の始まりであった。
「美味い美味いぞ! おかわりだおかわりをくれ!!」
「こっちもおかわりー」
「こっちもだ」
冒険者というのは体が資本であるため、大抵の冒険者は大食漢である。過酷な環境下での依頼をこなさねばならないため、食べられるときに食べておかなければならないことも珍しくなく、常人よりも食べる量が多いのだ。
当然だが、食べる量が多いということはその分俺が料理を作る羽目になるため、今俺は料理を作り続けるというとてつもなく忙しい作業に追われていた。
(こんなに忙しいのは、前世の納期間近のプロジェクトを受け持ってた頃以来な気がする……)
今や圧倒的な身体能力を手に入れた俺だからこそ少しの疲れで済んでいるが、これが並の料理人であればあまりの忙しさにてんてこ舞いになっていることだろう。
ギルムザックの馬鹿が他のテーブルに料理を配り出してから、簡単に作れるステーキ類に料理を切り替えているのだが、それでも冒険者たちの胃袋に入るスピードの方が若干早く、押され気味になってきていた。
(くそぉぉぉおおおおおお! こうなったら……身体強化出力最大! 限界突破!!)
まさか魔族に使った全力コンボをここで使う羽目になるとは思わなかったが、その甲斐あってこちらが潰れる前になんとか冒険者たちの胃袋を満たすことができた。
「美味かった……」
他の冒険者たちが満腹で苦しそうな表情を浮かべる中、オルベルトだけが満足そうな顔で食後の余韻に浸っていた。どんだけ食いしん坊なんだよあいつ……。
まさかこんな大事になるとは思っていなかったが、それより驚いたのが俺が持っていたモンスターの肉の量である。モンスターを狩った死骸や素材のほとんどは、冒険者ギルドや解体場に納品していたのだが、肉などの食材はある程度ストレージに保管していた。
だが、蓋を開けてみると大食漢である冒険者たちの腹を満たしてもまだ余りある量が残っており、一体どれだけの量を保管していたのだろうと自分で自分に呆れるほどであった。
とりあえず、ちょっとしたハプニングがあったものの、オルベルト達との約束も果たせたので、結果としてはこれでよかったのだろうと自分を納得させた。
「はむっ……もぐもぐ。うーん、ローランドきゅんの料理うめー」
「……なんでお前が、ここにいるんだロリババア」
「いやー、結界の中にいるのも退屈になってきたところだったし、久々に外の世界に出てみようかと……」
「俺が誘った時は、そんなこと言っていなかっただろうが!」
一通り料理が終わり、休憩しようと一つのテーブルに腰かけたところ、そこに意外な人物がいたのであった。その人物とは、俺に戦いを教えてくれた師匠であり、つい最近まで一緒に寝食を共にしていたナガルティーニャだ。
なぜ彼女がここにいるのか、そしてしれっと俺の作った料理を食べているのかはこの際どうでもいいとして、なぜこいつが外の世界に出てきているのか、そこだけが疑問だった。
もともと、彼女は自分が生み出した不老不死の妙薬を飲んだことで不老不死となり、その薬を狙って権力者たちが押し寄せてくるのが嫌になってダンジョンの奥地に籠ったという経緯がある。
そんなナガルティーニャが、再び外の世界に興味を持つということは、何かが原因で世界の滅亡が迫っているなどというとんでもイベントが発動したのではないかと勘繰ってしまうのだ。
「で、なんでお前がここにいるんだ?」
「そんな邪険にしなくてもいいではないかー。お互い裸を見せ合った仲ではない――ふがっ」
「語弊がある言い方だなぁー。俺は見せたのではなく見られた。そして、お前の場合無理矢理に見せてきたの間違いだろ?」
「いだいいだいいだいいだい!! か、顔が……顔が潰れちゃうから! 潰れちゃうからぁー!!」
伝家の宝刀アイアンクローが、ナガルティーニャの顔に深々と決まる。だが、有効的なダメージには程遠く、すぐに外されてしまう。ちぃ、ゴキブリ並みにしぶとい奴め……。
「な、なあ師匠。その嬢ちゃんは誰なんだ?」
そんなやり取りをしていると、後ろから声が掛けられる。よく見れば、ギルムザック以下いつもの三人がこちらを見ており、ナガルティーニャが誰なのか聞いてくる。
「まあ、俺の師匠みたいなもんだ」
「師匠の師匠だって?」
俺の言葉にギルムザックが疑心暗鬼な視線を向けてくる。そうだよな、いきなりは信じられんよな。見た目が十六、七の少女が師匠だと言われても普通は冗談か何かだと思うだろう。だが、ギルムザックよ……。そいつは推定年齢四百年の俺よりも強い妖怪ババアなのだよ……。悔しいが、今の俺でも勝つことは不可能な人外の中の人外なのだ。
「ローランドきゅん? 何か変なことを考えてないかい?」
「ほらな?」
「え? 何が“ほらな”なんだ師匠?」
「……」
おっと、俺の心の声がギルムザックに伝わっていると思っていたが、どうやらそう都合良くはいかないらしい。まあ、心を読むなんてそれこそ妖怪くらいにしかできない芸当だからな。どっかのロリババアのようにな。
「……」
そんなどうでもいいことを考えていると、突然メイリーンがナガルティーニャに顔を寄せながら彼女の顔を覗き込む。唇と唇が触れるほどの距離までに近づき、とうとうそういう趣味に目覚めたのだろうかと思った瞬間、何かにはっと気づいた素振りを見せたと思ったらいきなり魔法をぶっ放した。
「【シャキードアイシクル】!」
「【フレイムウォール】!」
氷と炎の魔法が炸裂し、相反する二つの属性が打ち消し合った結果、きらきらとした幻想的な光景が目に映し出される。おいおい、お前ら建物内でなんて魔法を使いやがるんだ?
「やはりあなたは、私の打ち倒すべき敵のようですね……」
「ふっふっふっふっ、お前のような小娘に後れを取るほどまだ耄碌はしとらんよ」
お互いを牽制するように対峙する二人に他の冒険者たちは動くに動けないでいる。……一体何が原因でこうなってるんだ? こいつら確か初対面のはずだろ?
「先生の初めてはこの私メイリーンが頂きます!」
「いいや、ローランドきゅんの初めてはこのあたしにこそ相応しい!」
ああ、なるほど……そういうことか。つまり残念美人×残念美人=さらに拍車をかけた残念美人という方程式が成り立つわけだ。そして、今回の原因はどうやら俺にあるんですね……わかる、わかりますとも。
「死になさい! 【フローズン……】」
「その程度で! 【マキシマム……】」
「やめんか!!」
「げぼっ」
「ぶべらっ」
二人の謎の対抗心が頂点に達し、さらに強力な魔法を放とうとしやがったので、二人ともに頭にチョップを落としてやった。もちろん、死なない程度に加減してだ。
メイリーンが使おうとしたのは【フローズンブリザード】という氷魔法の中でも広範囲かつ高威力に位置する魔法だ。ちなみにそんな魔法を室内で使うとどうなるかは……言わなくてもわかるだろう。
一方のロリババアことナガルティーニャが使おうとしたのは、混沌魔法の中でも貫通力と一点集中に特化した【マキシマムレイ】という魔法で、所謂一つのレーザービームというやつだ。こちらの魔法も室内で使っていい魔法ではない。
「先生、何をするんですか!」
「ローランドきゅん、ちょっとひどくないかい!」
「やかましい! 二人とも正座しろ!!」
そこからは俺の説教が延々と続くことになったのだが、すぐに異変に気付いたギルドマスターのイザベラがやってきたことで、俺の説教は意外にも短い時間で終了となった。というのも、ナガルティーニャの姿を見た彼女が目を見開いて驚愕した表情を浮かべたかと思ったら、俺とナガルティーニャをギルドマスターの執務室に強制連行したのだ。
そして、ギルドマスターの部屋にやってくると、先ほどの態度とは打って変わって、イザベラが振り向き片膝を付いてナガルティーニャに平伏したのであった。
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