ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

102話「一難去ってまた一難って言うけど、そういうのは物語の中だけにしてほしい……」



 グリーディー伯爵……もとい、トロール親父襲撃事件から三日が経過した。グレッグ商会の経営も順調で、確実に売り上げを伸ばしている。


「ただ、売り上げが増える毎にゴーレムたちの生産数も上がっているんだよなー」


 たくさんの物が売れれば、その商品の評判が広まっていき、その評判を聞きつけた人が商品を買い求める……それは、至極当然のことだ。いいものだと聞けば誰でもその商品が欲しいと考えるのは当たり前のことだし、商品を扱う店にとっては有り難いことでもある。


 だが、どんなものにも限度というものがあるのだ。いくら売れ行きがいいとはいえ、連日行列ができるなど誰が考えたことだろう。特にトロール親父襲来事件があった翌日は、その日訪れることができなかった客が列を成し、凄まじいことになってしまったのだ。


 焦った俺は、各職人ゴーレムの生産ラインを一本増やすことで対応したのだが、それでもぎりぎり足りているというレベルのものでしかなく、さらに一本ラインを増やそうとここ数日鉱山で魔鉱石の採掘に勤しんでいる。


「そういえば、今日はあいつらの出立の日だったな」


 あいつらというのは、他でもないギルムザック達だ。商業ギルドに納品した、宝石を使った指輪を王都のオークションに出品するため、その護衛として彼らを派遣することになっているのである。今日はその王都に向けて隊商が出立する日なのだ。


 厄介払いができるとはいえ、間接的に俺が彼らに依頼したようなものなので、見送らないわけにはいかない。面倒だが、出立に立ち会わなければならないのだ。


「ま、見送るだけだから何も問題は起こらんだろう。それに渡すものもあるしな」


 そう言いながら、家の戸締りをして門へと向かう。実のところ、また新しい商品を開発中で昨日あたりに試作品ができたのだ。


 門に到着すると、早朝にも関わらず多くの見送りが来ていた。その中に、商業ギルドのギルドマスターであるキャッシャーの姿もあり、この隊商が気の入れようが窺える。


「皆さん、気を付けて行ってきてください」


 キャッシャーの言葉に隊商からは“おー”という大きな声が木霊し響き渡った。俺は目的のギルムザック達を探し、彼らの姿を見つけたので近寄って行く。


「よう、準備はできているようだな」

「先生、来てくれたんです――ばふっ」

「まあ、お前らなら問題ないだろうが、油断だけはするなよ。それと、これは餞別だ」


 相変わらずのメイリーンの奇襲を躱しながら、彼らに餞別を渡す。それは、新しく作製したアクセサリーだ。今回は銀鉱石を精錬し、銀インゴットにしてからアクセサリーに加工しており、所謂一つのシルバーアクセサリーというやつだ。


 ギルムザックにはドックタグに模したネックレスを、アキーニには剣型に加工したイヤリングを、アズールには鍵のレリーフをあつらえた指輪を、そしてメイリーンには革製の紐に杖の形に加工したチョーカーをそれぞれプレゼントした。


「これは……いいものだな」

「凄くかっこいいじゃないか!」

「アズール、私のチョーカーとその指輪交換しませんか?」

「嫌だよ」


 ギルムザック、アキーニ、メイリーン、アズールの順にそれぞれアクセサリーについての感想を述べる。やはり、この世界でも指輪というのは特別なもののようだ。次から女性に指輪を送るのは気を付けた方がよさそうだな……。


 そんなことをしていたら、いよいよ出発の時間が来てしまったので、四人を激励しそのまま別れた。俺が声を掛けたもう一組の冒険者パーティーであるオルベルトたちとも挨拶を交わし、商業ギルドの隊商を見送るミッションは完了した。ちなみに、オルベルトたちにも餞別として何か渡そうかと思いヘアピンやシュシュなどを渡してみたのだが……。


「おいらは、こんなのよりも食べ物がよかったな」

「じゃあ、あんたの分あたしがもらってもいい?」

「あ、ずるい。わたしにも分けなさいよ」

「……俺もどちらかといえば、坊主の作った料理がいいのだが」


 これである。男性陣と女性陣で大きくリアクションが異なっていて、わかりやすいといえばわかりやすいのでいいのかもしれないが、花より団子とはよく言ったものだ。しかも、渡したアクセサリーは女性陣が必要ないと言った男性陣の分も独り占めしていた。それでいいのか男性陣よ……。


 とにかく、これで厄介払いができたことに安堵のため息を漏らすと、グレッグ商会へと足を向けた。開店前の商会の前には長蛇の列ができており、店が開店するのを今か今かと待ち構えていた。すごい数だな……五十人以上はいるぞ。


 裏口に回り込み、今日の分の商品を納品するといつものようにダンジョンへと出掛けた。久々のダンジョン攻略である。


 あれ以降、店の在庫を確保するために一時的に攻略をストップして十階層の素材をひたすら回収し続ける作業をしていたため、実質的にダンジョンの攻略は今日から再開となる。


「素材回収もある程度自動化できているし、今日は十八階層から行ってみよー!」


 そう、十八階層からである。うん? 十六階層からではないのかって? ……てへぺろ。


 というのは冗談で、確かにダンジョン攻略を主目的とする戦いは今日からなのだが、言っただろう? 実質的だと。つまり、ちょこちょことダンジョン攻略自体は進めてきており、それが積み重なった結果現在十八階層からの攻略となっていた。


 十六、十七階層はどうだったのかというと、至って普通のダンジョンで特に苦戦することなく攻略できたためあまり印象に残ってはいない。強いて言えば、十六は沼地の階層で十七は樹海の階層だったとだけ表記しておこう。


 来たる十八階層だが、ここもどうやらあまり特徴的なものはなく、フィールド自体は何もない荒野が続いている。すぐに突き進み初見以外のモンスターはガン無視した結果、すぐにボス部屋に到達してしまった。


 であれば肝心のボスだが、ビッグホーンバッファローという牛型のモンスターで、ワイルドボアと同じく猪突猛進タイプのモンスターだったため、近づかないように魔法で遠距離攻撃を仕掛けていたら、完封してしまったのである。……てか、こいつの下位種はどこにいたんだ?


 さてさて、そんなことも気にせず十九階層にやってきた。なんだか、最近攻略していなかったからついつい気合が入ってしまい、一階層当たりの攻略ペースが上がっている気がする。


 十九階層のフィールドは、最初から洞窟タイプのエリアが続いており、スタンダードなダンジョンが続いている。出現するモンスターは、今まで登場したモンスターを三匹から五匹のグループに纏めた感じだ。例を挙げれば、ゴブリン三匹のグループもあれば、ウルフ・ダッシュボア・スライム・ゴブリン・オークといったごちゃ混ぜなグループも存在する。


 洞窟タイプのダンジョンの厄介なところは、道自体が一本道となっているため、モンスターとの戦闘を避けては通れないところだろう。そして、ある一定の広さしかないため罠にも掛かり易い。


 群れるモンスターと罠に注意しながら進んでいくと、いつの間にかボス部屋へとたどり着いていた。十九階層といっても、出現するモンスターは量は多いが代り映えのしない相手であるため、苦戦することなく進むことができていた。寧ろ罠の方が少々厄介だったくらいだ。


「さて、十九階のボスは誰だ?」


 ボス部屋に入ると、待っていたのはモンスターハウスだった。今までのボス部屋よりもかなりの広さがあり、そこには多種多様なモンスターがひしめき合っていた。中にはオークなどのCランク帯のモンスターも入り混じっており、並の冒険者であれば迂闊に手を出せない状況に陥ったことであろう。そう、並の冒険者であればだ……。


「まずはこれでいこう。【ロストオキシジェン】」


 自分の周囲以外の空間を除いて、ボス部屋すべての酸素を失わせる魔法【ロストオキシジェン】を発動させる。すると、肺呼吸を主要としている獣系や人型系モンスターが瞬く間に倒れていく。残った個体は、肺呼吸を必要としない昆虫系やスライム系などのモンスターだ。


「次はこいつだ。【マルチプルウインドカッター】」


 いくつもの風の刃が生成され、生き残ったモンスターたちに襲い掛かる。的確に急所を切り裂いていく風の刃は、まさに弾幕という表現が相応しい。だが、これでもまだ生き残っている個体が存在している。その個体は、Cランクのロックタートルや同ランクの固い体を持つモンスターが生き残っているようだ。


「カメはなんで生きてるんだ? あいつ肺呼吸じゃなかったっけ?」


 そう思ったが、おそらく呼吸ができなくなった時に、甲羅の中に頭を引っ込めて甲羅内の残った酸素で生き残ったのではないかと推察する。


「まあいい、どのみちこれで止めだ。【ライフイジェクション】」


 最後に生物の生命そのものを体外に放出する魔法を使って生命力そのものを失わせ、とうとうまともに立っているモンスターがいなくなってしまった。


「うん、すごく回りくどいやり方だったな。だが、使ったことがない魔法の効果を確認する作業としては十分な成果だった」


 そう、ただ単純に討伐するだけであれば、それこそ俺がよく多用している【アイスミスト】という魔法で十分事足りる。しかし、未だに使ったことのない魔法というのは結構あるので、これを機に効果のほどを確認したかったのである。


 結果として、どれも強力な効果を生み出す魔法だったが、その中でもライフイジェクションは相手の体の固さ関係なくダメージを与えられるので、使い勝手がよさそうだ。


「うし、これで十九階層も攻略完了だな」


 死屍累々と化した光景を目の当たりにしながら、何事もないかのように呟く俺だが、もはやモンスターの死骸如きで狼狽えるようなやわな精神は持ち合わせてはいないのである。


 モンスターの死骸をストレージに収め、十九階層攻略の証として転移ポータルを解放し、いよいよ節目となる二十階層に突入する。


 二十階層に突入してすぐに異変に気付いた。俺の索敵に大きな反応があったからである。そして、肉眼でもそいつを確認し、すかさず解析で相手の能力を調べた。




【名前】:ガルヴァトス

【年齢】:180歳

【性別】:男

【種族】:魔族

【職業】:使い魔(主:マモン)


体力:8900

魔力:11000

筋力:A+

耐久力:A

素早さ:A-

器用さ:A

精神力:A+

抵抗力:A-

幸運:A-


【スキル】: 身体強化Lv8、索敵Lv1、気配遮断Lv9、魔力制御Lv7、魔力操作Lv6、

火魔法Lv7、水魔法Lv6、風魔法Lv7、土魔法Lv6、炎魔法Lv4、氷魔法Lv5、雷魔法Lv5、

大地魔法Lv4、闇魔法Lv9、剣術Lv7、格闘術Lv8、集中Lv4、飛翔Lv5、威圧Lv4、魔法耐性Lv3、

毒耐性Lv4、幻惑耐性Lv3

【状態】:なし



 なん……だと? いきなりの強敵じゃないか! どうなってるんだ!?


「グハハハハ、また愚かな人間がやって来たわ」

「何者だ?」

「この姿を見てわからんのか? やはり、人間とは愚かな存在だな」

「……」


 どうやら、ある程度の対話はできるようだが、好意的でないらしい。まあ、魔族にとって人間は蔑みの対象となっているようだから、まともに相手をする魔族の方が珍しいのだが……。


 さあ、どうしよう。こいつマジで強いぞ。今まで出会って来た中でもトップクラスの強さを持っていやがる。ちなみに一番は、あの女魔族だ。


 まともにやり合って、無傷で倒せるかと言えば正直難しいだろう。可能であれば戦いたくはないが、奴の雰囲気が戦いを避けては通れないことを物語っている。


「何が目的だ?」

「それを知る必要はない。なぜなら、お前はここで死んでしまうからだ!!」


 くそう、やはり戦いは避けられんか……。こういうときによく言うセリフとしては月並みだが敢えて言ってやる。……殺るしかないのか。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品