ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

103話「激闘……はいいのだけれど、いきなり激しいのは勘弁してほしい」



「ふんっ」

「ぐはっ」


 魔族の激しい攻撃を、咄嗟に両腕をクロスさせることで防御する。しかしながら、その衝撃を殺すことはできずそのまま吹き飛ばされてしまう。


 吹き飛ばされた先にある岩石にぶつかることで、ようやくその勢いがなくなるものの、その衝撃により肺の中の空気が吐き出されてしまった。


「グハハハハ、下等なる人間よ。すぐには殺さんぞ。袋叩きにしてくれるわ」

「ぐっ……」


 なんとか態勢を立て直すべく、体を起こすもののすかさず魔族の攻撃が飛来する。なんとか体を投げ出すことで、その攻撃を回避するが相手の攻撃の勢いは止まることを知らない。


 奴の言った通り、嬲り殺すように袋叩きにするのだろう、致命傷ではなく確実にダメージを与える攻撃を仕掛けてくる。


「がっ、ぐはっ、うっ、うごっ」

「グハハハハ、いいぞ苦しめ、もっと苦しめ」


 嘲笑と侮蔑の入り混じった感情を浮かべながら、こちらを弄ぶかのように攻撃を加えてくる。俺はそれを時には紙一重で躱し、時には最小限のダメージで済むようガードする。


「お、お前の目的は一体なんだ!?」

「グハハハハ、いいだろう。冥土の土産に聞かせてやる」


 冥土の土産、くれるんだ。……おっと、思考が変な方向に逸れてしまった。いかんいかん、目の前の相手に集中せねば。


「我がこのダンジョンに赴いたのは、ある方から極秘の任務を賜ったからだ」

「その任務とは?」

「死に逝く貴様が、それを知る必要はない。……もう飽きた。これで止めを刺してやる。死ぬがいい!!」


 そう言って、目にも止まらぬ速さで俺に接近すると、全力の拳を俺の顔面目がけ突き立ててきた。……やれやれ、もっとくれてもいいだろうに、冥土の土産。


「なっ、なに!?」

「やれやれ、ちょっとばかし守りの練習をしていれば、調子に乗りやがって。おら、歯食いしばれや!!」

「ごふっ」


 もう守りの練習はこれで終了とばかりに、突き出された拳を片手で受け止める。自身の全力の攻撃を受け止められたことに動揺した魔族の顔面に、返す刀で今までのお返しとばかりに拳を叩きこんだ。


 いきなりの不意打ちにもろに顔面に食らった魔族の体が、宙に投げ出される。吹き飛ばされた道中になる木々や岩をなぎ倒し、何度も何度も地面に叩きつけられながらようやくその勢いが弱まり停止する。


 しかし、受けたダメージはかなりのもので殴った顔は腫れ上がり、体中が傷だらけになっていた。だが、それでも致命傷には程遠いらしく、すぐさま起き上がった魔族が怒りの表情で叫ぶ。


「貴様ぁぁぁああああああ」

「なんだ? 男のくせに顔を殴られるのは嫌だったか?」

「死ねぇぇぇえええ【ヘルズフレイム】!!」

「だが断る! 【シャキードアイシクル】!!」


 圧倒的な炎の奔流と、そしてこれまた圧倒的な氷の奔流がぶつかり合う。炎と氷の関係上炎に分がありそうだが、そこに術者の魔力の差が如実に表れる。炎に飲み込まれるはずだった氷が逆に炎を飲み込み、術者の敵対する相手に襲い掛かる。


「ちぃ」


 煩わしそうな舌打ちをしながら、背中から漆黒の翼を生やして宙へと難を逃れた。……こちらも舌打ちしたい気分である。


 危機を脱した魔族が、焦ったような非難するような叫び声を上げながらこちらに語り掛けてきた。


「き、貴様ぁー! 先ほどの戦い手加減して戦っていただろう!?」

「ああ、ちょうどいいサンドバッグが目の前に現れたんだ。試さない手はないだろう?」

「よくわからんが、とにかくこの我を愚弄するとはいい度胸だ!」


 どうやら、サンドバッグの意味がわからなかったらしい。そりゃあこの世界にボクシングなんてスポーツはないだろうしな。それでも、こちらが馬鹿にしていることだけは伝わったようだ。


「いいだろう。少し予定が早まったが、目にものを見せてくれるわ。【シャドーゲート】」


 そう言い放った魔族が、魔法を唱えるとブラックホールのような暗い渦が出現する。おそらく転移系の魔法なのだろうが、尻尾を巻いて逃げる気なのか?


「そこで待っていろ! 今すぐにあれを復活させて、地獄を見せてやるからな。グハハハハ!!」

「なんだというんだ」


 そう捨て台詞を吐きながら、魔族が渦の中に消えていく。逃げたのだろうかとできるだけ広範囲に索敵スキルを広げてみると、どうやら下の階層のダンジョンに逃げていたらしい。


 その程度でこの俺から逃げられると思っているのだろうか? まあ、それはそれとして話が違うと思っている人のために説明しておこうと思う。


 先ほど戦っていた魔族の強さの感想として、俺は“無傷で倒すのは難しい”と言ったのを覚えているだろうか? そう、無傷で倒すのは難しい……ただし、その比較対象がゴブリンやスライムなどの低ランクモンスターと比べてという注釈がつく。


 そして、現在の俺のステータスをご覧いただこう。これだ……ワン・ツー・スリー。



【名前】:ロラン(ローランド)

【年齢】:十二歳

【性別】:男

【種族】:人間

【職業】:元領主の息子・冒険者(キング狩り・Bランク)


体力:25000

魔力:40000

筋力:S+

耐久力:S+

素早さ:S+

器用さ:S+

精神力:S+

抵抗力:S+

幸運:S+


【スキル】


 解析Lv6、身体強化・改Lv7、索敵Lv6、隠密Lv5、魔道の心得Lv7、四元素魔法Lv6、上位属性魔法Lv4、

 霧魔法Lv8、嵐魔法Lv5、木魔法Lv4、砂魔法Lv4、光魔法LvMAX→聖光魔法Lv2(NEW)、闇魔法LvMAX→漆黒魔法Lv2(NEW)、時空魔法Lv6、

 真・剣術Lv5、真・格闘術Lv5、集中LvMAX→超集中Lv1(NEW)、スキル習得率アップLv7、スキル熟練度アップLv7、成長率アップLv5、分離解体Lv7、

 威圧Lv6(NEW)、ゴーレム生成Lv4(NEW)、掃除Lv5(NEW)、裁縫Lv4(NEW)、料理Lv3(NEW)、洗濯Lv4(NEW)、錬金術Lv3(NEW)、鍛冶Lv2(NEW)、宝飾Lv4(NEW)


【状態】:空腹(小)




 まあ……これで負ける要素ないよね?


 まずはパラメータ関連からだが、あれから体力と魔力が大幅にアップしている。日ごろから鍛錬は怠ってはいないのだよ……。だが、それ以外のパラメータが軒並みS+でストップしてしまっている。何かしらの条件を満たすことで、さらに上のパラメータでもあるのだろうか?


 次に、スキルに関してはあれから時間が経ったこともあって、かなりレベルアップしている。魔法関連のスキルについては、光と闇がそれぞれレベルMAXとなり、上位魔法の【聖光魔法】と【漆黒魔法】に進化した。【集中】も【超集中】へと進化したことで、これからの作業効率も上がってくるだろう。


 そして、新たに生えてきたスキルだが、そのほとんどが家事系スキルなのが何とも言えない。まあ、前世では一般男性よりも家事はできた方だが、決して得意とは言えなかった。それが関係しているのかは不明だが、今までスキルとして生えてこなかった具体的な要因を挙げるのなら、そのあたりではないかと踏んでいる。


 アクセサリー作りが経験となって表れているのか【ゴーレム生成】・【裁縫】・【錬金術】・【鍛冶】・【宝飾】の生産系スキルも新たに生えてきていた。


 そして、最後に現在の俺の状態は、どうやら小腹が空いているらしい。まあ、あれだけ激しく動けば小腹の一つも空くだろうとは思うが、この締まらない感じは俺らしいといえば俺らしいのか……?


「とりあえず、何か食べるか」


 そこは“逃げた魔族を追っかけるべきでは?”だと思うだろう? ノンノンノン、よく言うではないか。腹が減っては戦はできぬと……。


「それに、何か復活させるみたいだろうから、そのための準備が必要だろうしな」


 相手の切り札が出る前にやっつけてしまうなど、そんな不義理が許されると思うのだろうか。考えてみてほしい、特撮ヒーローが巨大化する前の怪人をいきなり巨大ロボで踏みつぶすという行為の萎え具合を。ライトノベルの作中に、物語とは一切関係のない内容で作者がコメントを載せている物語を。……うん? ブーメラン? 何を言っているんだ?


 場合によっては、事前に阻止しなければならないものもあるにはあるが、今回は待ってあげるべきタイプのシチュエーションだと判断した。故に、今から俺は料理をしようと思う。


「てことで、ローランドのイケイケダンジョン飯のコーナー!」


 さあ、突如としてシリアスからコメディーにジャンル展開があったが、ひとまず料理を開始しよう。議題は“小腹を満たせるお手軽料理”だ。


「お手軽料理と言えばこれしかないでしょ」


 今回のお手軽料理は、以前作った料理に近いがサンドイッチを作ろうと考えている。現在、植物性の油が入手できていないため、揚げ物ができないのである。それがあれば、じゃがいもがあるからフライドポテトやポテトチップスが作れるのだが、今回はサンドイッチで我慢しよう。


 まず、レタスときゅうりを切り、適当な大きさに切り分けたパンに挟む。これでレタスときゅうりのサンドイッチの完成なのだが、これだけでは味気ない。そこで、登場するのが肉である。


「今回は軽めにしたいから、サッピーの肉を使おう」


 以前ダンジョン攻略で出会った鳥型のモンスターであるサッピーの肉を使い、サンドイッチの具材としていく。まずサッピーの肉を熱したフライパンで加熱していく、いい感じに火が通ってきたらそこに砂糖と少量の水を加え甘いタレを作っていく。ある程度タレが馴染んできたら、そこに刻んだしょうがとにんにくを加えていき、さらにタレを肉に絡ませていく。できたものをレタスときゅうりを挟んだサンドイッチに加えれば、完成である。


「サッピーの甘ダレレタスきゅうりサンドってところか……。では、いただきます。はむっ」


 味の感想としては、なかなか美味かったのだが、一つ困ったことが起こった。これは小腹を満たせるというよりも、ほとんど主食になってしまっていることに気付いてしまったのだ。


 そのことに気付いたのは、出来上がったサンドイッチをすべて平らげてしまった後だったが、とりあえず小腹は満たせたので細かいことは気にせず、ようやく逃げた魔族を追うことに意識を向けるのであった。

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