ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

105話「ピンチの時に現れるのって、大抵の場合ヒーローだと思うけど、今回に限ってはマスコットが現れるらしい」



「こうなったら、アレを出すしかないようだな。よもや、こんなに早くお披露目になるとは思ってなかったがな……」


“こういう時のために、あらかじめ用意しておきました”などと言って用意周到に準備している人間がいるが、今回はたまたまだった。


 あれは、何かできないかと思い、今まで集めた鉱石を混ぜたりしていた時だった。なんと、偶然にも超合金ができてしまったのである。その名も【オリハルコン】というもので、その名前はファンタジーでもよく聞く有名な鉱石だったり合金だったりその位置付けは様々だが、一言で表すのなら“なんかめっちゃすごい素材”である。


 そして【ゴーレム生成】というスキルを所持している俺が、そんなめっちゃすごい素材を手にすれば何に使うのか……わかるよな?


「ロボレンジャーーーーーーゴーーー!!」


 ロボット物のアニメで聞いたことがあるような掛け声と共に、ストレージの中から例の物を取り出す。その見た目は黄金色に輝きを放つ巨大なゴーレムであった。


 大きさは三メートル半ほどで、どこにロボの要素があるのだと見た人が突っ込みたくなるようなほどにゴーレム然としている。


『ムー』


 そして、相も変わらず俺の作ったゴーレムの鳴き声は間が抜けている。この世界のゴーレムがそうなのか、それとも俺の作ったゴーレムだけがそうなってしまうのかは不明だが、とにかくこの緊迫した状況に似つかわしくないことは確かだ。


「ムー」

「プロト、少し予定よりも早いが試運転を兼ねて実践投入だ!!」


 地面へと足を踏みしめたロボレンジャーの顔部分が観音開きに開いたと思ったら、そこにはコックピットのような場所に鎮座するプロトの姿があった。ちなみに、プロトとロボレンジャーは生き物ではないため、ストレージに収納することが可能だ。


 正直言って、プロトの扱いについて現状マスコット的な要員でしか役に立っていなかったため、何かに使えないかといろいろと模索していたのだが、今回ロボレンジャーが作れたことによってそのテストパイロットとして起用してみることにしたのである。


 尤も、それだけでなく本人の強い希望もあってのことだが、試作として作られたロックゴーレムがパイロットとしてどれだけの能力があるのかは甚だ疑問だ。だが、ダメだったらダメで次の手を考えればいいという思いから、プロトをパイロットにしてみたのだ。


 ちなみに、ロボレンジャーの能力を解析で調べてみると、こういう結果が表示される。




【名前】:ロボレンジャー

【年齢】:なし(製造年数0年)

【性別】:不明

【種族】:なし(無機物)

【職業】:ロボット?


体力:80000

魔力:100000

筋力:SS

耐久力:SSS-

素早さ:SS+

器用さ:S+

精神力:S+

抵抗力:S-

幸運:SS+


【スキル】: ロボレンジャー・パンチ、ロボレンジャー・キック、ロボレンジャー・シールド、必殺【タートル・ハメ・ウェーブ】、超合金、出力調整、空中駆動

【状態】:稼働中(出力二十パーセント)



 ……以上である。いろいろと突っ込みたい部分があるが、今は説明している暇はない。だから、この一言で済ませよう……“ファンタジーだから!!”と。ファンタジーの世界に、特撮ヒーローものに登場するロボが出ている時点でもうね……。


「グオオオオ」

「ロボレンジャーよ、奴の動きを止めるんだ!」

『ムー』


 俺の指示に従い、中にいるプロトがロボレンジャーを操作し、スカル・ドラゴンの動きを止めるべく突進していく。スカル・ドラゴンよりも素早さのパラメータが高いため、奴の動きに追いつき動きを封じることに成功する。


「いっけぇぇぇえええー! 【ロボレンジャー・パンチ】」

『ムー』


 取り付いたロボレンジャーが、右の拳を振り上げスカル・ドラゴンの顔目がけパンチを繰り出す。いくら物理特化の体を持つスカル・ドラゴンといえど、オリハルコン合金製の拳を食らっては無傷という訳にはいかず、わずかに傷が付く。


 それを嫌ったのか、スカル・ドラゴンがロボレンジャーを振り払おうと暴れまわるが、圧倒的な耐久力の前にロボレンジャーはビクともしない。


「一旦離れろ! そこから【ロボレンジャー・キック】だ!!」

『ムー』


 足の底面部分にある噴射口からジェット噴射のように気流が吐き出されることで、空中に一度逃れたロボレンジャーがまるであのバッタをモチーフにしたヒーローのような颯爽としたキックをお見舞いする。


「ガアアアアア」

「いいぞ、効いてる効いてる」


 致命的なダメージはないものの、ロボレンジャー・キックのあまりの威力にバランスが崩れ、空中で体がもつれている様子のスカル・ドラゴンが、忌々しそうな声を上げる。


 こういう時、特撮ヒーローものでは軽快なBGMが流れているものだが、理由はわからないが俺の頭の中では暴れん坊な将軍が悪者を成敗している時に流れるBGMが流れていた。


 ロボレンジャーの見た目に将軍の要素は一切ないのだが、なぜそのBGMが流れているのかは皆目見当が付かない。しかしながら、不思議と今のロボレンジャーには合っている。


「グオオオオ」

「ブレスだ。【ロボレンジャー・シールド】!!」

『ムー』


“シールド”と呼称しているが、実際に盾が出現するわけではなく、ただ単純にロボレンジャー自身の体を盾として相手の攻撃を受けるだけという、所謂プロレスによくある“相手の攻撃は全部受けてみせる”の精神に則った技だ。


 これを技と呼称すべきかどうかはこの際置いておくとして、オリハルコン合金でできた体以上に現状耐久力がある材質が見つかっていないので、もし見つかることがあればちゃんと盾として持たせるつもりではある……。見つかればだけど……。


 それから、何度かスカル・ドラゴンとロボレンジャーの攻防が繰り広げられたが、お互いに戦況を動かすような攻撃を当てることができずにただじりじりと時間が経過していく。そして、そんな状況に嫌気が差したのか、先に動いたのはやはりスカル・ドラゴンであった。


「グウウウウウウ」

「マズイ、出力最大のブレスがくるぞ。プロトこっちに来るんだ。俺と協力してこっちも必殺技を使うぞ」

『ムー』


 俺の指示に素早く反応し、俺の隣にロボレンジャーが陣取る。ここからはお互いの必殺技に掛けた最後の戦いとなる。


「いくぞプロト。出力最大にありったけの魔力を込めるんだ」

『ムー』


 その構えは、七つ集めると願いが叶う玉が登場する漫画の主人公が、必殺技を放つときの構えに似ており、腰の辺りに両手を持ってくるような構えだ。


 そこから、体内にあるすべての魔力をその両手に集中させ、真っ白な玉を作り出していく。相手のスカル・ドラゴンもこちらの攻撃に気付いているが、自分も今から最大の攻撃をしようとしているため邪魔をしたくても邪魔できないことを悟り、自分の攻撃に集中している。


 ロボレンジャーと俺の手の中に集まった魔力が形となり、巨大な玉が完成する。その玉が完成すると同時に、スカル・ドラゴンの攻撃の準備が整ったようで、こちらに向かって最大級のブレスを放ってこようとしていた。


「いくぞプロト。必殺【タートル……ハメ……ウェぇぇぇぇぇぇええええーブぅぅぅぅぅうううううう】!!!」

『ムー!』


 もう、お気づきだろう。その必殺技は、体内にある魔力を一点に集中させ、それを一気に放出させるという例の漫画に登場する主人公の必殺技と同じ原理の技なのである。タートル・ハメ・ウェーブ……日本語でかめはめ……こほん、これ以上はやめておこう。どっかから怒られそうだ。


 俺たちが【タートル・ハメ・ウェーブ】を放つと同時に、スカル・ドラゴンも自身の最大の攻撃であるブレスを放ってきた。二つの巨大な力がぶつかり合い、その力がまるで手押し相撲のように拮抗する。


 少しでも気を抜けばすべて持っていかれそうな感覚に襲われながらも、これを失敗すれば何もかもが終わってしまうと自分を鼓舞し、プロトに向かって叫ぶ。


「プロト! 力(りき)が足んねぇぞ!! もっと力を出せ!!」

『ム、ムー!!』


 そう叫んでいる間にも、均衡が崩れ始める。スカル・ドラゴンのブレスが俺たちのタートル・ハメ・ウェーブを押し始めており、俺たちに迫って来ていたのだ。押し返そうとするが、もう既に最大出力で出している以上これ以上の余力は残っていない。


 徐々に奴のブレスが迫ってきており、そのブレスが眼前と迫ったその時、ここでスカル・ドラゴンのブレスの威力が弱まったのだ。いかに強大なスカル・ドラゴンといえど、自身のすべてを賭けた最大級の攻撃に掛かる負担は想像を絶するものであり、スカル・ドラゴンのブレスに一瞬の綻びが生じたのである。


「今だ! はぁぁぁぁあああああああ!!!」

『ムー!!!』


 その一瞬の隙を俺が見逃すはずもなく、勝負とばかりに本当に本当の全力で魔力を放出させる。今まで拮抗していたのが嘘のようにブレスが押され出し、ついにはスカル・ドラゴンの体をすべて覆いつくしてしまうほどの魔力の奔流が奴に襲い掛かる。


「グアアアァァァァァ」


 苦痛を伴った叫び声を上げながら、ついにはダンジョンの壁にまで吹き飛ばされたスカル・ドラゴンはタートル・ハメ・ウェーブを浴び続ける。一点に凝縮された魔力がスカル・ドラゴンの体を溶かし始める。何とかそこから脱出しようとするも、そのあまりの威力に逃れる術はもはや皆無である。


 ついにその攻撃に耐えきれず、最後に断末魔の叫びを上げながらスカル・ドラゴンが消滅してしまったのである。この時、かつてないほどになかった激闘の決着に終止符が打たれた瞬間であった。


「勝った……のか?」

『ムー、ムー!』


 一瞬状況が飲み込めずに呆けた顔をしてしまったが、すぐにこの戦いに勝利したことを理解すると、年甲斐もなく拳を天に突き上げ大きく叫ぶ。ああ……そういえば俺、まだ十二歳だったわ。


「勝ったぞー!!」

『ムー!』


 厳しい戦いに勝ち抜いたことをプロトと共に分かち合う。この世界で今まで生きてきた中で一番の激闘を生き抜いたことに喜びを噛み締める。


 だが、状況的にはあまり油断していい状況ではなく、すぐにここから脱出した方がいいと判断し、ロボレンジャーをプロトごとストレージに収納し脱出しようとしたのだが……。


「あ、あれ?」


 突如として、視界がぐにゃりと歪み体に倦怠感が襲ってくる。おそらく、魔力を使いすぎたことによる魔力切れを起こしてしまっているようだ。


「く、くそ! こ、このままでは……」


 なんとか立ち上がって脱出しようと試みるも、襲ってくる感覚には逆らえず、ついには地面に倒れ伏し意識を失ってしまったのであった。

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