ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
111話「街の連中は英雄爆誕だと騒いでいたが、当の本人はマイペースに生きてます」
魔族襲来の一件から数日が経過した。オラルガンドの人々は、突然の魔族襲来にパニックを起こしていたが、今では落ち着きを取り戻している。この数日間でいろいろな出来事が起こり、俺としても戸惑いを隠せないでいた。
まずは、街の住人たちに俺の顔が知れ渡ってしまったことだ。魔族との戦いにより、俺の顔が街を守る兵士や冒険者たちの流した噂によって瞬く間に知れ渡り、今では外を歩けば英雄として声を掛けられない日はないほどだ。
街を救った当初は、冒険者たちのパーティー勧誘などがひっきりなしにあったが、今ではそれもなくなり元の冒険者生活に戻っている。しかしながら、人の噂というのは留まることを知らず、グレッグ商会のオーナーが俺だということもバレてしまい、商会にはさらにも増して訪れる客が増えていた。
元々販売している商品が好評だったことと、今回の英雄誕生の騒ぎが重なり、一日当たりのアクセサリーの生産量がとてつもないことになっていた。
特にシュシュの生産に関して言えば、多少お高い設定にしているにも関わらず、生産した分が一日で捌けてしまっているほどである。それに伴って、工房内のゴーレムの数も日増しに増加しており、今では工房で稼働中のゴーレムの数は百体を超えてしまっていた。
「【複製】、【複製】、【複製】、【複製】……」
さて、今俺が何を行っているのかというと、グレッグ商会で販売している商品の原材料となる素材の確保である。ここで、この世界における魔法と錬金術についての一般的な認識についての話をしようと思う。
一般的に魔法というのは、何もないところから火や水などといった自然的なものを生み出す不思議現象と捉えられており、端的に言えば無から有を生み出す術ということになる。
それとは逆に、錬金術はどうなのかというと、既に存在している物体に対し何かしらの工程を施す技術というのが一般的な認識であり、例えば鉄鉱石を鉄インゴットとそれ以外の不純物に分離させる精錬もそれに当たる。尤も、鉄鉱石から鉄インゴットを作製する作業は鍛冶でも可能なため、錬金術でしかできない技術という一点で見るのなら、元から存在する物体と同じものを作り出す【複製】の方がわかり易いかもしれない。
ナガルティーニャの結界内で習得した【錬金術・改】によって、【複製】という術を使えるようになり、元からある物体と同じものをコピーできるようになったのである。
某有名錬金術師漫画では、錬金術において無から有を生み出す場合、その生み出したいものと同価値のものを対価にしなければならない等価交換が基本とされているが、この世界では錬金術を使用する際に支払う対価は魔力または生み出すものに関連する素材のみで、仮に失敗したとしても特にペナルティなどはないため、気軽に使用することができるのだ。
そして、その複製を使って俺が行っている作業は魔石英の量産である。入手した魔石英の中でもかなり大きいものを選抜し、ただひたすら複製し続けている。ここ数日この作業を続けており、気が付いた時には【魔力回復速度上昇】というスキルが生えていた。
複製対象は魔石英・暗魔鉱石・ポイズンマインスパイダーの糸・鉄鉱石・銀鉱石・市場で購入した布生地類などなど多岐に渡る。一つ一つの複製する際に消費する魔力量は微々たるものだが、それが千や万単位となってくるとその魔力量も馬鹿にならない。
「ふう、辛くはないが面倒臭いなこれ……よし、これも自動化しよう」
そう言ってすぐさま【複製】のみを使用するゴーレムを複数体作製し、すぐさま彼らと交代した。これで魔力が続く限り、永遠に素材を量産し続けてくれることだろう。
すぐに魔力切れを起こさないよう、ナガルティーニャの結界から出た時に倒した深層域のモンスターの魔石にかなりの量の魔力を込め、魔力が切れそうになったらその魔石で魔力を補充するよう指示を出しておいた。
のっけからいろいろとやったが、今日はこんなことがやりたいのではなく、久々に何か新しい料理を作ってみたいと考えている。ここ最近、バカ貴族やら骨ドラゴンやら魔族やらと、面倒事のバーゲンセールが続いていたので、ここで自分のやりたいことをゆったりとしたマイペースな気持ちでやるべく、工房からキッチンのある自宅の屋敷へと移動する。
「では久々ですが、始めていきましょう! ローランドのイケイケクッキングのコーナー!!」
突然何かの番組のタイトルコールで始まったが、端的に言えばただ料理をするだけである。して、その料理とは……パンダ。……間違えた、パンだ。
実のところを言えば、今まで主食としていたパンはライ麦などで作った黒パンと呼ばれているもので、前世で食べていたパンとは比べ物にならないほど味が悪かったのだ。
特に歯ごたえに関してはとてつもなく固く、噛み切るのに結構大変な思いをしていた。それでも、黒パンにステーキなどの具材を挟むことでなんとか食べられる状態にしてきたのだが、今回その主食であるパン事情を改善していこと考えたのだ。
「本当なら米があると最高なんだが、まだ発見してないしな」
我ら日本人のソウルフードと言っても過言ではない米だが、現状では発見には至っていない。この世界自体に米というものがないのか、それとも存在はしているがこの世界では食べられていないのかわからないが、もし存在しているのなら是が非でも見つけ出したい。
しかし、現状で米を発見できていない以上、この世界での主食であるパンを改善させる方を優先することにしたのである。さっそく、パン作りを開始する。
「美味しいパンを作ろう~、生きてるパンを作ろう~……命懸けでは作らないけどな」
などと、どこかで聞いたことがあるようなフレーズを口ずさみながら、準備をしていく。まずは、柔らかいパンを作るためのパン種の作製だ。
パン種とは、パンを作る際に用いられる酵母菌が含まれたものであり、これを使うことでよく膨らんだ柔らかいパンができあがるのである。よく聞くのがイースト菌などだが、今回は果実を使った酵母菌を試してみる。
適当な瓶を煮沸消毒し、水分をなくすため乾燥させる。そこに水を適量入れ、その中に果物を投入ししばらく放置する。今回はりんごを使ってみることにする。
このまま放置すると三、四日は掛かるので、時間短縮のためにお得意の魔法で発酵した状態まで持っていく。時空魔法の上位である転換魔法を使い、発酵にかかる時間をスキップさせ、一瞬にして気泡が発生した状態……所謂発酵した状態に変化した。
これを布目が荒い生地などでこしていき、残ったりんごの一部もこしたものと一緒に入れておく。これでパン種に使用する酵母菌が完成する。
お次はパン種を作るための小麦粉の作製である。この数日で市場に行ってみた成果として、小麦が手に入ったので、さっそくこれも魔法を使って質のいい小麦粉に仕上げる。
「やっぱ魔法って便利だな」
前世の地球では、結構な手間が掛かっていた工程も、魔法一つでお茶の子さいさいとできてしまうことに感心しながらも、次の工程に移る。
木製のボウルに小麦粉と水、そして発酵させた酵母菌を加え魔法で時間短縮をし発酵を促す。発酵が完了する度に、小麦粉と水を追加してある程度の量を作っていく。
できあがったものを別の容器で保存しておく、これでパン種が完成したので、あとはパンを作る度にこれを使用するだけになる。
小麦粉に対し十分の一程度のパン種を加え、そこに水と塩と砂糖を加えてよく捏ね回し、魔法を使って一次発酵を促す。続いて、形を整えつつあらかじめ作っておいた底の厚い鉄製の四角い容器に生地を入れ、再び魔法で最終発酵を促す。
発酵が完了してしまえばあとはかまどで焼くだけだが、温度調整などが難しいためこれも魔法を使って焼き上げていく。最初の焼き上げはしっかり行いたかったので、三十分ほど時間を掛けた。
「上手に焼けました~」
三十分後、焼き上げが完了し容器から焼けたパンを取り出してみると、あのよく見かける四角い形をした食パンができあがっていた。一枚分を切り分け、さっそく食べてみることにする。
「ではいただきます。はむっ……もぐもぐ」
口に入れた瞬間、柔らかい食感と甘味が口の中に広がる。それは紛うことなき前世で食べた食パンであった。懐かしい食感と味に思わず、次の一枚に手が伸びてしまう。
「とりあえず、これでパン事情は改善されたな。次はこの食パンを使ってアレを作ろう」
そう呟くと、すぐにストレージから必要なものを取り出す。取り出したのは、なんと卵である。これも市場で入手したものだ。
まず卵を茹でるのだが、これも魔法で出現させた水を火の魔法で沸騰させ、そこに卵をぶち込むことで茹で上げる。十数分後、卵を取り出し殻を割ってみるとしっかりと火が通っている。そう、ゆで卵だ。
次にそのゆで卵を細かく刻み、塩と胡椒で味を整えたものを食パンに挟み込めば、みんな大好き【たまごサンド】の完成である。
「では、実食。はむっ……」
味の感想はどうかって? そりゃあ聞くまでもないだろう。それから、ある程度たまごサンドを量産しストレージにストックしておいた。時空魔法から転換魔法になったことで、ストレージの容量に制限が無くなっているので、これからはほぼ無限に物を収納することができる。最初の頃に魔法鞄で運用していた時代が懐かしい。
一通り食パンとたまごサンドを量産し終わると、外に配備しておいた警備用のゴーレムに反応があったので、リモートビュアリングを使って外の様子を窺ってみると、入り口付近に人だかりができていた。
どうやら、俺の作った食パンのいい匂いに釣られてきたらしいのだが、ゴーレムたちに阻まれてさすがに敷地内には入ってきてはいないものの、かなりの人数が押し寄せてきていた。
「次からは匂いに注意しないとな……」
次回の反省点を考慮しつつ、できあがったたまごサンドをハムスターのように俺はほうばった。
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