ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
閑話「動き出す闇」
~ Side ヘラ ~
「はあ、退屈だわ」
そう言いながら、わたしはため息を吐く。今現在、わたしは魔王城にある自室のベッドで横になりながら時が来るのを待ち続けていた。
あれから魔王様のお達しによって待機命令が出されてしまい、魔族の幹部たちは魔王城から外に出ることができなくなってしまったのだ。
かく言うわたしも魔族の幹部であるからして、当然魔王城から一本も外に出ることができず、やることといえばベッドで横になったりするくらいなのよね。
「ねぇ、アモン? 何か面白いことはないの?」
傍に待機しているわたしの側近アモンに問い掛けてみるが、返ってきた答えはいつもと変わらないものだった。
「今ので百九十九回目の“面白いことはないの?”ですよ? 僕の答えは変わりません。そんなものがあれば僕が教えてほしいくらいですよ」
相変わらず淡々とわたしに向かって歯に着せぬ物言いをするわね。まあ、そこが気に入って側近にしているのだけれど……。それにしても、本当に退屈だわ。
「うん? これは……」
「どうかしたの?」
いつも見せないアモンの様子に問い掛けてみると、返ってきた答えは実に興味深いものであった。
「外に出しておいた僕の使い魔の一匹が、やられたみたいですね」
「へぇー、それってすごいことじゃない」
わたしたち魔族は他の種族と比べると、その身体能力の強さもさることながら、魔力量もかなりのものを保有している。だからこそ、魔族というのはこの世界において上位の種族として君臨し続けてきたのだ。
使い魔とはいえ、そんな至高なる種族を屠る相手がいるということに些かの興味が湧くのは無理からぬことである。一体どんなやつが彼の使い魔を倒したのかしら。
「ですが、おそらく倒した相手はスカル・ドラゴンではないかと思いますよ? あの者には、スカル・ドラゴンの復活を任せておりましたから」
「なーんだ。結局はそういうことなのね……」
倒した相手の正体を知って、わたしの興味はすぐに霧散してしまう。我々魔族と対等に渡り合える種族の一つにドラゴン族という種が存在する。かの者らもまた力に秀でた種族の一角であり、我ら魔族とはあまり表立った対立こそないが、いずれ世界の覇権を握る魔族にとっては避けては通れない相手なのだ。
魔族と同等の力を持つドラゴン族であれば、使い魔程度であれば歯牙にもかけず寧ろ餌として食べてしまうだろう。
「ですが、些か気になる点があるんですよね」
「何がよ」
「本当にスカル・ドラゴンが僕の使い魔を倒したのであれば、今頃は復活した場所にある街に負のエネルギーが満ち溢れていてもおかしくないんです」
「でも、そんなもの何も感じないわよ?」
「だから、おかしいんじゃないんですかー」
わたしの問い掛けにジト目で返しながら、アモンが訝し気に考え込んでいる。確かに、スカル・ドラゴンが復活しているのにも関わらず、何も起こっていないのは不自然ではあるわね。
スカル・ドラゴンは太古に存在していた邪竜の中でも強大な力と負のエネルギーに満ちており、そのエネルギーを受ければ魔族とてただでは済まない。それほどまでの存在が、この世界に復活して大人しくしているということはわたしの目から見ても異常であると理解できる。
「確か、スカル・ドラゴンが封印されていたのって……」
「シェルズ王国の迷宮都市【オラルガンド】ですね」
「シェルズ王国ね……」
その国の名を聞いてわたしは顔を顰める。シェルズ王国は、わたしが時間を掛けて育ててきた計画が頓挫することになった場所であり、わたしにとってはあまりその国にいい思い出がないのよね。
そう言えば、あの国を去る前にわたしが手を掛けようとした坊やがいたけど、あの子元気でやっているのかしら? ま、今度会ったら確実に仕留めてあげるけどね。
「失礼いたします……ヘラ様、アモン様。魔王様が各幹部を招集致しました。急ぎ支度を済ませ、玉座の間へお越しくださいませ」
「まあっ、やっと待機命令が解かれるのね。これで退屈とはおさらばだわ!」
「ヘラ様……」
突然部屋のドアがノックされ、入ってきた者の口から魔王様の招集が掛かった旨を伝えられ、思わず顔を綻ばせる。それだけ、退屈してたってことなんだから、多少嬉しそうにしても問題はないと思うのだけれど、どうしてアモンは呆れた顔をこちらに向けているのかしら?
とにかく、魔王様が呼んでいるのであれば、幹部としてその声にお応えしなければならないわね。決して、退屈から逃れるためとかそんな個人的な感情から魔王様のところへいくわけじゃないんだからね? ちょっと、聞いてるのアモン?
そうと決まれば、すぐに支度をするためわたしは着ていた服をその場で脱ぎ捨て湯浴みの準備をする。最近はずっと部屋に籠りきりだったから、体が鈍ってたのよね……。しかも最近なんだか胸が成長期なのか、前まで着けていた下着がきつくなってきてたのよ。……今度新しい下着を買わないといけないわね。
そんなことを考えていると、アモンが慌ててわたしの体を隠そうとするのを気にも留めず、わたしは湯浴み場に向かう。別に見られて困るものじゃないから見られてもいいのに……。え? あなたが他の奴に見せたくない? やれやれ、わたしに対して執着の強い側近ですこと。
湯浴みを済ませ、魔王様に謁見するための服に着替えると、すぐに玉座の間へと向かう。巨大な造りとなっている魔王城を歩くことしばらくすると、玉座の間に通ずる大きな扉が見えてくる。
その扉を潜ると、他の幹部たちが勢揃いしていた。どうやら、わたしが最後だったようね。
「おい、ヘラ。随分と遅かったじゃねぇか? また、風呂にでも入ってやがったのか、おお?」
「うるさいわねグリゴリ。そんなことわたしの勝手でしょ」
「魔王様が招集を掛けたんなら、即座に行動するのが配下として当然だと言ってんだ。それとも、風呂に入らないといけないほどてめぇの体臭がきついってぇなら話は別だがな。ハハハハハッ!」
「へぇ、良い度胸してるわね。ここで死にたいのかしら?」
今わたしに喧嘩を売ってきているのが、幹部の一人であるグリゴリだ。こいつは見た目だけはいい男なんだけど、肝心の中身が残念という最悪の男だ。しかも、なまじ見た目だけはいいのとその実力も幹部だけあってわたしと同じくらいの強さをもっているから、他の女魔族にモテまくってるのよね。なんだか、釈然としないわ。
「いい加減にせよ二人とも、幹部同士の死闘はご法度であること、まさか忘れたわけではあるまいな?」
「「アスモデウス」」
わたしたちの剣呑な雰囲気を受けて、仲裁に入ってくる者がいた。その人物にグリゴリとわたしの声が、思わず重なってしまう。
この男はアスモデウスと言って、こいつも幹部の一人である。グリゴリとは違い、軽薄な男ではないのだが、その堅物な性格にわたしもグリゴリもあまり関わりたくはない相手なのだ。しかも、グリゴリと同じく女魔族に物凄くモテはやされ、こいつには六十六人の妻がいるのだ。
「けっ、ハーレム野郎がいちいち口を出してくるんじゃねぇよ!!」
「グリゴリよ、我は娶った妻すべてに平等に愛を注いでいる。その言葉は我だけではなく、我が妻たちに対する侮辱だ。取り消せ、出なければ……」
「ぐっ……ち、わかったよ。取り消す」
「それでよい。ヘラ、女の身支度に時間が掛かるのは理解しているが、貴様もいつでも魔王様の招集に応えられるよう前もって準備をしておけ」
「わかったわよ」
それだけ言うと、アスモデウスは所定の位置に戻って行った。ちなみに、アスモデウスとわたしたちの力関係はそれほど大差がないのだが、アスモデウスを怒らせるとしつこいので、いつもわたしたちが折れるという方向になってしまうのだ。そんな一幕があったあと、ようやく魔王様が玉座に現れ、幹部たちを招集した旨を伝えてきた。
「これより、我ら魔族はすべての国に対し宣戦を布告し、この世界を魔族の手によって統一させるための戦いを仕掛ける」
「おおー、ようやくこの時が……」
「我ら魔族の時代が到来するのですね」
「魔王様、万歳!!」
魔王様の言葉に、幹部たちも歓喜の声を上げる。そんな中、魔王様は一度幹部たちが静かになるのを待って命令を下した。
「手始めに各国の主要な都市を落とし、我ら魔族の世界統一の足掛かりにする。ついては各幹部には指定した国の都市を落としてもらおう。詳しい振り分けはヘカテーに一任してあるので、各々その役割を果たしてほしい。では、これにて解散とする」
それから、魔王様の側近ヘカテーによって幹部の振り分けが発表されたのだが、何の因果かわたしの振り分けられた場所はシェルズ王国のオラルガンドであった。
まあ、ちょうどいいわ。スカル・ドラゴンの一件のこともあるし、現地に行けば何かわかるかもしれないしね。
そんなことを考えながら、わたしはアモンと共にオラルガンドに向けての出陣の準備を進めるのであった。
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