ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
112話「領主会見とギルムザック達の帰還」
「君が、オラルガンドを救ってくれた英雄か……」
俺が自宅で呑気にたまごサンドを作っている間に、ようやく魔族襲来関連の作業が一段落したとか何とかで、俺はオラルガンドを治める領主に呼び出しを食らっていた。
オラルガンドの領主は、シェルズ王国最大の迷宮都市というだけあって、公爵より一つ下の侯爵の位を持つ貴族が治めていた。
その名もマルビス・フォン・ベルモンゼッタと言い、見た目は四十代の温和な印象を受ける中年男性だった。まあ、第一印象がそういう風に見えるというだけであって、腹の中では何を考えているのかわからないのが人であるため、油断はしないつもりだ。
「改めて礼を言う。オラルガンドを救ってくれて感謝する」
「別にこの街のためにやったことじゃないから気にしなくていい」
「それでも、君がこの街を救った結果は変わらないさ。時にローランド君。君には王都に行ってもらうことになると思うからそのつもりでいてくれ」
やはりそうなるよな……。街一つを救っただけでなく、魔族という強大な存在を退けてしまうほどの人間をみすみす放っておくほど国王も馬鹿ではない。どういう人間なのか、一度その人となりを確認しておきたいというのが心情だろう。そして、こちら側に取り込めそうであれば、遠慮なく取り込んでしまおうとするのが大体のセオリーだが、そうは問屋が卸さないのが俺という人間だ。
とりあえず、こちらとしてもこの国の頂点がどんな人間なのか見極めておく必要があると以前から考えていたので、国王に会うこと自体は問題ない。仮に逃げたとしても、あらゆる手段を使って追いかけてくるだろうしな……。
「王都から手紙でも届いたのか?」
「いや、まだ届いてはいないが、魔族と互角に戦う人間を放っておくほど国王陛下は甘いお方ではない。早くとも半月後くらいには王城への召喚命令の旨が書かれた書状が届くはずだ」
「一応聞くが、拒否権はあるか?」
「ないな。あると思うか?」
マルビスの言葉に、俺は首を左右に振る。やはり会わねばならないようだな。
それから他愛のない会話をして、領主の屋敷を後にする。食事に誘われたが、用があるという体のいい理由を付けて辞退した。
マルビスは領主としては良心的な部類に入る人間だったらしく、俺を自分の手駒にしようだとか上手く取り入って利用してやろうという魂胆は一切なく、本当に礼が言いたかっただけのようだ。
貴族としてそれでいいのかと思いたくもなるが、俺としては面倒な勧誘がなかった分とても好印象に映っていた。
それからしばらくは、グレッグ商会の商品の生産とダンジョン攻略の続きを行い、そのサイクルを十二日ほど行ったところで、ギルムザック達がオラルガンドへと帰還した。
十二日後の朝、食事を済ませ日課のゴーレムたちのメンテナンスを行うため、工房に向かおうとしていた時に来客があった。
「師匠! 師匠こっちだ!!」
「ん? あれは、ギルムザック達か?」
自宅の門にいたのは、王都に向かう商業ギルドの隊商の護衛を指示したギルムザック達だった。門の前で立ち話もあれだと思い、家に招き入れ話を聞いてみた。どうやら、無事に王都にたどり着きそのままの足で依頼完了の手続きを済ませて、すぐに戻ってきたらしい。
「盗賊は出なかったのか?」
「出たけど、返り討ちにしてやったぜ!」
「まるっきり大したことなかったわよ?」
「右に同じく」
「先生、すごく簡単でしたよ?」
厄介な盗賊が幅を利かせているという話だったのだが、どうやら四人の前では脅威にならなかったようだ。まあ、盗賊自体が冒険者稼業ができなくなったり、食うに困って成り下がるものだから、強い盗賊という存在がいないというのもあるんだけどな。
盗賊の強さは、ギルムザック達と同行したオルベルトたちでも難なく対処できるレベルだったらしく、実質的にギルムザック達の出番はほとんどなかったようだ。
「それで……師匠。一個聞きたいことがあるんだが?」
「なんだ?」
「なんでそんなに強くなってんだよ!!」
「ああ?」
そういえば、ギルムザック達がオラルガンドを出発したのは、俺がナガルティーニャに出会って三年の修行をする前だったな。それにしても、よく俺が強くなったことに気付いたな。そのことを聞いてみたのだが、呆れるようなジト目でこう返された。
「そんないかにもな雰囲気を出しておいて、強くなってないと言い張れるわけないだろう! まるでドラゴンと対峙してるみたいだったぞ!!」
彼らもまたAランク冒険者だけあって、ある程度相手の強さが雰囲気で理解できるらしい。まあ、それくらいの力量がなければAランクなんてやってられないんだろうな。
「あ、そういえば俺もAランクになったから」
「「「「え?」」」」
それから、近況報告がてらにギルムザック達がいない間に起こった出来事をかいつまんで教えてやった。短期間で強くなったこと、魔族が襲来しそれを俺が撃退して英雄として祭られてしまったこと、などいろいろとである。
「魔族を撃退とか、もうめちゃくちゃじゃないか!」
「どうやって撃退したの!?」
「師匠がまた遠くなった気がします」
「さすが先生です!!」
それぞれがそれぞれの反応を見せる中、とりあえず話も終わったので、ギルムザック達は一度冒険者ギルドに行くことにしたようだ。しかし、その前にここでギルムザックが一つ爆弾を落としていきやがった。
「そう言えば、オルベルトが報酬の料理を早く食べさせてほしいとか言ってたぞ?」
「なに?」
「約束したんじゃないのか?」
確かに約束はしたが、実を言うと有耶無耶にしようと思っていたのだ。料理ってのは、食べるのはいいが作るのはすごく大変なものなのである。しかも、今回は依頼の報酬として支払うことになっているから、タダ飯を食わせてやることになっているのだ。
だが、一度約束してしまったことを反故にするのは、俺の評判にも関わってくることだから、今回は料理を振舞ってやることにするか……。
そう脳内で結論付け、オルベルトたちと合流するべく、ギルムザック達と共に冒険者ギルドへと向かった。
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